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1人の先生のせいで、音楽が好きになった

いつもエレクトーンの先生はゴディバをくれた。

「甘いもの苦手やからあげるわ。」

よく貰うのに嫌いらしい。喜んで食べていたら毎回くれるようになった。"甘いものが嫌い"というのは嘘かもしれないけれど、そんな優しさが大好きだった。

でも、私はその先生になるまでエレクトーンが、音楽が、大嫌いだった。
"女の子は音楽をできた方が良い"という、親の自己本位な理由から始めて、2歳から17歳まで続けた。私の意志など完全無視で。どんなに辞めたいと懇願しても「どんだけお金かかってると思ってんの!中学生までは続けなさい!」の一点張りだった。

そして、辞められるはずの中学生になったら、今までの先生は妊娠と共に退職した。そして、ゴディバをくれる先生へと変わったのだった。

……わたし、音楽が好きになっちゃった。

それからエレクトーンでは好きな音楽を弾き、色んな音楽も聴くようになった。他の楽器も始めるようになった。YUIに憧れてアコギ、ピアノ、高校生になると吹奏楽部でホルンを始めてみたりした。気が付いたら絶対音感も当たり前のように持っていた。

これからドラムとウクレレなんか、始めようとしてしまっている。


すっかり、私は音楽が辞められなくなってしまったよ。


その先生が担当した人は、みんなコンクールで優勝してしまうらしい。

でも、緊張して身構えたのはレッスンが始まる前だけ。

始まるや否や、引き継ぎであろう手紙を私の目の前で読み出した。「えぇーっと、"静かな子です。本当に静かな子です。今は〇〇の曲と〇〇の曲と〇〇をやっています。どうぞよろしくお願いいたします。"だって、ふーん。静かな割には喋るやん。」

「それって私の前で読んじゃいけないやつなんじゃないの?!」と、思ったけど言わなかった。本当にトップに立ち続ける人って、こんなに謙虚でフレンドリーなんだと知った。

前の先生は怖くて、話すのが怖かったのだ。それだけ。

教え方も今までの先生とは違った。私が楽譜を見るより、聴いたほうが覚えが早いと知ると目の前で弾いて録音させてくれた。それも「弾くのが好きだから」と喜んで弾いてくれる。即興であんなに弾けるのはすごい、と私はますます尊敬するようになった。今までの先生には「楽譜をしっかり見なさい!」と、言われ続けてきたから拍子抜けした。
曲に飽きてるのを見抜き、「好きな曲持ってきな」と言ってくれることもあった。いきものがかりが好きだったからいきものがかりばかり弾いた。じょいふるを編曲していたらしくて、その楽譜を持っていくといつもの倍ぐらいノリノリで弾いてくれた。

あと、レッスン外でもたくさん関わってくれた。バレンタインデーにはチョコの家を作ったし、コンクール終わりには餃子の王将に連れて行ってくれた。これは同じエレクトーングループのメンバーのひとりが好きだから。私の家は親が厳しくて、そんなところ連れて行ってもらったことがなかったから新鮮で楽しかった。

普段の行動といい、話といい、とても話が面白くて聞いていて飽きなかった。おじさん・おばさんの話を聞きたくないのはきっと、昔の自慢話ばかりだからだ。この先生は今日あった面白い話をよくする。時が止まっていない。しかも、当時14歳の私より流行に詳しかった。


それより何より、びっくりしたのはこんな日。

「私、今日で63歳になってん!」

うきうきで言ってきたのだ。普通の人は年を誤魔化したり、年を聞くと怒ったり、年を取るのを嫌がる女の人が多い。なのに、歳を取るのを喜んでいたから驚いたのだ。その日は会った人全員に言いまくっているらしい。見た目もとても若々しいままだった。45歳と言っても全然通用する。というか、そのぐらいだと勝手に思っていた。

「ああ、私もこんな大人になりたい!」

今でも本気でそう思っている。

あと、「20になったら、パチンコ・競馬・酒を全部試して娯楽を全部試してやったわ。私はお酒を毎日飲んでる!それ以外は楽しくなかった!」と言っていた。確かに趣味や楽しみがひとつでも多い方が人生は楽しい。私は今、21歳になっているけど、まだお酒ぐらいしか挑戦してないや。今年中にパチンコと競馬場に行ってみようかな。競馬場は綺麗らしい。タバコはおすすめされなかったから、やめておけってことなのかも~。

私はいつでも使えるようになった特権は全部、使ってやるんだ。
選挙もそう。ほとんど白紙で投票してる。だって、投票したい政治家なんてひとりも居やしねぇからな!(笑)

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しかしながら……
私は、そんな素敵な先生と縁を切ってしまった。

高校2年のことだった。不登校で転校と引越しをした。そのタイミングで人間関係を、全てリセットしてしまったのだ。だからその人だけじゃなくて、私は、幼馴染の連絡先をも消してしまった。「ごめんね、私、今更だけど、その中で会いたい人がいっぱい居るんだよ。」でも、どんな風にお詫びをしてどんな顔をして会いに行ったらいいのか分からないし、連絡先も住所も何ひとつ分からない。

SNSをやっている人はそこで繋がって戻ったりしたけれど、みんながみんなやっているわけじゃないから困る。

どうしたらいいのだろう。ただ向こうが連絡先を消していなくて、何かあれば連絡してきてくれると思う。私が有名になったらまた、逢えるのだろうか。私が頑張って発信し続ける理由のうちの1つはこれ。(ほかの話はまたnoteで書くね。)

#エッセイ #私の脳内を文字にする #音楽 #体験談 #日常 #人生を変えた出会い

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