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京都の夏はゲームでアツい - 『BitSummit』(2日目)

目が覚める。10時。BitSummitの開場時刻は?10時だ。まずい。

別に誰かと待ち合わせているわけでもないが、昨日遊びきれなかったゲームがあれだけあるのに、悠長なことはしていられない。バッグをひっつかんで、俺はホテルを飛び出した。

まずはホテルのすぐ近くにある京都駅へ向かう。祇園祭や他の寺社仏閣へ行く観光客でバス乗り場は完全な芋洗い状態だった。超満員のバスを一台見逃し、俺は次にやってきたバスに乗った。BitSummitが開かれているみやこめっせのある東山までは、30分と少し。すでに本気を出している殺人的な日差しにひいひい言いながら、俺は会場へと辿り着いた。

というわけで、BitSummit2日目に試遊して楽しかったゲームについて紹介しよう。

Tri-bo

ワンボタンで遊べる横シューのような、ジャンプアクションのような……『Tri-bo』はシンプルさが光るゲームだ。

このゲームではスペースキーしか使わない。スペースを押すと、自機が跳ねる。跳ねるたびに自機は三角形Triangle四角形Boxへ交互に変形する。そして、画面の端には大口を開けたボスが弾を放ってくる。自機と違う形の弾に当たるとゲームオーバーだ。このあたりは名作STGの『斑鳩』に少し似ている気がする。

自機がジャンプすると、画面を横切る線を作ることができる。ボスが吐く弾に線を重ねると弾は2つの赤い丸へと変化・分裂し、自機が触れることでその赤丸を飛ばせる。ステージごとに規定の数の赤丸をボスに当てるとゲームクリアというわけだ。赤丸に線を当てることでさらに赤丸を分裂させられるので、たくさん溜めて一気に飛ばすのが気持ちいい。

ボスバトルを工夫すればかなりの伸びしろがありそうな『Tri-bo』だが、学生さんが企画で作ったものとのことだ。Steamやitch.ioで公開する予定もまだないらしく、もったいなく思ってしまった。

Mars First Logistics

『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』でウルトラハンド工作に凝った人なら、『Mars First Logistics』は最高のゲームになるかもしれない。

メビウス調のパキっとしたビジュアルが印象的なこのゲームでは、火星を舞台にローバーで荷物運びを行う。ローバーはレゴブロックのようになっており、モーターや蝶番など様々なパーツを組み合わせて自由に設計することができる。試遊では、ハサミ型のアームを取り付けて小箱をつかみ、そのまま運ぶことができた。

当然といえば当然だが、この手のゲームはプレイヤーのクリエイティビティが問われる。実際、俺は暴力的なゲームには強いけれどクラフト系ゲームにはめっぽう弱いので、試遊すると早々に詰まってしまった。先ほど作ったアームでは挟めない大型のクレートをどのようにローバーに載せるか、いまいち分からなくなってしまったのだ。俺は恥を忍んで、横で見守る開発者の人に答えを訊いてみた。

"Push."

答えはたったの一語だった。ローバーにクレートを載せられないなら、そのまま押して運べばいいじゃない、と。たしかにその通りだった。俺は走行機能しか持たない初期ローバーに戻し、クレート配送をこなした。そう、このゲームはクリエイティビティを問うものだが、たったひとつの冴えたやり方を強制するものでもない。クリアだけを求めるならなりふり構わなくてもいい。これは、俺のような粗忽者にも優しいタイプの自由さだ。

SCHiM

『Anthem#9』に並ぶBitSummitの個人的な目玉が『SCHiM』だった。子供の影踏み遊びがそのままゲームになったような本作は、言語をほとんど必要としないという点で、非常にユニバーサルな遊びやすさを持っている。

このゲームの遊び方は、わざわざ説明するのが野暮なくらいわかりやすい。影から影へ飛び移る、ただそれだけだ。もちろん、モノが動けばその影も動くので、それを利用して遠くまで移動することができる。プラットフォーマー足場渡りゲームとしてはさほど精密な操作は必要とされない。重要なのはむしろ、影がどう動くかを推理する思考力だ。

