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「良い見出し」を目指す13文字の千本ノック? Yahoo!ニュース流・新卒社員の育て方

Yahoo!ニュースでは、新聞や雑誌などの報道機関から転職してきたスタッフが大勢活躍しています。その一方で、2011年から新卒採用も行ってきました。Yahoo!ニュース トピックス編集やSNS運用など独特のノウハウを要する同編集部では、新人に対してどのような教育、研修をしているのでしょうか?

今回は人材教育担当者の話をひもときながら、5年前に新卒入社した生え抜き編集者の事例をサンプルに、Yahoo!ニュース トピックス編集部の考え方や育成手法にアプローチ。日々、膨大な情報が集まるYahoo!ニュースの編集力とは何か、その根幹に迫ります。

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

Yahoo!ニュースの編集者に求められるのは「価値判断力」

「2010年以前は、新聞社や通信社、出版社などで経験を積んだ人材の中途採用が中心でした。新卒採用を始めたのは、メディア構造の変化に合わせて、若く柔軟な発想を媒体に取り入れたいという目的によるものです」

そう語るのは、Yahoo!ニュースで編集業務の傍ら、人材教育を担当している井上芙優さん(2012年入社)です。

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数ある記事の中からピックアップする記事を選び、13文字の見出しをつけて配信するYahoo!ニュースの編集者。従来の紙メディアの記者とは少し違う視点が求められるのは想像に難くありません。

では、未経験のまっさらな状態の人材を、Yahoo!ニュース トピックス編集部ではどのように教育しているのでしょうか。まず、何よりも重要なのは「価値判断力」であると井上さんは語ります。

「毎日集まるニュースの内容を見極めるのはもちろん、記事ごとの重み付けや媒体特性の理解など、ひとくちに価値判断力といっても、やるべきことは多岐にわたります。また、同じ内容のニュースを扱う新聞社や通信社、出版社などのコンテンツパートナーが複数ある中で、なぜその記事をトップページに採用したのか。Yahoo!ニュースの編集者は自身の中に判断基準を持ったうえで、明確に説明できなければいけません」(井上さん)

そこでYahoo!ニュース トピックス編集部では、新人教育として通称「千本ノック」と呼ばれる研修を課しています。

「入社後は新卒も中途も関係なく、まず実際の記事を読んで、次々に見出しをつけていく研修を行います。私自身もこの『千本ノック』を受けましたが、最初はどういう見出しがYahoo!ニュース トピックスらしいのか全く分からず、すごく苦労したのを覚えています。書いた見出しに先輩方から講評をいただき、手直しを繰り返してどうにかコツを身に着けていきました」

前職は通信社記者であったという井上さんをしても、やはりYahoo!ニュース トピックスの編集業務には、独特のノウハウが求められる様子がうかがえます。

「新聞一面当てクイズ」で肌感覚を養う

新卒入社の5年目社員、高橋洸佑さん(2015年入社)も、そうした『洗礼』を浴びた1人です。

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もともとマスコミ志望だった高橋さん。新聞社などへの就職も視野に入れながら、当時はまだ新卒の進路としては珍しかったネットメディアの編集者を目指すことに。研修期間には次のような経験を積みました。

「やはり実際に記事を探して見出しをつけるという、実践的なトレーニングが中心でした。とはいえ、そもそも社会人としても編集者としても未経験者なので、並行して座学も受けました。メディアの歴史や文化を学んだり、コンテンツパートナーのオフィスを訪問して意見交換をしたり。さまざまな角度から編集者としての基礎を学びました」(高橋さん)

報道の基礎はもちろん、拡散や炎上といったネット記事ならではのリスクまで、徹底してレクチャーを受けたと語る高橋さん。とりわけ苦労したのは、やはり13文字の見出し作りだったそう。

「膨大なニュースが飛び交うネットの世界では、見出しだけを読んで記事の内容を勘違いされてしまうことも起こりえます。13文字の中で、いかに誤解なく、かつ多くのユーザーにその話題に関心をもっていただける表現をするのか。それまで使うことのなかった頭を使う作業で、当初はかなり戸惑いました」

また、記事をセレクトする際の価値判断については、研修期間中にやっていた『新聞一面当てクイズ』が役立ったと言います。

「その日のニュースを総ざらいし、翌日の新聞一面に採用される話題を予測する研修です。Yahoo!ニュースに配信される記事を見ていると、その1日に起こったことがほぼチェックできます。その中で、新聞各紙がどのような重み付けをして、一面で報じるのかを考える。何度もやっているうちに少しずつ的中率が上がっていくんです。そうした各紙の判断基準を、初期はかなり参考にさせていただきました」

たしかに、Yahoo!ニュース トピックス編集部でトップページに相当するのが各紙の一面。これも同編集部らしい取り組みと言えるでしょう。

取材をしない編集者の存在意義とは何か?

