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海砂糖 【#シロクマ文芸部 】

「海砂糖はじめました」

とうとう今年もこのタペストリーに出会う季節になりました。

「海砂糖」は 角砂糖 にちょっと似ています。
立方体に固めたあの角砂糖のように、この海砂糖も
海に住む生きものたちの形に砂糖を固めています。
ただし、砂糖以外の成分については秘密なので
詳しいことは僕にもわからないんですけどね。

ちなみに海砂糖といえばこの辺りでは夏の定番で
大体この時期になると色んなお店で見かけるようになります。
そして夏が終わる頃、そこら中にあったタペストリーは
いつの間にかなくなり、同時に海砂糖も手に入らなくなります。
夏にだけ現れる海砂糖は最後はこうして姿を消していくのです。

この季節、ここではガムシロップを使う人は誰もいません。
一般的には冷たい飲み物にはガムシロップなのかもしれませんが
ここではみんな決まって海砂糖を入れ、ゆっくりとゆっくり時間をかけて
崩れるように溶けていく海砂糖をぼんやりと眺めます。
これこそが、ここでの夏の過ごし方なのです。

色とりどりの海砂糖は見た目も可愛らしくて
沢山の種類から好きなものを選ぶ楽しさもあります。
例えば、イカとタコを遊ばせてみたり
フグとハリセンボンをにらめっこをさせてみたり。
ここではどんな組み合わせでも「アリ」です。
楽しく、のびのびと、そして自由に。
自分の思うままに世界をつくることができるのです。

けれど。

海砂糖と過ごす楽しい夏にも必ず終わりはやってきます。
そこら中にあったタペストリーは
知らぬ間に少しずつ姿を消していました。

とうとう最後の一つになった「海砂糖はじめました」の文字。
明日にはもうここもなくなってしまうのでしょう。

「それじゃあ僕もこの夏最後の海砂糖を」

僕が今年最後に選んだ海砂糖は、大好きなクラゲです。

「おっ。今日は月がきれいです。おそろいですね」

クラゲはグラスの中で静かにゆっくり溶けていきました。


【おしまい】

***

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ではまた。

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