スキムは──オランダ語で"影"という意味だ──影に潜むカエルのような存在で、とある少年の影に潜って暮らしてきた。チュートリアルでは、スキムを操作して少年を助けることになる。文字通り、陰ながら。そうして少年が大人になったある日、彼は勤め先をクビにされる。彼の失意のせいか、スキムは元少年の影から切り離され、はぐれてしまった。離れ離れになった元少年と再会するため、スキムの冒険が始まる。

日向と影のツートンカラーに抽象化されたグラフィック、影を足場にするメカニクス、言語を廃したストーリーテリング。これらがすべて、創り手の美学のもとに調和している。『SCHiM』はBitSummitで見た中でも飛び抜けて完成度の高いゲームだった。

和階堂真の事件簿

『和階堂真の事件簿』シリーズは、「1時間でクリアできる推理アドベンチャー」をうたって数年ほど前にスマートフォン向けにリリースされたものらしい。タイトルから何からまったくの初耳だったが、ADVやノベルゲームに疎くてスマホゲームにも疎い俺が知らないのも無理からぬ話だ。この2023年、シリーズ三部作に新規エピソードを1つ追加したデラックス版がPC向けに発売される。

SteamDeck向きのゲームである

目が粗く色使いもシンプルなドット絵が特徴的な『和階堂真の事件簿』は、たしかにコンパクトに遊べるように工夫されているらしい。なにしろ、開始1分で殺人現場まで行くのだから。基本的なシステムもわかりやすく、聞き込みで情報を探していく古き良き推理ADV方式のようだ。試遊で最後まで遊んでしまっては元も子もないので後ろ髪を引かれる思いで中断したが、短編ミステリを読むような感覚でサクっと遊べそうなのが好感触だった。

58DINER

会場に来たのが11時前だったので、あまり試遊できないうちに昼飯時になった。いくつかゲームを遊んでカロリーを使ったのか、ひどい空腹を感じている。少し早いけれど、会場に来た人々で近場の店が混み合う前に俺は昼食へ出かけることにした。

『58DINER』はみやこめっせのすぐ近く、二条通の橋を超えた先にある雰囲気のいいハンバーガーショップだ。一見こじんまりしているが二階席もあり、ランチタイムにはその二階も含めて満席になるほど賑わっていた。店に入ると、パテの焼ける香ばしい匂いがほとんど暴力的なほどに食欲をそそってくる。

俺が頼んだのは、ダブルチーズバーガーセット。ブ厚いので串を刺して直立させているタイプのバーガーだ。パッと見、これはしゃらくさいインスタ飯っぽく思えるかもしれないが、チーズ、肉、オニオンの無骨な布陣を見れば侮っていられなくなるだろう。バンズもしっかりバターを塗って焼き付けている。

食べるときには専用の包み紙に注意深くバーガーを収めて、具が飛び出さないように上下からギュッとおさえてから串を外す。そして、熱いうちにかぶりつく。なんとも肉肉しい。オニオンもよく加熱されていて柔らかく、染み込むように甘い。なんだかすごくアメリカの味がする……アメリカ行ったことないけれど。

実は、俺が58DINERに来たのはこれが初めてではない。2日前の夜、ある人にこの店を紹介されてすっかり虜になってしまったのだ。そのときは、プレートいっぱいに盛られたプルドポークを食べた。会話に夢中で写真を撮るのを失念していたが、こちらも感動的に旨かった。スパイスが馴染んだ肩肉はしっとりとしていて柔らかく、燻製されて固まった表皮との歯ざわりのコントラストを感じられる。付け合せはフライドポテトだったが、ナチョスやハラペーニョと食べるともっと南部っぽくなるかもしれない。

Tokyo Stories

コーヒーを飲んで58DINERをあとにしたが、会場まで戻る道のとんでもない暑さには閉口してしまった。たった数分しか歩いていないのに汗まみれだ。こういうときこそ、涼しげチルなゲームを遊びたい。まさに、『Tokyo Stories』のような。

