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【イベントレポート後編】NEXCHAINオープンセミナー ~これからの環境を考える~持続可能な未来を創る

こんにちは、NEXCHAINです。

この記事では、2024年2月13日に開催したオープンセミナー「~これからの環境を考える~持続可能な未来を創る」で実施した、パネルディスカッションの内容をご紹介します。

前回の記事では、経済産業省 産業技術環境局GX金融推進室長(兼)GX推進機構設立準備室長の梶川 文博 氏にご講演いただいた基調講演の内容について、ご紹介しました。

前回の記事はこちら:

パネルディスカッションでは、経済産業省 吉川 泰弘 氏旭化成株式会社 小西 美穂 氏株式会社日立製作所 新開 裕子 氏の3名にご登壇いただき、モデレーターは、NEXCHAIN理事長の市川 芳明が務めました。

各パネラーのご経歴

経済産業省 吉川氏による「サーキュラーエコノミーの実現に向けて」と題した、日本の資源循環経済政策に関する講演からスタートしました。
本イベントの内容は、オンライン配信のアーカイブ動画からも参照いただけます。
ご興味のある方は、是非覗いてみてください。


『サーキュラーエコノミーの実現に向けて』(経済産業省 吉川泰弘氏)

日本の資源循環経済政策は、1991年の再生資源の利用の促進に関する法律(リサイクル法)の制定により1Rから始まり、2001年には資源の有効な利用の促進に関する法律(3R法)が施行され、リサイクル対策の強化やリデュース・リユース対策の新設を行いました。その後、2020年の循環経済ビジョン2020の策定により、「環境活動としての3R」から「経済活動としての循環経済への転換」、グローバル市場への循環型製品やビジネスの展開を目的として、経営戦略・事業戦略として企業の自主的な取り組みを促進する動きが出てきました。そして、2023年には成長志向型の資源自律経済戦略を策定し、日本におけるサーキュラーエコノミー実現のための総合的な政策パッケージを定めました。

吉川氏 講演資料より抜粋

これまでは個別分野でのリサイクルが中心でしたが、今後は全分野での資源循環として、サーキュラーエコノミーの重要性が注目されます。廃棄物になった段階から対策を講じるのではなく、資源性の高い状態で循環させることで、廃棄物にせず有効活用するというサイクルを回すことが大切です。
加えて、EVなどにも多く用いられるレアメタルやレアアースは、大半を海外輸入に依存しており、それらの産出国の中には政情不安等のカントリーリスクがある国もあります。そのため調達リスクがあり、経済安全保障上の問題にも影響が及ぶ可能性があります。

日本には、ものづくり立国としての強みがありますが、鉄・銅・アルミ等の資源は化石燃料を用いて生成しており、その過程でCO2を多く排出しています。この素材製造工程での脱炭素を進めない限り、本当の意味でのカーボンニュートラルは実現できません。
また、日本には“もったいない精神”が根強く浸透しており、各地域には多くの資源も眠っています。こうした強みも取り込みながら、地域を軸にサーキュラーエコノミーに取り組んでいく必要があります。

EUと日本の動向を比較すると、EUから5年遅れでビジョンを策定し、3年遅れで環境整備に動いています。

吉川氏 講演資料より抜粋

EUでは、再生材利用をひとつのテコにした、環境側面からの経済政策の展開を行っています。例えば自動車分野では、「自動車設計・廃車管理における持続可能性要件に関する規則案」が昨年7月に提示され、2030年頃までに、新車生産に必要なプラスチックの25%以上(このうち廃車由来で25%以上)での再生プラスチックの使用を義務化する方向です。

そのような海外動向も踏まえ、日本では、ライフサイクル全体での動静脈産業の連携による「資源循環市場」の創出を目指し、世界と比べて小規模に留まる静脈企業の成長を後押しすると共に、動脈企業の循環型ものづくりを標準化やイノベーションを通じて拡大させていきます。

