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「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」 レビュー


たまたまネットの濁流の中でこの作品を見つけて、一日かけて読んだ。

どうやら書籍化、コミック化、ドラマ化もしているようで、ドラマは(多分)ちょうど今NHKで放映されているらしい。


私はタイトルに惹かれて読み始めた。
ホモの話をしているのに「彼女が好きなもの」と入っているのに引っかかったし、異性愛者の女の子を好きになったことがある身として、「彼女」と「ホモ」の小さな矛盾に惹かれた。

最近になって気がついたのだけど、私はどうやら同性愛者の男の子に恋をする女の子の小説に巡り会うことが多くて(前に読んで好きだった作品「キスをしても一人」もそうだった)、それは、私が異性愛者の女の子に惹かれた経験があるからなのかもしれない。

まぁそんなこんなで読み始めて、読んでいくうちに目が吸いつけられて流れるように読んでしまった。


私は同性愛についての小説を読むのが好きだ。同じセクシャルマイノリティーとして共感できるところが多いし、自分と違うセクマイについての理解を深めることにも繋がる。
普通に読み物としても好き。恋愛や人間関係の葛藤が描かれているから。

特に男性のゲイが書かれた小説に惹かれることが多くて、それはレズビアンよりも男性のゲイの方が社会的葛藤が多いからだと思う。
(これには「同性愛は遺伝、胎内、環境要因と分かれ、その内レズビアンは環境要因が6人に1人の割合でいるが、男性のゲイは0だとされている」というエビデンスがある)

辛さがエンターテイメントになるのはホラーの需要で証明されているけれど、矢張り実際に苦しんでいる人がいることをエンタメとして消費してしまうことへの罪悪感はある。幾ら私が当事者と呼べる存在であれ、それは変わらない。

特に同性愛の葛藤について書かれた話は自分を排斥する社会への諦念やその理由付けについて触れている物が多く、そういった意味でも私の嗜好を擽るのだろう。


異性愛者が同性愛者の心情を全て理解しなくてはいけないとは思わない。
しかし人類学をやってきた身として、完全な異性愛者は存在せず、異性に限る恋愛感情というのは社会が作り出した物だと知っている以上、決め付けは時に自分や周りの人を傷つけるので排斥するべきなのではないかとは思っている。

小説の中で、「同性愛が存在する理由がわからない」という文が出てきた。
この答えについて小説では明確に触れていなかったし、現実世界にもまだはっきりとした答えは出ていないのだけど、一説では「同性愛が存在することで財政的に同親戚内の子供を育てるのに余裕ができるから」ではないかと言われている。
人口がやたらめったら増えるのは困るので、その抑止力として必要なのではないか、という議論だ。

他にも、「性行為は繁栄の為だけではなく社会的繋がりの構築にも使われるので、同性愛が存在しているのは極めて自然だ」という議論もある。
「性行為は社会的繋がりの形成に関わる」というのは色んな研究で証明された事実なので、人間社会が同性愛を排斥する方が珍しいのかもしれない。
(私の今期の小論文はまさにこの辺りを調べる)


まぁしかし社会的に作られたものであれ、それが社会で生きる人間にとって『真実』であることに変わりはなくて、だからこそこの小説の中で書かれた同性愛の葛藤が起こるのだと思う。

社会が変革する過渡期に存在する今、これから社会がどうなるかはわからないけれど、多様性を受け入れる余裕が生まれ、多様性を受け入れることに対するメリットが取れるようになったのだから、こういった小説を通して自分と違う価値観で生きる人の世界を垣間見れるようになったのは、とても意味のあることだと思う。

マイノリティは他人事じゃないと気がつくのは、知らず知らずの内に大切な人を傷つけてしまう前の方が良いに決まっているのだから。


追記
質問箱に、「同性愛は遺伝、胎内、環境要因と分かれ、その内レズビアンは環境要因が6人に1人の割合でいるが、男性のゲイは0だとされている」のエビデンスを教えて欲しいと質問が来たので、こちらにも紹介しておきます。

2008年の論文。スウェーデンでの大規模な双子調査です。
(双子調査は「一卵性双生児」「二卵性」「遺伝的繋がりはなし」などグループごとに分けて、遺伝・胎内環境・生後環境などの比重を見る調査です)

この研究では、男性のゲイの遺伝要因が34-39%、環境要因は00%、女性では遺伝要因が18-19%、環境要因が16-17%と出されています。

男女問わず、そもそも環境要因はその他要因に比べて影響が少ないのではないかとも言われていますが、環境要因まで揃わないと同性愛的特徴は発現しないとする主張もかなり頻繁に聞かれます。

この二つを合わせると、環境要因が男性のゲイを作るのではないけれど、環境要因によってゲイを自認するか否かが大きく変わってくると言えるのかもしれません。

性嗜好を含め、性自認なども複雑な要素が絡み合って形成されるので、環境だけ、遺伝だけが要因となるわけではなく、また、生きていくうちに変わります。


男性のゲイの方が社会的抑圧が大きいというのは、「ゲイ」という言葉は女性にも男性にも使われる中、女性の同性愛に対しては「レズビアン」という個別の名詞があるのに対し、男性の同性愛についてはない(少なくとも余り聞かれない)という事情や、未だ同性愛規制が法律によりされていた時代、イギリスでレズビアンも規制しようという働きかけがありましたが、そちらは失敗したという事実からも、わかるのでは無いかと思います。




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