長蛇の列を前に1日目は試遊を諦めた本作だが、2日目は他の来場者が昼食に行ったタイミングとうまく噛み合ったのか、ほとんど待たずに試遊台へ案内された。僥倖である。

「ドット絵っぽい」と評されるグラフィックが以前から話題を呼んでいた本作だが、実際に遊んで動かしてみると、思っていたよりドット絵っぽさは感じられなかった。どちらかといえば、デメイク風のローポリグラフィックだ。なにがドット絵でなにがドット絵じゃないかとかピクセルアートとはなんぞやとか、そういう話をすると宗教戦争が始まるのでこのあたりは深く触れないでおくが、なんにせよ、青色を基調にしたチルい雰囲気は魅力的だ。

『Tokyo Stories』をジャンル分けすると、ウォーキングシミュレーターに当たるだろうか。試遊した範囲では謎解きやアクションや駆け引きといった要素は一切なく、自販機やゲームセンターにインタラクトして少女の記憶を紐解き考察するゲームという印象を受けた。ウォーキングシミュレーターといえば一人称視点だが、本作は初期のバイオハザードのような固定カメラで描かれる三人称のゲームで、それも異質なレトロさを加速させている。

クーラーの効いた部屋で深夜にゆっくり遊びたい、『Tokyo Stories』はそんなゲームだ。

Death the Guitar

ギターを使って戦うゲームはそう珍しくない。格闘ゲーム『ギルティギア』にはグレッチで殴ってくるイノというキャラクターがいるし、『Hi-Fi RUSH』はギターを弾けない主人公がギター型武器を振り回してリズミカルに戦うゲームだ。

しかし、ギターそのものが主人公のゲームは『Death the Guitar』が初めてかもしれない。

本作はキビキビと動く横スクロールアクションで、主人公は実験場から抜け出してきた殺人ギターだ。殺人ギターなので、当然、追手は殺す。殺さなくては進めない。ボタンを押して殺人的なディストーションサウンドを響かせ、周囲の敵をピンクの血飛沫に変えてしまうのだ。

プレイを進めていくと飛び道具を持った敵が現れたりして、こいつの狙いが鋭くてなかなか厄介だ。だがそういう敵はたいてい音を共鳴させるブロックの上に立っているので、ブロック越しにギターをかき鳴らせば射線の外から殺してしまえる。ギターも敵もたった一撃で死ぬが、リスタートも一瞬でできるので、何度もトライして最強最速の殺人ギターを目指せる。『Hotline Miami』のバイブスを持ち合わせた、ロックでハードコアな傑作の予感だ。もちろん、サウンドトラックも最高の一言に尽きる。

CATO

マーフィーの法則をご存知だろうか?これは日常生活における(大抵はマイナス方面の)経験則のことであり、"トーストを落とすとき、必ずバターを塗った面を下にして落ちる"という法則がよく知られている。もうひとつ、"猫は必ず足を下にして着地する"という法則も有名だ。では、猫の背中にトーストを固定して落とすとどうなるか?

矛盾する二つの法則が同時に働き、猫は回転しながら宙に浮く……これは『バター猫のパラドックス』として知られる思考実験だ。

横スクロールパズル『CATO』の主人公は、まさにそのトーストと猫が合体したトースト猫である。当然の権利のようにトースト猫は回転浮遊できる。さらにトーストと猫は任意で分離でき、なぜかトーストは左右にジャンプできる。表面に塗られているジャムの粘性を利用し、壁に張り付くことも可能だ。トーストの常識を覆すアクロバティックさだが、一方の猫はのっそり横移動しかできない。猫はぐうたらなので。

猫とトーストを操作してスイッチを踏み、次のステージへ進む扉を開けるのが『CATO』の基本的な流れだ。最初はトーストを適当にジャンプさせていればなんとなくクリアできるものがほとんどだが、スイッチを押す順番や猫を移動させるタイミングが次第に複雑になっていく。ファンシーな見た目とは裏腹に、しっかりパズルゲームだった。

