メディアアートに人気(ひとけ)を感じられない理由
初めまして。
慶応義塾大学大学院メディアデザイン研究科の研究プロジェクト「FutureCrafts」内のメディアアートチームです。
これからメディアアートやAIといった最新のトピックについて語っていきたいと思います。
あなたはアートと聞いて、作者の個性や人生が尊重されるイメージを持っていますでしょうか?
メディアアートというテクノロジーを使ったアートではそれらが抜けていても成立している場合が多いです。
美術史を辿っていけばその理由に納得できます。
見てみましょう。
◆美術史のおおまかな流れ
ここでざっくりと美術の流れを見ていきましょう。
結論から言うとミニマリズムの動きがメディアアートの作家性の損失に関わっているのです。
もともとアートは、貴族の肖像画を描く仕事として始まったことは有名です。絵の具もとても高価で自由に絵を描くことはできませんでした。それが①のルネサンスの科学進歩により、作家の好きなモチーフを描くことができるようになりました。アーティストは作家性があって当たり前の世界になったのです。
そこで、本来当たり前にあるはずなのに、メディアアートに作家性がなく感じるのは、⑪のミニマリズムが関わっています。
ミニマリズムとは、作品に使われている装飾を極限まで省略化するようなアートのことをいいます。抽象表現主義の感情的な表現の反発から生まれた影響もあり、作家性が削られています。ミニマリズムの有名な作品の中には、ただの金属の塊が置かれているだけのものもあります。なぜそれがアートなのでしょうか?
そこには、作品と鑑賞者の対話をさせることを目的にしている美術の概念が関係しています。
例えば、白熱灯を使ったアートがあるとしましょう。
白熱灯に作家自身が何を感じているのかを考え、作者は自分の中の抽象的・象徴的なイメージを追加して、作品をつくるのが当たり前と思われます。しかし、ミニマリズムでは白熱灯という物体だけに目を向けてもらえるように作家自身がどう感じたかという要素を排除し、白熱灯自体の物質的な特性に目を向けてもらえるようにするということです。
どう感じたかという作家性よりも、作品のマテリアル(素材)に着目して鑑賞してほしいというのがミニマリズムです。メディアアートはミニマリズムの影響を受けており、作家性がなくても成立してしまう理由なのです。
◆テクノロジーの介入したアートの正体
それではミニマリズムからメディアアートが出てくるまで、どのようなアートが生まれてきたかみてみましょう。
この流れを見ると、作家性を押し出すよりも自然の地形などを使うようなものや素材に着目したアートが多くあることがわかります。コンセプチュアルやインスタレーションなどは有名ですが、これらはコンセプトや体験を鑑賞者側に委ねて、それぞれの鑑賞者に理解してもらうことを目指しており、わたしたちが当たり前のようにアーティストが大事にしていると思われる作家性が失われていることがわかります。
加えて、メディアアートに使われるテクノロジーは、コンピューターという物体を用いており、プログラミングされたコードに身を任せて表現することで、作家の個性や感情が直接的に表現されるようなことはないということが多いです。
メディアアートにおいて、ルネッサンス以降なくてはならなかった作家性が消えてしまったのは、ミニマリズムなどの影響により作家本人の気持ちよりも”鑑賞者の気持ち”にベクトルが向いたこと、使っているテクノロジーやマテリアルを前面に押し出したことが起因していると考えられます。
◆まとめ
いかがだったでしょうか。
メディアアートからルネッサンス以降主流だった作家性の重要性があまり感じられない背景にはミニマリズムやその後に続いたアートからの影響と、鑑賞者側の気持ちへのテーマの変化が影響していたのです。
正直、私がこのことを知った時に、私自身の感情をアートにぶつけることはできないのかと失望しました。ただし、ミニマルアートを否定した作家の感情に重きを置く新表現主義から派生した現代アートがあったり、作家性を大事にするメディアアーティストもいるでしょうし、今後メディアアートから新しい美術の流れが生まれる可能性があります。
メディアアートには作家性よりも、素材や鑑賞者の気持ちの方に重きをおいていることがわかると、作品を鑑賞しやすくなるかもしれません。Future Craftsは、素材のもつ性質と職人技を大切にして、メディアアートを含む様々なものを世の中に生み出していく研究室であり、このような新しい美術も研究対象としています。
これからメディアアートやAIに関する最新のトピックを発信していきたいと思います。
よろしくお願いします!
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