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父と緩和ケア病棟にて

 父はほとんど寝て過ごすようになった。時々「あぁあ」「ううー」と呻くだけ。目もほとんど閉じたままだ。

 ほんの1週間前は自力で風呂に入り、食事をとっていた。がんという病気は、急坂を転げ落ちるように病態が悪化して行く。

 昨日から東京に住む弟家族が帰省している。6歳と2歳の姪も、大好きなじいじと面会した。こんな姿を見て怖がるんじゃないかと思ったが、杞憂に終わった。

 6歳の姪は、これからじいじが天国に行くことをしっかりばあばから説明を受けていた。「じいじかわいそう」「じいじがんばれ」「いなくなるのはいや」。彼女なりに理解しようとしている。

 じいじは羽が生えてお空に飛んでいくよ。ほら、頭に輪っかが見える。と話すと、「ほんとだ、みえる〜」と言う。東京まで飛んで行って見守っているからね、と話すと、姪は「うん」とうなずいた。

 2歳の姪は「じいじ〜」と抱きつきに行った。枯れ木のような腕は姪を抱けるわけもなく、かすめるように触っただけだった。「じいじみる」と、観察している。思うことがあるのだろうか。

 私は遺影やら式で流すビデオの写真やらをピックアップして来た。「『愛の花』流しながらこれを映してほしいでねぇ」と、なんだかこの状況を楽しんでいる。

 今日父の体調が良ければ、お風呂に入れてくれるという。昨夜から熱を出しているので、どうなるか分からない。なんとか最後に入れて欲しい。

 長い1日がまた始まる。父の寝息が聞こえる。まだまだ命の火は消えない。

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