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非日常⇔日常のトリップ!!「うえののそこから「はじまり、はじまり」荒木珠奈 展」

ファンタジックでちょっと不気味なビジュアルが目を惹く、うえののそこから「はじまり、はじまり」荒木珠奈 展。7月22日(土)より東京都美術館で開幕したこちらの展示は、「おちらしさん8月号」美術版でもチラシをお届けしています。

作家・荒木珠奈さんが生み出すのは、遊び心に溢れ、温かく魅惑的な作品たちです。体験型のインスタレーション作品をはじめ、荒木さん独自の世界観にギュッと入り込み、味わい尽くせる展示となっています。開幕直前に行われた内覧会にてお聞きした、本展の魅力をたっぷりとご紹介します!!


左から、展示の企画・構成を担当された熊谷香寿美さん、作家の荒木珠奈さん

荒木珠奈さん:
今回の展覧会の依頼をいただいたのは約3年前でした。しばらくしてコロナ禍が始まり、ほぼ何も進まないまま暮らしているニューヨークでは厳しいロックダウンになり、展覧会も1年延期になり……といったところから始まっています。2022年にはこちらで外国にルーツを持つ子どもたちとワークショップをしまして、それも展覧会との繋がりを持たせています。上野を取材した新作と、旧作をセレクションして展覧会を作ってきました。

熊谷香寿美さん(東京都美術館 学芸員):
荒木さんには、上野の土地の記憶に着想を得た新作をお願いしました。90年代から活動されていますが、今回の展覧会では、旧作から新作まで約120点近くを網羅しています。荒木さんの魅力溢れる作品群を、時代を問わず皆さんに楽しんでいただければと思っています。

chapter 1 旅の「はじまり、はじまり!」
The Story Begins!

日常と非日常を超えるような世界観が素敵な荒木さんの作品。第1章では「旅のはじまり」をテーマに、荒木さんが90年代前半に活動されていたメキシコに着想を得た作品から展示がスタートしていきます。まずは、音の出るオルゴールがお出迎えです!

《無題》(1995)

荒木さん:これは曲を聴きながら、想像の中で旅をするイメージです。例えば一冊本を読み終える間も旅と言えるかもしれないし、実際に行くだけではない、いろいろなタイプの旅をイメージした作品を作ってきました。

額縁それぞれの下にねじまきが! 複数の曲を同時に聞くこともできます。

荒木さん:この作品も旅行先で泊まった部屋のベッドサイドのテーブルに作品があったら素敵だなとか、電車の窓辺にある小さいテーブルのようなところに置ける、携帯できる作品といったイメージで作りました。こちらは箱にしまうことができるのですが、見る人がアクションを起こして、違う形に作品が動いて完成するといったようなものが好きで作ってきましたね。

《夜》(1999)

こちらは、メキシコに住む人々の逞しい暮らしから着想を得られた作品。メキシコでは、他所の電線を引っ張ってきて自分の電気として使ってしまうことがあるそうです。明かりが灯った街の様子が浮かび上がります。

《Caos poetico(詩的な混沌)》(2005)東京都現代美術館蔵
紙箱には、荒木さんの集められたチラシや紅茶のパッケージなどが貼られています。

好きな箱を選び、吊るされているソケットにコンセントを差し込むとまた1つの家に明かりが灯る。参加型で楽しめる作品です。

選んだおうちによってライトの色も異なります。これは透明でした!

chapter 2 柔らかな灯りに潜む闇
Darkness amid the Gentle Glow

第2章では、2つのインスタレーション作品が展示されています。

1つ目は、荒木さんが小さいころに住んでいた団地をイメージした《うち》。木の小箱ひとつひとつがお部屋になっており、参加者が鍵を開けて、温かな暮らしを覗くことができる作品です。

《うち》(1999)
部屋番号は順不同なので、見つけるのがちょっと難しいところも楽しいポイントです。
展覧会ファシリテータ・通称「ケエジン」さんがお手伝いしてくれますよ!