今後はライフサイクル全体で資源循環に取り組むことが重要ですが、サーキュラーエコノミーの難しさは、「ライフサイクルを通じて循環を繋ぐこと」と「経済合理性を確保すること」の両立です。
例えばリサイクル工程において、その製品に含まれる素材次第ではリサイクル後の再利用に繋げることができない場合もあります。そのため、現状は、コストを掛けずにリサイクルするために大半がサーマルリサイクル*1に回っています。

*1サーマルリサイクル:廃棄物を焼却処理した際に発生する排熱を回収し、エネルギーとして利用すること。

こうした課題に対し、政府としてはGX先行投資支援策を活用し、野心的な目標を掲げてサーキュラーエコノミーの実現に取り組む企業等に対して集中的に投資を行います。また、個別の取り組みだけでは経済合理性を確保できず、ライフサイクル全体を繋げることができないため、サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップ(以降、CPs)*2を立ち上げ、このパートナーシップに集う主体同士の連携を通じ、サーキュラーエコノミーの実現に必要な施策を検討していきます。

*2 CPs:経済産業省が2023年3月に策定した「成長志向型の資源自律経済戦略」を踏まえ、サーキュラーエコノミー実現のために立ち上げた産官学連携のパートナーシップ。会員数は国、自治体、大学、企業・業界団体、関係機関・関係団体等を合わせ349者(2024年2月8日時点)。

パネルディスカッション『持続可能な未来の創造』

-日本企業にとって、欧州の規制や法律は、対応しないとビジネスができない状態になるため脅威であり、これに従わざるを得ません。しかし、裏返すとビジネスチャンスも隠れていると思いますが、そのような状況に対して日本企業への支援策はありますか?(市川)

攻めと守りの姿勢が大切です。欧州は全体のルール設計は得意ですが、その上で現場のオペレーションが上手く回せているのかというと、そうとは言い切れません。一方日本は、技術力に強みを持つことから、決められたルールの中で、自らの強みを最大限活かした立ち回りができると思います。ただ今後は、欧州の規制に対して“守りの姿勢”を貫くのではなく、欧州と上手く連携できる形を仕込んでいく“攻めの姿勢“も重要です。この2つを使い分けることが、日本型のサーキュラーエコノミーを創り上げていくことにも繋がると思います。(吉川氏)

-民間企業としては、サーキュラーエコノミーが本当に事業として成り立つのかというポイントも重要だと思いますが、ご意見を伺いたいです。(市川)

欧州はルール形成がトップダウン型で、日本はボトムアップの積み上げ型という傾向があるといわれます。欧州はコンセプトや野心的目標をトップダウンで打ち出したものの、それを民間側が緻密にデリバリー出来るのかまではわかりません。サーキュラーエコノミーの実現には、ルール形成に加えて、技術力も必要です。リサイクル工程には、動脈である生産ラインとは異なり様々なものが戻ってきますので、それらを生産工程に戻して循環させていくためには多くの技術要素やデジタル連携が重要な鍵となります。日本はそこにも強みがあると考えます。既に個別リサイクル法がある分野では循環が進んでいます。その取り組みを様々なプロダクトに広げていくことは大きなチャレンジであり、同時に事業機会でもあると考えています。(新開氏)

-プラスチックメーカーが、ここまでデジタル事業に取り組んでいることに驚きました。業界全体としてもデジタル分野に舵を切っているように見えますが、その狙いについて教えてください。(市川)

私が所属するデジタル共創本部は、3年前に立ち上がりました。それまでは、デジタル事業はほぼ外部に任せていましたが、設立に際し、デジタル技術を活用しDXを加速していきたいという考えがありました。
また、我々の事業では、バージン材を大量に提供していますが、バージン材がしっかりとリサイクルの世界につながっていくことが必要である、と考えています。この活動に従事し、ライフサイクルのスタートやラストを除いた中間の工程が注目されていないことに気づきました。循環の必要性は分かっていても、そこに価値を創出できなければ、コストや労力をかけてまで対応するモチベーションにはなりません。それらの課題に対し、プラットフォームやデジタルツールを用いて解決したいという想いがありました。(小西氏)