もちろん、こうした価値判断力は一朝一夕で身につくものではありません。新人時代にはさまざまな苦労や失敗も経験したと高橋さんは語ります。

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「例えば、Yahoo!ニュース トピックスには『ココがポイント』という、ニュースをより深く理解するための情報を掲載するコーナーがあります。ここは編集者が一からニュースを選び、構成を考えるため、個々のカラーや思いが投影しやすいスペースです。ただ入社当初は何も考えず、ただ関連する他メディアの記事を並べており、先輩から『おまえは何がこのニュースのポイントで、このニュースを通じて世の中に何を伝えたいのか、何を問いかけたいのかを考えていない』と指摘を受けました。つまり、編集作業に意志がないとお叱りを受けたんです。この指摘は、その後のキャリアに大きな影響を与えていると感じています」

編集者として、確固たる意志が必要であることを、痛烈に思い知らされたと振り返る高橋さん。これ以降、ニュースに対する向き合い方が変わり、「とにかく愚直に、多くのニュースに触れる」ことを意識しながら、アンテナ感度の向上に努めるようになったのだそう。

「Yahoo!ニュースの影響力を実感することもしばしばあります。だからこそ、担当記事に対する世の中からのフィードバックを大切にしながら、さらにバランス感覚を高められるよう心がけています」

そして入社5年目を迎えた今年、Yahoo!ニュースのSNS運用チームのプロジェクトマネージャーなど、高橋さんは責任あるポストに着任。さらに現在は、20代ユーザーを獲得するための施策においても腕をふるっています。

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「特にエンタメ分野などでは、関心事に対する世代間ギャップが広がっています。編集部としては、どうすればより幅広い世代に読んでもらえるかを考えなければなりません。例えば、大河ドラマの話題なら内容をそのまま伝えてもなかなか20代には届きませんが、出演する人気若手俳優の名前を見出しに組み込むだけで、がらりと反響が変わります。そういった用いる言葉によって、読者層が変わる傾向を生かして、若年層へのアプローチを進めているんです」

若年層が関心を持つテーマやワードを研究し、Yahoo!ニュースのユーザー全体の底上げを図ろうというこの取り組み。先だって催されたコンテンツパートナー向けのカンファレンスでは、高橋さんは約600人のゲストを前にこのテーマでスピーチを行いました。

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こうした高橋さんの活躍ぶりは、5年の経験で育まれたYahoo!ニュース編集者としてのマインドが、確実に花開きつつあることを感じさせます。

膨大データを生かしたコンテンツ展開を

「折しもYahoo!ニュース トピックス編集部では、今春から新たな人材育成プログラムの検討を始めたところです。これに合わせて、Yahoo!ニュースの編集者とは何か、何が求められるのか、再定義を進めているんです」

そう語るのは、再び前出の井上さん。井上さんが入社した2012年当時はまだ、Yahoo!ニュース トピックス編集者の業務はトップページを中心に掲出されるYahoo!ニュース トピックスが中心でした。

しかしその後、オリジナルの取材記事である「Yahoo!ニュース 特集」やスポンサードコンテンツの編集制作など、担当領域が急拡大。編集部内における編集者の役割が変わっていくのに合わせて、新しい感覚を持った人材が求められるようになっていきます。

変化の激しいネットメディアの世界だからこそ、Yahoo!ニュース トピックス編集部ならではの立場とキャリアプランを提示する必要がある、というわけです。

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「Yahoo!ニュースの編集者には、記事を出して終わりではなく、それをどう届けるか、あるいはどう読まれたかまで考えられるマインドが求められます。そのために、Yahoo!ニュースに蓄積された膨大なデータを生かして、数値面からの分析を進めつつ、読者にきちんと情報を届けるためのコミュニケーションまでコンテンツパートナーの皆さんと一緒に考えていきたいですね」(井上さん)

編集者と一緒にメディアが年をとってはいけない。井上さんはそう強調します。

「新卒採用を始めてから8年。現在の編集部には、新卒社員と中途採用組がいい形で混ざり合い、互いの視点を学び合う風潮も生まれています。他方では、経験年数に関わらず優れた人材には活躍の場があたえられる土壌があるため、意欲的な人材にとってはキャリア設計のしやすい環境と言えるのではないでしょうか」

ますます競争が激化するネットメディア全盛の今だからこそ、新しい発想でデータを活用できる人材が求められています。若い人材たちの成長が、今後のYahoo!ニュースにどのような変化をもたらすのか、ぜひご注目ください。


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