試遊で用意されていたステージのラストでタイムアップになったのが今でも悔しいので、完成版が出た暁にはぜひともリベンジさせてもらおう。

文字遊戯

原初のコンピュータRPGであり、ローグライクというジャンルの始祖でもある『Rogue』が登場したとき、ビジュアルはすべて文字で表現されていたという。たとえば、「|」と「-」は壁、「+」は扉、「@」はプレイヤーだった。つまり、アスキーアートだった。これはもちろん当時の技術的制約によるものだが、『文字遊戯』はそれをこの時代に、しかも漢字でやろうとしているヤバいゲームだ。

このプレイ画面を見れば分かるが、プレイヤーは「我」で、道の両端には「道」と書かれている。犬が吠えれば「ワン」が飛び出す。「木」と「樹」の漢字が組み合わさることで樹木が表現されている。文字なのに、見える。大事なのは漢字を感じる力だ。

実際のプレイはといえば、RPGというより文字を使った倉庫番パズルといった雰囲気だった。識字の勇者である「我」には文字を動かす力があり、それを使って事象に干渉できる。ナレーションの文章もまた文字なので干渉でき、「先へ進むのは不可能だ」という文字の「不」を消し去って、文字通り不可能を可能に変えてしまったりできる。解き方をひらめいたときの固定観念を壊す感覚が新鮮だった。

このゲームは台湾の開発者が作っているので、もとは繁体中文だ。当然、パズルのトリックやゲームメカニクスもそれに合わせて作っている。それを日本語に翻訳するというのは──同じ漢字文化圏とはいえ──ほとんどゲームを一から作り直しているようなものではないか。開発陣と翻訳者たちの狂気じみた努力を想像すると、思わず目眩がしてしまう。

ウマ娘 プリティーダービー 熱血ハチャメチャ大感謝祭!

くにおくんじゃねーか!!!!!!!!

ニンテンドーダイレクトで発表されたときは皆そう言っていた『ハチャメチャ大感謝祭』がBitSummitに出展されていた。話のネタになると思って試遊してみたところ、これは確かにくにおくんだがそれほどくにおくんでもないという、なんだか奇妙な感覚に陥った。

なぜかゲーム画面は撮影禁止だった

本作は4つのモードで対戦でき、BitSummitで遊べたのはそのうちの"大障害"にあたる。起伏に富んだ横スクロールのステージを4人で競争し、各区間の順位で得られるポイントとコース上の蹄鉄を拾うことで得られるポイントの合計が最も多いプレイヤーが勝利する。学園を出発し、商店街を走り、民家の中まで走り抜け、アイテムでの妨害もアリというハチャメチャさはまさにくにおくんという感じで……くにおくんじゃなかった。

ともかく、『ハチャメチャ大感謝祭』は本家くにおくんのカジュアルさはそのままにスピード感が増しており、パクリにとどまらないウマ娘ならではの良さも感じられた。個性豊かなドット絵は見ていて飽きないし、フルボイスの実況もテンションが上がる。また、コースを走り切るとウマ娘たちが最終コーナーを曲がりデッドヒートを繰り広げるムービーが入るのだが、これもシンプルながらアツい演出だ。

くにおくんといえば子供たちのリアルファイトを生むすごい対戦ゲームだったが、ウマ娘が令和のリアルファイト製造ゲームになる日は案外近いのかもしれない。

さいごに

BitSummitは、ただの見本市でもなければ、ショーイベントでもない。これはむしろ、文化祭であり、ファンミーティングであり、ゲーム愛の頂点サミットだ。主役がインディーゲームであるからこそ開発者との距離が近く、プレイヤーと開発者は試遊や会話を通じてゲーム愛を確かめあえる。その機会こそが本当に貴重で、尊い。

ゲーマーのゲーマーによるゲーマーのための神イベントであるBitSummitは、俺にとって最高にアツい夏の思い出となった。

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