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紗世
2024年4月27日 06:57
「まあまあ、年寄りをいじめてもつまらねぇよ。ミケちゃん」タマがミケをなだめた。「わたしは年寄りですか。タマさん」所長はタマの言葉にショックをうけた。「自分ではまだまだいけると思うんですが、わたし、年寄り?」所長はタマにぐいと近づいた。「ほらっ加齢臭がするがな。年寄りの証拠だ!」所長はタマにどつかれた。「カレイ臭?」所長は意味がわからないという顔をする。ミケは加齢臭の意味を所長に
2024年4月26日 06:29
ミケが食堂に戻ると所長とおじさんとタマさんはすっかり楽しく話し込んでいた。ミケはアヤメの苦しみの告白を聴いたばかりだったので笑いながら喋る彼らが遠い人達に見えた。果てしない寂しさがミケの胸に広がった。ミケは無言で食堂の入口に立っていた。やがてタマがミケに気がついて声をかけてきた。「ミケちゃん、どうしたい?そんなとこ突っ立って」その声で他のねこもミケを見た。「何でもないです。みんなすっ
2024年4月24日 06:13
「ごめんなさい…あたし本当に母親失格ですよね…ミケさん本当にごめんなさい…」アヤメはさめざめと泣いた。ミケはアヤメの背中を擦りながら5年前のアヤメを思い浮かべていた。ミケが出産して一月後、こねこを養子に欲しいという若夫婦と 会った。その一組目がアヤメ夫婦だった。アヤメは流行りのラメ入りメイクをして小綺麗にしていた。旦那の方もこねこを見るとニコニコしてこねこ好きそうだった。アヤメ夫婦はメ
2024年4月23日 06:19
ミケは小鍋に牛乳を注ぎコーンスープの素をかき混ぜる。クツクツと火にかけ、木べらでまぜる。スープはだんだんなめらかになめらかになっていく。「食べられるといいわね」泣いていた彼女を思い浮かべる。全身の毛がボソボソになっていたので落ち着いたらお風呂に入ってもらおう。ミケはスープカップにコーンスープをついでお盆にのせた。水もあったほうがいいか、と水のコップも盆にのせた。「じゃ彼女のとこに行って
2024年4月21日 06:19
ミケが部屋を整えて布団を敷くと所長とおじさんがやってきた。おじさんは背におぶっていた彼女を布団に寝かせてやる。「本当は母子寮は男子禁制で私達は立ち入れないことになってるんですが、今日は緊急事態ですからな。本当にご協力ありがとうございます」所長がおじさんに言った。「いやいや、役に立ててよかったよ」「食堂でお茶を飲んで行って下さい」所長がおじさんに言う。ミケはやつれた彼女に話しかけた。
2024年4月19日 06:17
「いいですなぁ。わたしのとこはオスばかりでしたから、メスの子がいると可愛いでしょうなぁ」所長がおじさんに相槌を打つ。「ああ、可愛いし、メスの方がしっかりしているよ。性格かなぁ。昨日なんかチキンカツ作ってくれたんだけど、食べるときに中濃ソースをぶっかけたら怒るんだ。お父さん!これはキエフスキカツレツだから中濃ソースはなしだよ!ってさ」「カツにはソースでしょうに」「それが、カツの中にバターソー
2024年4月18日 06:11
ミケはぐったり目を閉じているねこの耳元に「聞こえますかー」と声をかけた。彼女の手に触れるとすっかり冷たくなっている。「一晩ここで明かしたの。寒かったでしょう」小さな声で話しかけると彼女は目を開けた。「もう大丈夫だからね。心配しないで」彼女はミケを見た。「 あ…病院には、行きたくないです…」「うん、うん。身体は大丈夫ですか。痛いとことない?」ミケは彼女の全身を見回した。やつれて
2024年4月17日 06:43
「今、ちょうどオスの職員がみんな出払っているんです。ブチさんもトラさんも今日は炊き出しの日なんですよ。どうしましょう」シマはオロオロとミケに言った。「行き倒れの方はどんな状態なの?」ミケはシマの目をしっかり見て訊いた。「えっと、倒れてたのは成猫のメスの方です。意識はあるそうです。でも身体が衰弱してて、力がないみたい。散歩中の方が見つけて電話してきました」「病院に運んだ方が良さそうな感じか
2024年4月14日 05:41
ミケは職場に着くと所長室へ行った。ノックもなしにドアを開けると、部屋には加齢臭がこもっていた。所長の体臭だ。さては昨夜はここに泊まったのだな、とミケは思った。加齢臭の元をたどると所長がソファーでひっくり返っていた。よく寝ている。ミケはあああ、もう始業時間だというのに、とイライラした。「所長!!」ゴミ箱を蹴っ飛ばしてでかい声をかけた。所長はビクッとして寝ぼけた目をぱっちり開けた。し
2024年4月2日 06:50
朝の食卓で、スミレはうつむいている。「ママどこいった?」とミケとダンに訊ねたきり黙ってしまった。目の前にはご飯とあさりのみそ汁と卵焼きがほかほか湯気を立てていたが、スミレは食べようとしなかった。隣の椅子に腰掛けたウリはむしゃむしゃご飯を食べている。ウリとスミレを見比べてミケはため息をついた。「やっぱりママが恋しいよね…」ミケの声が沈む。「うん…。ねぇスミレちゃんのママの名前はなんてい
2024年3月30日 06:14
ミケはハッと目覚めた。子供の頃の夢を見ていた。大人ねこと幕の内弁当を食べる夢だ。卵焼きは甘く、ごま塩をまぶしたご飯は塩気が効いておいしい。味までリアルに思い出せる。カーテンを陽の光が明るくしていた。時計を見ると7時過ぎ。あああ、朝になってしまった。隣の布団ではすぴーすぴーと寝息がしている。こねこ達が眠っているのだ。ミケはその布団のふくらみをじっとみた。こねこが二匹その下で眠って
2024年3月29日 05:46
おじさんねこにお弁当を手渡すと、おじさんはミケに「ありがとう」と言った。ミケは心の中がぽっと温かくなる。おばさんねこも「えらいわねぇ」とにっこり笑いかけてきた。ミケは自分の存在が他ねこに認められているという確かな感覚を持った。こんな事は初めてだった。暗闇の世界に小さな光が射し込んだ。ミケは今までにない感動にうち震えながらチラシを受け取り、お弁当を渡し続けた。さて、ミケの横でお弁当を配
2024年3月27日 06:29
さて、お弁当無料配布テントに野良ねこ達が集まってきた。どのねこも薄汚れていた。野良ねこ達はどの顔も元気がなかった。黒ねことミケは役割りを分担してお弁当配りにあたった。ミケがチラシを受け取り、黒ねこがお弁当を渡す。お弁当を受け取る野良ねこ達はどこか後ろ暗い気持ちを持っているのか、ササッとお弁当を受け取ると足早に立ち去っていく。野良ねこであることを恥だと考えているのだろうか。ミケは同じ野
2024年3月25日 05:37
お祭り会場の混雑をかき分けて主催者テントに近づくと長テーブルにお弁当が積み上げられているのが見えた。黒ねこはミケに「お弁当だ!」と笑いかけた。ミケもつられて黒ねこに笑いかえした。笑顔というのは心をほどく。見ず知らずの黒ねこだったがミケは親しみを感じた。普段、ミケの親は怒った時くらいしかミケに話しかけてこない。誰かと言葉を交わすことがこんなに心を楽しくさせるのだと、ミケは思う。無視しないで