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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第130回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
衛霊公十五の十五~十七
 
衛霊公十五の十五
 
『子曰、不曰如之何之何者、吾末如之何也已矣。』
 
孔子曰く、「どうしたらよいでしょう、どうしたらよいでしょう、と言わない者は、私にもどうしようもない。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国企業は、国有企業はもとより、私有企業にも共産党委員会がある。最近は委員会に、どうしたらようでしょう、とお伺いを立てるケースが増えた。オンライン教育業界の壊滅や、不動産業界への融資規制などを見るまでもなく、国策に寄り添わなくては生きていけない時代となった。最近は、小売業界でも、極端な販促活動を控えている。昨年の双11(11月11日独身の日セール)では、成約総額の発表を控えた。初めてのことだった。今年の618セールも同様だった。
 
(サブストーリー)
 
618セールとは、大手通販、京東(1998年6月18日設立)、が毎年開催する創業記念セールである。2009年11月11日、アリババが独身の日セールを成功させると、京東は負けじと2010年の618に、当時として考えられる限りのアイデアを投入した。商品コメントに対するポイント付与などを初めて取り入れた。翌2011年には、3~5割引きの“史上最大のセール”を仕掛ける。こうして現在の618の基礎が形作られていった。上半期に他のビッグイベントはなく、同業各社もこれに便乗すようになり、ますます大きなセールとなった。
 
今週、アリババは当たり障りのないデータを公表した。それによれば、305のブランドが1億元を突破、256万の参加店舗が、昨年の売上を上回った。300万以上の新ブランドが投入され、家具、家電、衣料、コスメなどの主要カテゴリーを引っ張った。また6万以上のニニッチなトレンドカテゴリーも、売上を2倍にした。さらに“00后”の若いグループが台頭した。130万に及ぶ2000年代生まれの販売業者が誕生した。“AIショップ”までオープンした。AIのデザインしたTシャツの販売や、バーチャルヒューマンによる、ライブコマースが行なわれた。アリババがプラス成長となったのは間違いなさそうだ。
第三者機関、「星図数居」は、618セールの全総合通販の伸長率を、5、4%増と発表した。当局にとやかく言われない“穏当”な数字に見える。
 
衛霊公十五の十六
 
『子曰、群居終日、言不及義、好行小慧。難矣哉。』
 
孔子曰く、群れて終日話し合っても正義に至らず、浅知恵ばかり働かず。困ったものだ。
 
(現代中国的解釈)
 
“生鮮電商”の終焉が見えてきた。6月中旬、トップランナーだった「毎日優鮮」が、米国ナスダック市場から、三下り半を突きつけられた。ナスダック上場資格部からの最後通告である。生鮮電商は、浅智恵だった。
 
(サブストーリー)
 
2015年、アリババは新型スーパー「盒馬生鮮」をスタートさせた。セールスポイントは指定地域内30分以内で配送だった。しかし、それだけなら、わざわざコストのかかる店舗を持つ必要はない。この主張は合理的に思えた。2014年設立の毎日優鮮は、都市配送センター、地域コミュニティ倉庫を設置、そこから宅配する無店舗モデルを立ち上げた。コロナ禍の都市封鎖は、追い風となった。最盛期の2020年には、100都市、1万倉庫、1億戸のカバーを目標に掲げた。そして2021年6月、米国ナスダックへ上場、直後の時価総額は32億ドルだった。
 
しかし、その後、株価は下落を続けた。実態があきらかになってきたのである。ライバルの「叮咚買菜」によれば、1回の発注毎に、5,7元の損失が出るという。ビジネスモデルと呼べるしろものではなかった。2022年の半ば、最大の売り、30分配送を取り下げた。ただしこのときは、翌日配送に向け、体制を再構築中と伝えられた。しかし、従業員の解雇が続き、現在のフルタイム従業員は55人しか残っていないという。
 
テンセントなど有力投資機構から10回で110億元の資金調達を行ない、時価総額は32億ドルを記録したが、直近の時価総額はわずか438万ドル。99%を燃やし尽くした。正に浅知恵だった。
 
衛霊公十五の十七
 
『子曰、君子義以為質、礼以行之、孫以出之、信以成之。君子哉。』
 
孔子曰く、「君子は正義をもって本質とし、礼に基付いて行動し、謙虚な言葉で表現し、信用を損なわない。これこそ君子である。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国人実業家は、成功を収めると必ずといってよいほど金融や不動産事業へ手を伸ばす。知らないうちに金融部門や、金融子会社ができている。また不動産は2010年代を通じて上昇基調にあり、普通に儲かった。また、金融・不動産をやって一人前、という風土があり、これこそ、中国人実業家の正義の本質である。抖音も決済機能を強化して、
 
(サブストーリー)
 
抖音(海外名TikTok)は、ショートビデオの投稿、シェアアプリから、ライブコマースへ進み、さらに決済機能も付加した。その名は「抖音支付」という。スローガンは“美好生活、用抖音支付”である。決済ツール界を2分する、支付宝、微信支付を追いかけ、スーパーアプリを目指すのだろうか。
 
決済には、人民銀行の「支付業務許可証」が必要だ。抖音を運営するバイトダンスは、2014年にこの許可を得た、武漢合衆易宝科技、という会社を買収していた。その抖音が想定している決済利用シーンとは、社交紅包(紅包はお年玉の意)、越境Eコマース、ライブコマースの少額、パスワード無しの超快速決済などを想定している。まだ実店舗でのQRコード決済までは考えていないらしい。
 
抖音のようなIT巨頭が決済業務をやりたがるのには理由がある。1つめは、自社ビジネスのクローズドループを作り、ユーザー情報の流出を防ぐこと。2つめは、システムの巨大化に伴い、取引総量と決済が増加し続けていること。3つめは、システムの取引フローに信用管理と財務管理を重ねることで、新たな金融サービスの創出が可能となること。などである。つまり消費者金融の条件がおのずと揃うのだ。
 
2022年第4四半期のモバイル決済市場規模は、76兆4700億元にも及ぶ。これにアクセスを試みるのは、正義に適う行動だろう。
 
 

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