荒木さん:うちというタイトルには「家」と「内」という意味を込めています。団地の画一的な外側と、家の内側にある温かい日常やそれぞれに違った家庭があることをテーマにしました。箱の内側には生命力や温かさを感じる、蜜蝋や柔らかい素材を使っています。

《うち》の解説をされる荒木さん。後ろにはお部屋ごとの鍵が掛かっています。

2つ目は一転。ぞわっと感じるような《見えない》という作品です。

《見えない》(2011)

荒木さん:2011年の東日本大震災の直後に作りました。原子力発電所の事故があり、自分にとって危険な物質が迫ってくるのにそれが見えないことにとても恐怖心や嫌悪感を感じて。それを黒い素材で表したインスタレーションです。メキシコに多く生息するリュウゼツランという植物の繊維を染めて作っています。

chapter 3 物語の世界、国境を超える蝶
The World of Stories, Butterflies Crossing Borders

第3章では、荒木さんの作品の中でも物語を感じさせる旧作、ニューヨークで暮らすなかで考えられた多様性をテーマにした近作が集められています。

《本の中の劇場》(2009)

荒木さん:私はメキシコで銅版画を勉強したので、初期のころの作品はメキシコの自然の色や土の色に影響されて、茶色・赤・白・黒のものが多いですね。

《思い出ボウル》(1999)
《花散らしの雨》(2000)

詩人であるご友人、マヤの先住民の方など、荒木さんが様々な人と一緒に作った作品も見ることができます。こちらは北米とメキシコの森とを渡る「モナルカ蝶」をテーマにした作品です。

《Refuge3》(2021)

荒木さん:メキシコに住んでいる90年代に、何億頭というような蝶が一つの森に集まっているのを見て、ものすごいインパクトを受けた記憶がずっと残っています。ニューヨークに住んで自分が移民という立場になったときに、国境と関係なく移動できる蝶々と、トランプ政権で壁があって移動できない中南米からの移民の人たちのことを考えるようになり、蝶々で移動する人々を表現しました。

「ワークショップ 昔ばなしがきこえるよ」(2022)での作品

荒木さん:立体作品を作るにあたっては、蝶々がテントのような形で止まっている造形を思いついて。テントのように安心して隠れられたりとか、中に籠ったりできるような場所という意味を込めています。2022年に行ったワークショップでも、中で絵本を読んだり、お話ししたりできるスペースを子供たちに自ら共同制作してもらいました。

chapter 4 うえののそこ(底)を巡る冒険
Venturing into "The Depths of Ueno"

展示会場の1番低いフロアとなる、第4章のエリア。《記憶のそこ》というインスタレーション作品が展示されています。展示の目玉となる、上野に着想を得た荒木さんの新作です。

《記憶のそこ》(2023)

荒木さん:「上野という土地を行き交った人々」をテーマにしています。例えば戦時中に戦災孤児が集まったり、闇市があったりなど、今上野公園を歩いていても見えない歴史の記憶の断片が、美術館の地下3階に飛び回っているようなイメージで作りました。

荒木さん:大きい造形物は「ケージ(cage)」です。鳥かごやトランプが作っていた国境の壁の柱からインスパイアされて作り始めました。中から人が出てきたような歪曲した跡や、上の束ねている部分は誰かがぎゅっと握って跡が残っているようなイメージにしています。鳥かごは鳥が逃げないように守っているようでもあり、自由に飛んでいかないように閉じ込めているものでもあり、その二面性から出てきた形です。

「ケージ」の作成過程は、展示されているドローイングや焼き物でも見ることができます。

荒木さん:「ケージ」の周りの2つの鏡が繋がって回っているものは、闇夜に光る動物の目や、生き物の気配、魂みたいなものが浮遊しているようなイメージです。映像では上野の色々な出来事を集めた浮世絵や昔の写真、最近自分が撮ったものをランダムに見せています。

床には「ケージ」の破片のようなものも見られます。

今、目の前に見えているものだけでない、過去との繋がりがあり、この場所にいる当たり前のようで不思議な時間軸そのものを感じられる空間となっています。

地下の展示室を「底」と捉えた面白さは、上から見て感じることもできますよ!

荒木さん:夏なので、子どもたちや若い人たちにもたくさん見ていただきたいです。暑い夏に涼しい美術館の中で涼んで、地下に潜って、どこかにトリップしてしまったかのような体験を楽しんだりいただければと思います。

非日常と日常の狭間に入り込むように楽しめる、うえののそこから「はじまり、はじまり」荒木珠奈 展。ミステリアスでありながら、温かく柔らかな荒木さんの作品は、誰もが好奇心のままに惹きつけられる魅力に満ちています。上野の“そこ”にたどり着く冒険は、夏休みや芸術の秋にもぴったりです!

文:清水美里(おちらしさんスタッフ)

うえののそこから「はじまり、はじまり」
荒木珠奈 展


会期:2023年7月22日(土)~10月9日(月・祝)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・B・C
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館

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