今のバージン材の付加価値を更に高めることが、より良いビジネスに繋がると思います。その情報を自社のみで収集できないのは、サプライチェーン全体としての課題でもあります。サプライチェーン全体の情報を上手く取り込み、素材に対して情報という付加価値を与えなければならないという背景もあるのではないかと感じました。(市川)

-脱炭素はCO2排出をどの程度減らせたかという物差しがありますが、資源循環については、現在様々な指標が検討されているものの、今のところ国際的に共通化された明確な評価指標がありません。資源循環のKPI化はどのように進めていくべきでしょうか?(新開氏)

特に日用品等について、環境価値に対するWillingness to pay(支払い意欲)を与えない限り、安い商品にどうしても手が伸びてしまいます。この状況を打開するため、環境価値を評価することが重要で、環境価値の評価についてはCPsでも今後検討していく予定です。CO2排出量は業界横断で同じ指標で評価することができるため、ファイナンス含めて動いていますが、サーキュラーエコノミーはその段階まで到達していません。他方、サーキュラーエコノミーの指標作りを進めている研究機関等もあるため、そう遠くないうちに指標は整備できると思います。しかし、それが消費者の行動変容にまで結びつけられるかが重要であるため、制度的な手当ても含めて検討が必要と考えています。(吉川氏)

-サーキュラリティ*3が可視化でき、評価できる仕組みがあると良いですね。小西さんは、サーキュラリティの可視化に対して可能性を感じましたか?(市川)

*3 サーキュラリティ:製品や資源の価値を永続的に再生できる能力のこと

まさに質問しようと思っていましたが、情報を開示し連携することは、時としてビジネス上で危険をもたらすこともあると考えています。連携されたデータの情報量が十分でないと循環させる際に価値がなくなってしまいますが、そのためには各企業がビジネスに関わる情報を出さないといけません。情報が開示され、サーキュラリティが可視化・評価されることで循環性は向上しますが、ビジネスの危険性も上がると思います。この危険性に対してどのように対応すべきか、どのようにお考えでしょうか?(小西氏)

競争情報を国が全て管理することはできません。どの情報がクリティカルなのかを考えることが重要だと思います。協調領域の中で、皆が無いと困るような情報は開示して欲しいですが、もしそれが、例えば製品設計等の企業の特許情報に関わる情報の場合、開示を求めることは難しいと思います。仮に開示していただく場合も、システム側でその情報の確からしさを担保出来るような技術と組み合わせることで、秘匿性を保ったまま情報開示先を制御できる仕組みが必要だと考えます。欧州では、DPP*4の中で全ての情報開示を求める姿勢ですが、日本で必要十分な情報を特定することで、欧州とも掛け合うことができ、ひいてはそれが日本企業を守ることにも繋がると考えます。(吉川氏)

*4 DPP:デジタル・プロダクト・パスポート。デジタル技術により、個別の商品に関する原材料調達からリサイクルに至るまで、ライフサイクル全体にアクセスできるデータのこと。

企業間の情報流通を安全に実現するためのネットワークは、NEXCHAINの役割でもあると思います。日本の強みや特性を生かした日本版のサーキュラーエコノミーやDPPを創り上げていくことができれば、我々日本企業にとって、欧州の規制が脅威ではなくカウンターパンチを仕掛けられる武器になるはずです。(市川)

最後に

パネルディスカッション終了後、現地会場では懇親会を行いました。

懇親会の様子

登壇者3名の熱い想いが伝わり、参加者の皆様からは、「非常に勉強になった」「他の参加者とのネットワーキングもでき、満足した」等、嬉しいコメントを数多くいただきました。

NEXCHAINでは、今回のようなオープンイベントを企画して参りますので、皆様の積極的なご参加を心よりお待ちしています。NEXCHAINの活動にご興味がある方は、下記よりお気軽にお問い合わせください。


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