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自閉スペクトラム症の恋愛

 私は広汎性発達障害を抱えている。今では自閉スペクトラム症と呼ばれている。知的に障害のない自閉症者だ。

 幼い時から他人に関心がなかった。人見知りもせず、親の後追いもせず、いつも人形を並べて遊んでいた。

お気に入りの遊び

 幼稚園に入園してもいつも1人で遊び、友達に興味を示すことは無かった。当時は発達障害の概念が無く、知的障害を伴う自閉症しか知られていなかったため、私の存在はスルーされた。

 「友達と遊ぶ」ことが「普通」なのだと知ったのは、1人遊びを楽しんでいる私が、いつも「むりやり」友達と遊ばされたからだ。ただ、他人との関わり方が分からず、友達の中でもいつもひとりぼっちだった。

 友達との関わり方を教えてくれたのは、転園先の保育園の先生だった。幼稚園のストレスでチック症まで発症していた私だが、保育園の先生のおかげで友達と上手に関わることができ、チック症も治った。

 思春期に入り、周りの女の子は好きな人がどうのこうのという話題で盛り上がるようになる。私はまるっきりついて行けなかった。「好き」って何?どうして人を好きになったりするの?そんなに1人の人間に夢中になれるわけ?

 「人を好きになる」感覚がなんとなく分かり始めたのは、高校生くらいになってからだった。自意識過剰になりがちで、「皆んなが自分のことを好きなんじゃ?」とまで思った。いい年になってからは男性の紹介話とか来たけれど、どうもピンと来なかった。

 さて、こんな私だから、「恋愛」というのはハードルが高いし困難だらけである。今の彼「D」とは、発達障害者が集まるサロンで出会った。目が合ったら自分のことが好きなんじゃ?と思うはた迷惑な妄想が発動し、D に一目惚れした。

 Dはそんな私でも受け入れてくれた。彼もまた自閉スペクトラム症である。元来他人に興味のない2人が出会った。これは恋愛とも言えない、友情に近い男女関係だ。

 「好きだ」とも「可愛い」とも言わないD。なぜなら、少しもそんな風に思わないからだって。じゃあなんで毎週判で押したように私のところへ来るのか?

 人付き合いが壊滅的な私が人を好きになると、トンチンカンな方向に進んでしまう。好きだと言ったかと思うと、急に大嫌いになったり。ちなみにDは慣れっこなので、「ああまたか」とスルーする。

 他者と心の中を共有することが難しい。気持ちを想像するのが苦手だ。言われたことをそのまま受け取り、空気は読めず暗黙の了解は分からない。健常者との恋愛は不可能だろう。

 相手が同じ障害を持つDで良かった。障害に理解があるし、何より彼はピアサポーターとして当事者活動に励んでいる。この私たちなりの関係をゆるゆるとやって行けたら。…昨日もおかしなメールをDに送りつけてしまった。今日はそれを謝って、Dに会おう。

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