見出し画像

#シロクマ文芸さん2回目の投稿です。〈シリウスの光の中で〉

シロクマ文芸部
お題「梅の花」から始まる文章

梅の花のわずか後ろの深い深い青色の上で眩しく光るのはシリウスであろうか、その星の光の上を辿るように花びらがひらひらと舞う。
青く白くキラキラひかる。光っては舞う、舞っては光る。
ピンとした冷たい空気を割って隙間を作ると次々にその間に光は着地し
静まり返った冷たい土の上を青く白く染めていく。
一枚づつになった花びらは、分厚く張った氷の上に映し出された星空のようにあちらこちらでキラキラ光るのであたりはうっすらと明るくなり始め、ベレエ帽の少年はゆっくりとその姿を鮮明にしていました。
少年は散った花びらや転がった小石の上をとん、とん、とん、っと飛びながら向こうの金木犀の木のてっぺんに立つと当たりを見回し、その下に大きく開いたオレンジ色のラナンキュラスを見つけその花びらを一枚手に取りふっと息を吹いた。するとオレンジの花びらはみるみる光の粉となり一番濃い黄色を煌めかせながら光を増し少年の回りをくるくる纏った。
少年はシリウスの光線が射す方へふわっと宙を歩くとカーテンの隙間から部屋の中を覗いた。自分に纏った光を頼りに部屋の中そっと、じっくり見まわすと、そこには同じ歳の頃の男の子が燦々と光る桃のような頬を光らせしっかり瞼を閉じて眠っていたので、少年は思わず嬉しくなり目を丸くして笑い、あっという間に部屋の中へと飛び込んだ。
少年を纏っている濃い黄色の光はさらに輝くと輪になり部屋中が光の中心に飲み込まれているように明るくなって、眠っていた男の子は眩しそうに目をこすりながらベットの中で光の輪を眺めていました。

「よるの空へ行ってみようか。
月の側まで。
月の光の間に散った桃の花びらが
月明かりに誘われてその麓まで連れて行ってくれるんだって。」

けん坊は初めてうっすらと眩しい光を感じながら
寝ぼけ眼をこすり片目をあけて
「どこへ行くの?」
「うん。あの月のふもとだよ。美しい場所だと本で見たんだ」
「あ、うん。ぼく今せっかくいい夢をみていたのに」
「水玉のように瑞々しい草花はそこら中一面を一年中埋め尽くしていて枯れることがないんだって。次々に新しい草が生えてきて、もう花や草じゃないみたいに光っているから思わず目をつぶってしまうほど眩しく輝いているんだって。
くじらの形をした滑り台とか、たこ足のブランコ、本物のジャングルみたいなジャングルジムだってあるんだって」
「くじらの滑り台?」
けん坊はまだ少し眠たそうにしながらも、大好きな滑り台の話をされると
少しづつ目が覚めていくようで、さっきより光の輪がぐるぐるぐるぐる回っているのが気になりながら
「えー!行きたい!行きたいね!ママに聞いてみるね!」
「お母さんはほらもう眠っているよ。大人はきっとダメって言うに決まっているから。さ、行こうよ。」
「でも、いま夜だよね。」
「うん。でも大丈夫だよ。二人なら大丈夫だよ!それに外は夜だけと月の光が今日は一段と明るくて桃の花びらが沢山の粉にもなって光りながら舞っているからこわくないよ!ぼく、君のような子をずっと探していたんだから。
そうだ、そこにはね蓮華畑もあってね、そこの蓮華の蜜は琥珀色が濃ゆくて太陽だってそのまま見ることが出来るんだ。
蓮華の花びらに乗せた蜜を飲むと、それはそれは一番足が早くなるんだって。
それにね見たこともないような大きな大きな木があって、そこにはたくさんのツリーハウスがあるから君が好きなハウスを選んでいいんだよ。
その窓から外を覗くと月よりも遠くにある銀河まで見えるってクラスの子が騒いでいたんだよ。だから僕どうしても行ってみたいんだ。」
薄い紫色のベレエ坊にベージュの丸襟ブラウスの袖を揺らす少年は、すっかりその場所にいるように、光をあてたダイヤモンドぐらいに何色にも目を輝かせながら身振り手振り話すので、けん坊はもうすっかり目が覚めていてツリーハウスの話をしたくてたまらない気持ちでいました。
そうなったら、けん坊もクローゼットからフードパーカーと靴下を取り出してパジャマの上から羽織って出かける準備をしながらも
「ぼく、足は早いよ、でももっと早くなりたいね!
それに月より遠くの銀河も見てみたいしツリーハウスはママも行ってみたいって前に言ってたんだよね。木の上にある家でしょ?
あっ、靴は玄関に行かないと、とってくるね」
「ちょっと待って」と
ベレエ坊の少年がそっとしゃがんで、ぷっくりとしたけん坊の足に微笑み白い手をふわっと翳すとゆで卵が羽毛に包まれたような丸い光が少年の手とけん坊の足を包んだかと思うと、もうそこには毛で覆うわれた冬芽のようなしっかりとしながらも柔らかい靴を纏っていて
「あったかい。」
けん坊はすぐに気に入ったみたいで、何度かジャンプしてみせた。
少年はえらく嬉しいみたいで満面の笑顔になり
「さあいよいよ、あの月の麓までひとっ飛びさ。」と言い
けん坊の手をしっかり繋いだ。
二人はシリウスの光が射す方へ、レースのカーテンをすり抜けそのまま
宙を待った、まっすぐ舞った。少年から先にだんだん高くなった、繋いだ手がけん坊の体も上へ連れて、迷いなく飛んだのだ。
そう、すでに空を飛んでしまったのだ。
けん坊は大興奮して
「ぼく夢が一つ叶った!空を飛んでみたいっていう夢が叶ったよ!すごい!
これは君のおかげだよね?君すごいね!」
「さあ、行こう。
まずは、僕と君が大好きなくじらの滑り台へ。」


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?