文化祭が近づくにつれ、この学校では毎年「ある噂」が立つ。

「文化祭には『主ヌシ』がいるらしいよ」
「それ聞いたことある！」

ちなみにその「主ヌシ」とは 僕のことであり
そして、オバケ だ。

昔文化祭の出し物でお化け屋敷をやったクラスの集合写真に
僕はみんなと一緒に仲良く写った。いい笑顔でよく撮れていたと思う。
普段は驚かさないよう注意を払っているけど、その時は気分が上がり
どうしてもみんなと集合写真を撮りくなった。
だってその時のクラスの気合の入れようったら！
だから集合写真以外にもついついお手伝いも、ね。
例えばお化け屋敷の会場をひんやりした空気で包み込んでみたり
僕自身ちょっとだけ人前に現れてみちゃったり…
まぁそんな感じだったわけだ。

でもその翌年から文化祭でお化け屋敷をやることが禁止になった。
僕が写真に写ったり人前に姿を現したせいで、オバケの怒りを買った
このままお化け屋敷を続けたら何が起こるかわからない、などの
意見が出るようになったからだ。
なのでそれ以降お化け屋敷は文化祭から完全に姿を消すこととなった。

しかしあれから時が経ち、生徒からの強い要望もあり
とうとう今年からお化け屋敷禁止令が解禁になった。
それでも、文化祭で毎年のようにやっていたお化け屋敷が
あれからずっと禁止されていたことに僕はすごく責任を感じていた。
だからこそ今年はお化け屋敷をやるクラスがあっても
手伝ったり集合写真に写ったりすることはしないと決めていた。
自分のせいでみんなに迷惑をかけることはもうしたくなかった。
今年は近くでそっと見守るだけにしよう、そう思っていた。

文化祭当日。
一般公開もあって元々来場者は多いが今年は久しぶりにお化け屋敷が
復活するということもあって、これまでよりさらに多いように見えた。
みんながこの日の為に頑張って準備してきたことを僕はよく知っている。
だから今日は絶対にみんなの邪魔をせず、目立たないよう
陰からそっと見守るつもりでいた。

それにしても、だ。
さっきからものすごくマナーの悪いグループがいるのだ。
面白くないだの 怖くないだのと騒いでは、手作りの仕掛けや小道具を
乱暴に触ってイタズラしている。
そんなことをしたら折角の作品が壊れてしまうじゃないか！
だがみんなも注意しにくいのか、誰も何も言わずただじっと我慢していた。

（お前らいい加減にっ…でも待て。僕は昔自分勝手な行動でみんなに迷惑をかけたじゃないか…。いや、でも今はその時とは違う。こんなこと絶対に許しちゃだめだ！）

みんなの気持ちを踏みにじる彼らのその行為が
僕にはどうしても許せなかった。

………ひゅ～………どろどろどろ………
こ、こ、か、ら、出、て、い、けぇ………
い、ま、す、ぐ、出、て、い、けぇぇ………

「ぎゃーーー！」「なんだこれ気味が悪い！」「お前らもう帰るぞ！」

彼らは大慌てで一目散に逃げていった。

（はぁ…やっと帰ったか。でも、またやっちゃったな…）

あいつらを怖がらせて追い出すためだったとはいえ
僕はまたこうして姿を現し、勝手な行動をとってしまった。
今年やっとお化け屋敷が復活できたというのに。
これでまた変な噂が立って、それこそもう永久に
お化け屋敷禁止令を出されるかもしれない。

（クラスのみんな…僕のせいでまた、本当にごめん…）

「助かったねー！あの人たちすごい慌てて逃げて行ったね！」
「でもあれ誰がやったの？」「え？オバケ役の人じゃないの？」

それが僕の仕業だとは誰も気づかず、あのオバケは一体誰？と
クラス中が大いに盛り上がっている。
それを聞き、僕のせいだとバレていないことにホッしていると
その中の一人がみんなに向かってこう言った。

「もしかして文化祭の主ヌシが私たちを守ってくれたんじゃない？」

みんなその言葉に妙に納得し「文化祭の主ヌシよ、ありがとうー！」
そう誰かが叫ぶと次々にどんどん続いていく。
その時の僕は嬉しさのあまりみんなの前に姿を現したくなったが
そこはなんとかぐっと堪えた。
この自分の勝手な行動がまた周りに迷惑をかけたと思っていたのに
まさかみんながこんなに感謝してくれるだなんて…
僕の方こそありがとう。みんな本当に、ありがとうー！

その日を境に文化祭の主ヌシに対する考えは以前とは変わり
「文化祭を守ってくれる存在」として噂されるようになった。
怖れられていた僕は今やみんなに受け入れてもらえるようになった。
もちろん僕にとってこんなに嬉しいことはない。

でもそれでもやっぱり僕は、これからもみんなのことを
陰からそっと見守ることにしようと決めている。
だって文化祭の主役は学校のみんなであり、オバケの僕ではないから。
みんなの傍にいたい。頑張るみんなを応援したい。
これが僕にとって一番大切にしたいこと。
だからこれからもここで見守らせて下さい。

だって僕は文化祭の「主ヌシ」なのですから。

【おしまい】

＊＊＊

今週のシロクマ文芸部でした🐨

ではまた。