見出し画像

メディア業界にも広がる働き方改革の波――兼業ライターの日常とは

(画像:アフロ)

※こちらの記事は、2018年3月に掲載した記事の転載です。

休みもろくに取れず、締め切り前となれば夜を徹してパソコンと向き合うこともざら――。そんなイメージが根強いライター業は、いわゆるワーク・ライフ・バランスとは無縁の職業と思われがちです。

ところが昨今、「働き方改革」の一環として、ロート製薬やソフトバンクといった企業が続々と副業・兼業を容認し始めています。そんな世の流れに呼応するかのように、メディア業界の事情もだいぶ変わりつつあります。プライベートの時間をしっかりと確保したり、自己実現のために他の仕事との両立を図ったりする“兼業ライター”が増えているのです。

子育てや家事との両立。会社勤めをしながら、副業としてライター活動を続けるパラレルキャリア。今回はそんな兼業ライターの2人にご登場いただき、その実態を探ってみました。

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

執筆活動と家事・育児を両立する兼業主夫

「平日は毎朝6時に起きて、2人の子どもが学校へ行くまでの間に、朝食の支度や洗濯、風呂掃除などを済ませます。妻が出勤した後に子どもを送り出し、ようやく一息つくのが8時頃でしょうか。それから長女が帰ってくる15時半くらいまでが、ライターとしての自分の時間になります」

そう語るのは、2015年からフリーライターとして活動している井上マサキさん。もともとは大手企業のSEとして15年ほどキャリアを積んだ井上さんですが、趣味で運営していたiPhoneブログが話題になり、少しずつメディアに寄稿するようになったのがライターに転身したきっかけ。現在は、取材・執筆活動と家事を両立しながら活躍しています。

(Webメディアを中心に活躍中の井上マサキさん。ライターのほか、路線図研究家としての顔も)

SE時代に結婚し、今では10歳の長女、7歳の長男との4人家族。奥さんは派遣社員として働いています。取材や打ち合わせなどのアポイントがない日は、基本的に自宅でパソコンに張り付く毎日ですが、ライター業と家庭の両立は決して簡単ではありません。

「上の子が帰ってくると、『おやつどこ?』とか『宿題でわからないところがある』とか、何かと騒々しくなるので、仕事の手はいったん止めざるを得ません。日によって友達を連れてくることもありますから、それまでにどれだけ集中して執筆できるかが勝負です。17時半になったら学童保育所に下の子を迎えに行き、その前後に帰宅した妻が夕食の支度をしてくれる、というのがいつものパターンですね」

締め切り前など、どうしても仕事の手が離せない時は、2人の子どもが寝静まった22時以降に、再びパソコンに向かうこともあるのだそう。なかなかにハードな生活ですが、井上さんの表情は実に晴れやかです。

「SE時代は帰りが遅く、家事・育児に参加したくても、子どもを保育園に送って行ったり、休みの日に掃除洗濯をしたりするのがやっとでした。しかし、会社を辞めてフリーランスのライターになってからは、毎日家族そろって食事ができるし、子どもたちと触れ合う時間もたくさん取れるのがうれしいですね」

夫婦間でスケジュール調整はカレンダーアプリで

とはいえ、何かと外出も多いライター稼業。どうしても家を空けなければならない時は、どう対応しているのでしょうか。

「たとえば、夕方の時間帯の取材や、泊りがけの出張を伴う依頼をいただいた際は、まず妻とスケジュールを相談します。妻が早めに帰ってこられる日であれば、私の仕事を優先させてもらうようにしています。そうしたコミュニケーションをスムーズに行えるように、夫婦間でカレンダーアプリを使って情報を共有しているんです」

夫婦2人でスケジュールを調整しつつ、ライターとしての仕事と、夫や父親としての家事・育児を両立している井上さん。ちなみに夫婦間における家事の分担については、「はっきりと線引きはしていない」のだそう。

「女性はどうしても出勤前の身支度に時間がかかるので、自然に朝は手が空いている自分が家事をやるようになりました。それに、たとえば長女の髪をポニーテールに結ってあげるのも、手の大きい自分がやったほうが効率的だったりしますからね(笑)」

その一方で、どれほど魅力的な案件でも、家庭の事情で泣く泣く断らざるを得ないことも。「海外出張など、1週間以上外出しなければならない依頼は、まずお受けできないのが今の悩みです」と井上さんは言います。

また、子育てには何かとイレギュラーなことが付き物。話を聞いたこの日の朝も、ちょっとしたアクシデントに見舞われていました。

「実は今朝、子どもがインフルエンザにかかってしまい、急きょ学校を休ませて病院へ連れて行ったところなんです(苦笑)。今日は幸い、妻が付き添っていられる日だったので事なきを得ましたが、子どもに関してはこちらでコントロールできないトラブルが意外と多いので、その都度夫婦で協力し合いながら臨機応変に対応しています」

