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短編小説「みかんの皮」

 ある寒い日の夜。暖かいおうちの中で、ポツンと寂しそうに1つのみかんの皮が落ちていました。

 こたつ布団の隙間に紛れ、捨てられることさえ忘れられた皮…

 周囲では、住人であるお父さんやお母さん、それに5歳くらいの男の子でしょうか。仲良く楽しそうに話している声が聞こえます。

 そんな声を寂しそうに聞くミカンの皮。

 (楽しそうだなぁ…僕もみんなとお話ししたいよ…)

 確かにそこにあるのに忘れ去られた、そんな存在。

 次の日、掃除機の音で目が覚めたミカンの皮は少しホッとした気分になりました。

 (よかった…これでようやく気付いて捨ててもらえる。)

 掃除機の音が近づき、皮の隠れているこたつ布団がめくりあげられたその時、思いもよらないことが。

 めくりあげられた勢いで吹き飛んだ皮は、近くで遊んでいた子供の目の前に転がりました。

 「あ、みかんの皮だ!これお船みたい!ねえパパ、お風呂に浮かべて遊ぼうよ!」

 「おっ、いい考えだね!じゃあ、ちょっと早いけどお風呂入っちゃおうか!どうせならお湯が溜まるまでの間に…もう少しお船を増やしちゃおう!ぱくぱくぱく…」

 「パパずるい!ぼくもぼくも!」

 「もう、ぱぱったら、みかん食べたいだけじゃない」

 今日もあふれる笑い声、でも昨日よりも少し賑やかな笑い声。

 特別な日ではないけれど、子供の想像力という無限の海原へ出航し、家族の大切な思い出になっちゃった。そんな船のお話。

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