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#20 世の中からメンタルヘルスの不調が無くならないのはどうして?【ニューロ横丁7軒目:メンタルヘルス②】

 メンタルの課題は周りからなかなか理解されないものです。本人は、周りが思っているほど容易に、自分をコントロールすることができません。

 そもそもそのような問題を抱えている人たちは、かわいそうで弱い人たちであると言えるのでしょうか?

 今回は、進化論的な話も交えながら、精神医学の知見についてお話ししていきます。

メンタルヘルスは遺伝的な問題?

 メンタルヘルスの中で、自分の抱える悩みと、周りの人からは「きっとこう見えているんだろうな」という感覚の中でズレがあるところが、本人にとって辛いものだと思います。

 例えば、このような悩みを抱えている人が、ちょっとでも自分を好きでいられるように、良い写真をSNSに載せたりすると、「承認欲求の塊だ」「可愛いって言ってもらいたいだけなんでしょ」と叩かれてしまう世の中でもありますよね。前回でもお話ししたように、メンタルヘルスの問題では、自己責任論を唱えられることが多いのですが、本人たちが好きで醜形恐怖症や摂食障害になっているかと言ったら、きっと違うと思います。

 そのようなメンタルの問題は、性別や遺伝などの、私たちにはどうしようもできない生物学的なところで、抱えることが多いと分かっています。それこそメンタルの問題は女性のほうが発症しやすいのが事実です。女性として生まれたというだけで、発症しやすいことを自己責任論にしてしまうのは、少し違う気がしますよね。鬱でいうと、セロトニン関連の調節遺伝子が発症に関わっています。もちろん遺伝子全てで、メンタルヘルスの問題を語れるわけではありませんが、遺伝子も好きで選んで生まれてきたわけではないため、自己責任論は考えるべきところが多そうです。

 また遺伝だけでなく、発症の一つとして環境も考えられます。ネグレクトや虐待などの、幼い頃のストレス経験があったりすると、メンタルヘルスの課題に直面しやすいと言われています。それを子どもが選べたかという話で、遺伝と同様に、メンタルヘルスを自己責任論にすることは、辛辣なところだと思います。

 ジェネティックな部分や、環境要因などの本人が選べないところで、メンタルの問題を抱えてしまうことは間違いなく存在し、本人が好き好んで甘えているわけではない、ということを知らないといけません。

メンタルヘルスの問題は、人類の進化にとって重要なこと

 以前、感謝やバイアスの回で、それらがなぜ進化の過程で残ってきたのかという話をしたと思います。

 では、一部の人にとっては生きにくさを生み出してしまっているメンタルの不調は、なぜこのようにして残ってきたのでしょうか?

 大前提として、進化の過程でセレクションが起きていく時に、人間の幸せを最大化するようには、進化の仕組みは作られていません。実は、人間の脳そのものが高度に発達していくことと、メンタルヘルスの問題に直面していくことは、結びつきがあるのでは?と考えられています。

 例えば、双極性障害の遺伝子を持っている人は、持っていない人と比べて、言語能力やクリエイティビティーが高いと言われています。もちろん発症してしまうことで、その能力が一時的に落ちてしまうことはありますが、社交性の高さも評価されています。

 また、前回もお話ししたように、メンタルの課題を抱えた人は、完璧主義傾向も高く、メンタルヘルスに罹るリスクは高いけれど、学業成績や認知能力が高いということが分かっています。また、優秀な人ほど、インポスター症候群といって、自分の実力を認めることができない、周りを騙している感覚に陥ってしまう問題にぶつかりやすいです。そのような人は、とても対人スキルが高く、有名なところだと、元Facebookの最高執行責任者シェリル・サンドバークもこの症状があるそうです。

 このような課題を抱えている人は、弱くてかわいそうな人ではなく、優秀で仕事ができるということと関わっていたりしています。完璧主義であり、努力家であるだからこそ、メンタルの問題を抱えやすいのです。

まとめ

 メンタルヘルスの課題は、自分を責めたり、周りが「あいつは甘えだ」というような自己責任論を言われることが多いのですが、実は自分の選択で選ぶことはできないような、遺伝的なものに影響されていたり、生育環境に影響されていたりしています。

 また、そのような人たちは、弱くてかわいそうで、無力な人たちなのかというと、むしろ逆で、優秀な人が多いというのが科学的技術で分かってきています。日本人の5人の1人もメンタルに問題をかかっているようなものが、本来進化の過程で淘汰されるはずなのに、なぜ残ってきているのかというと、やはり人間や社会にとって役に立つ形質の裏表だったりするのです。

 自信がないからこそ努力をする、努力しても敵わないから病んでしまう、そのように苦しむからこそ努力できるようなところが、生き残るために必要だったからこそ、メンタルの苦しみは人間にとって残ってきています。

 だからと言って、全ての病気を受け入れようという問題ではなく、そこから逃れられる手段や方法を探すべきだとは思います。

 例えば、早く走る馬を選別していくと、サラブレットができていきますが、彼らはとても骨折しやすい馬でもあります。人間もそのようなところがあり、とても知的能力や社交性が高かったり、努力できる人が残っていくと、その裏で心が折れやすい人も残っているというのが今の現状なのではないかと思います。

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