時には、昼も夜もなく仕事に打ち込める専業ライターをうらやましく思うこともあると語る井上さんですが、子育てを楽しめるのも今のうちだけ、との思いもあるようです。

「これから子どもが成長するにつれて、子育てにかかる負担や労力はどんどん減っていきます。何より、家族の存在がライターとしての原動力になっている面もある。これからますます学費もかかりますし、子どもたちの将来のために、今後はライター業をもっともっと頑張っていきたいですね」

日本一周の旅がライター活動のきっかけに

一方、「お見合い相手をクラウドファンディングで募集する」という、なんともユニークな取り組みで注目を浴びたのは、ライターのたけべともこさん。2年前の2016年、この話題はハッピーないきさつとともにネット上で大きく拡散されたので、ご存じの方も多いのではないでしょうか。

(ユニークな着想と178センチの長身を武器に活躍するたけべともこさん。クラウドファンディングでのお見合い相手募集は、海外でも話題に)

そんなたけべさんは現在、国内最大級のクラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」の広報担当という顔を持つ傍ら、副業(複業)でライター活動を継続しています。

「大学卒業後、一度は小売業に就いたのですが、2年で辞めて47都道府県をめぐる旅に出ました。3カ月かけて全国を回り、各地での旅路をSNS上でレポートするうちに反響が大きくなっていき、結果的にライターの仕事につながるさまざまな出会いやご縁を得ました」

日本を一周しながらつづったSNS投稿が、あるメディアの担当者の目に留まり、ライター活動をスタートしたたけべさん。CAMPFIREを使った“お見合いクラウドファンディング”のアイデアも、仕事を通してインターネットの活用を模索していく過程で思いついたものだったそう。さらには、これがCAMPFIRE入社のきっかけになったのです。同社は副業や子連れ出勤など個人に合わせた働き方を推奨しており、ライターの仕事を続けながらの会社員生活が始まりました。

しかし、フルタイムの会社員とライター業とのパラレルキャリアは、決して楽なものではありません。

「毎朝10時に出社して、19時まで仕事をしています。社内外向けの広報資料を作ったり、社長(家入一真さん)が登壇したイベントレポートをチェックしたり、社内にいる時はパソコンに向かって何かを書いていることが多いですね。ライターとしての仕事は、20時以降もしくは週末を取材や原稿執筆に当てるのが基本です。体力的に0時までには寝たいタチなので、そのペースを崩さない範囲で依頼を受けるようにコントロールしています」

副業を始めた当初は、自身の適正な仕事量がつかみきれず「おもしろそうな仕事を片っ端から引き受けてしまい、寝不足で出社することもありました」と語るたけべさん。現在は兼業ライターとしてのキャパシティーを踏まえ、あくまでCAMPFIREの仕事を本業として、優先順位を間違えないよう心掛けていると語ります。

ライターとの兼業で大きく広がる視野

では、ライターとしてのモチベーションや目標はどこにあるのでしょうか。

「私はもともと文学部出身で、文章を書きたい欲求が人一倍強いんです。なので、こうしてライターとして仕事をさせてもらうこと自体がうれしいですし、1つの仕事をしているだけでは得られない発見や出会いが多々あることを実感しています。また、ライターとして出会った方からクラウドファンディングの相談を受けるなど、本業にプラスの影響も少なくありません。最近はだいぶ二足のわらじの履き方を覚えてきたように思います」

CAMPFIREは2018年で創業8年目を迎えたベンチャー企業。現在、社員数は80人を超え、人員が確保されているため、過度な残業や休日出勤はないのだそう。副業を推奨する社風とともに、こうした環境がたけべさんのライター活動を後押ししています。

「うちは副業OKというより、むしろ『どんどんやりなさい』と言ってくれる会社なので、同じように兼業ライターをやっている同僚と情報交換することも多いです。将来的にはウェブだけでなく紙のメディアにも活動の場を広げていきたいですし、新たな執筆ジャンルも開拓していきたいですね」

いつかライター専業になる可能性も否定しないたけべさん。しかし、現在の本業はあくまでCAMPFIREの仕事であると明言します。

「今は会社が急成長しているタイミングで、広報として働く毎日がとても楽しいです。今やるべきことをしっかりやった先に、いつかライターとして独立する未来があれば楽しいですね」

「news HACK」は、Yahoo!ニュースのオウンドメディアです。サービスの裏側や戦略、データを現場から発信します。メディア業界のキーマンや注目事例も取材。編集とテクノロジーの融合など、ニュースの新しい届け方を考えます。