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若葉のころ/First of May

四月が終わる。明日から五月なんだなあ。今年はなんだか朝晩冷えるし、変な気圧の影響か体調もメンタルもぎっこんばったんしてるけど、街の緑は眩しい。若葉のころ。いつだって自然の世界は情念に踊らされることなく、どうしたって踏み入れられない人跡未踏の地があるような気がする。


わたしは毎日日記をつけるのだけど、なぜか日付だけは英語で記す習慣がある。そして、月末と月初はイギリス方式で "the last of ~"、”the 1st of ~"と書くようにしている。深い意味はなくて、おそらくは中学生の頃に英語の授業で習った使い始めた名残。
だから今日は"the last of April"で、明日は”the 1st of May”だなあと書いていたら、思い出したのがこの曲だ。

わたしの洋楽の好みは親の影響を多分に受けていて、きっと一番話が合うのはいまの還暦以上のおっちゃんやろなという気がする。ちょっと偏見やけど。でもこれまでの人生で、同世代の子とEric ClaptonやGilbert O'Sullivanの曲で盛り上がったことはないのだから仕方ない。田舎だったってのもあるのかな。十代の頃なんてもっともっと世界が狭かったし。

というわけで何年かぶりにBee Geesの"First of May"を聴いた。そしてものすごく今更、"The fisrst of May "ではないことに気づいた。定冠詞ないのねってことはわかっても、じゃあそれが何を意味しているのかがピンと来ない。調べろって? はい。
「五月≒若葉≒(わたしたち又はぼくたちの)若い頃」という意味であることにも、やっと気づいた。おとなにならないと実感を伴って知りえなかったこと、ってことかなあ。好きだと公言しておきながら己の理解の浅さにちょっと引く。


ところで今月もがんばった。よーがんばったよ~ととりあえず自分で褒めとく。中盤から極度に落ち込んだがために迷惑を被ってしまったみなさまには、もう本当に謝罪しかない。とりあえず生きてるしメイクしてるし駄文連ねてる。あれから歌ってないけど歌おうとはしてる。次は六月に歌うよ。

そんなこんなで結構疲れ果てて帰宅して、こんな日はもりもり野菜食べなあかん、と冷蔵庫を開けたらしなびたキャベツと目が合った。「田舎育ち新鮮野菜」とかPOPに書かれてたはずのキャベツ。ああキャベツよ、人工物あふれる街中の冷蔵庫に一週間以上閉じ込めててごめん。キャベツ好きだからカットじゃなくひと玉買うんだけど(断面ないほうが日持ちするしね)、結局こうなってしまった…とこころの中で後悔の荒波が立つ。と、どれだけ告解しても悔いても、このキャベツに関してキリストはきっとお救いになってはくれないので、よしよし、新玉葱もあるし、おいしいマリネにしてあげっからね! と荒波をサーフィンするかのようにまな板に乗せる。

キャベツは粗めの千切りにして電子レンジにかける。その間に玉葱をできるだけ薄くスライスして軽く水にさらす。キャベツのレンチンが終わったら玉葱と混ぜ、オリーブオイルと酢、塩、胡椒、あと何かの残りと思われるよくわからないハーブミックスを適当に入れて、適当やけどきっとおいしかろ~とふんふん混ぜていたら事件は起こった。

「ナメ…クジ…!!!」

ボウルの中で、ぬめぬめとつやめく小さな生き物。箸の先があたるとキャベツの間をにゅるんと動く。

「きみ……いつの間に…」

流しの前でのいつもと違うわたしの様子に気づいた同居人がテロテロと近づいてくる。
「見て(ぬめぬめ)」
「んきゃああ」
文字通り「んきゃああ」と声を上げたあと、無言でごみ箱を指さす。うん、わかってるよ、さすがにこれを一緒に食べようなどとは言わない。巷のコオロギチップスが知人から与えられたとき、わたしはさほど抵抗なく食べられたけど、ナメクジの踊り食いができるほどの野生は残念ながら持ち合わせていない。
「ごめん………」
ごみ箱にボウルごとひっくり返す。ごめん。こんなことになるなんて。キャベツも新玉葱もナメクジもオリーブオイルもハーブミックスも悪くない。居合わせた場所が悪かっただけなんだ。
「ごめん………」
気づいたらわたし腹ペコだったんだ。はあ、とため息をついてもう一度キャベツを切る。キャベツ、洗ったはずなのにナメクジはどこにいたんだろう。

「ていうか電子レンジかけても生きてるんだね」
「やね。レンジの中ってどんなんやったんやろうね…MRIみたいな感じかな」
「おー、電磁波浴びそうだもんね。『くうう、どこも悪くないのにこんなうるさい検査させられてよー、んで捨てられるんかーい』ってね」
「ね。まあ潰したりしてないからごみ箱の中で思う存分キャベツ食べて生きていけるよ。わりと味おいしいよ」
「それは彼にとって幸せな最期なのかい? ていうかていうか、冷蔵庫の中に住んでたの? あいつは。ひょえー」
「過酷な人生だね。あれ? 塩振ったのに伸びてなかったけど」
「もういいよ~~、リアルだよ~~」

二回目に作ったマリネには謎のハーブミックスは入れられなかったけど、それなりにおいしくできた。明日のお弁当にも入れよ。
そんなこんなで生きてます。毎日楽しく、ってわけにはいかなくても、日常の些末がいちいちこころに引っ掛かっても、ざわめいても蹴っ飛ばしたくなってもぎゃんぎゃん泣きたくなっても、生きていきます。

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