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八潮男之神の決断37(小説)(エッセイ・とんぼ)

エッセイ・とんぼ  < 白梅 >

写真は朝8時頃の写真です。

東の空から陽が上がり白い光が向かってくる気配につられて表へ出ると
昨日より一層に白梅の花びらは際立っていました。
あたりを上へ上へと押し上げながら、隙間なく散り始めた光線の中へ向かっていくと輪になり
「先生、おはようございます!」
「みなさんおはようございます。
ご覧ください今日は本当に暖かく気持ちの良い一日で先生もとても嬉しいのです。みなさん、より一層気品高く咲き誇ってくださいね。
上へ上へと向かい決して怒ったり苛立ったり悲しんだりすることなく
朗らかな気持ちでいてくださいね。
そうすれば皆さんの特別な白い花びらがより一層特別に濃ゆく透明な光を
光放ちます。では本日もよろしくお願いします。」
「はい!私たちは今日も気品高く上へ上へ向かって進みたいと思います。
そういえば私は昨日よりも透明色が増してうっすらと桃色と黄色も混ざったような透明になっているようでとても嬉しいです。
ありがとうございます。」
「私にもそう見えますよ。昨日よりもとても美しいのです。
では、先生はもっと上に登ってもっと沢山の場所を照らしに行きますね」
「はい!先生もがんばってください!」
「はい。ありがとう」

白梅と光線はすっかり一体となって
光の輪となり上へ上へと向かって行くのです。
鳥達はその端を摘んで得意そうにもっと高い場所へと連れて行ってくれるのでした。

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♢「まさか・・・、おぬし、・・・」
 
 昆迩(こんじ)は目を逸らすことなく、阿津耳をじっと見つめ返した。

「その・・まさかであります。」

昆迩も、ここまで話した以上、後戻りはできない。

「われは、臨淄(りんし)からの帰りの船に
 王子を乗せて津島に渡りました。」

🌿秋津先生の著書で、難しい漢字や言葉、興味を持った事などは
 辞書やネットなどで調べながらゆっくり読んでみて下さい。
 きっと新しい気づきがあり、より面白く読み進められると思います

八潮男之神の決断37
原作 秋津 廣行
「 倭人王 」より

 昆迩は、喉元につかえていた言葉を、一気に吐き出して、頭こうべを垂れてしまったのだが、そのまま、阿津耳の顔を直視できなかった。
さすがの阿津耳も身体が硬直し、しばし、昆迩の下げた頭を眺めるしかなかった。

 「臨淄(りんし)を出たのは、われと遊学中の
豊玉之男君(とよたまのお)のきみ、そして無旦王子(むたんおうじ)と叔父の無路(むじ)殿、世話役の僮(とう)の五人でした。
臨淄の湊では、徐賛殿(じょさんどの)の雑穀船に乗せて頂き、蓬莱湊(ほうらいみなと)を避けて山東莱族(さんとうらいぞく)の湊に入りました。そこで待っていた済州李承(ちぇじゅりしょう)の輸送船に乗り換え、黄海を南下し津島(つしま)に辿たどり着きました。
島に着くまでは、われも肝を潰す思いでありました。
渤海(ぼっかい)内では、斉軍や楚軍の船があちこちに現れ、海賊船を監視しておりました。
それでも湾内では、徐氏の旗印によって救われのですが、黄海に出ると、そこは秩序なき海賊の海でありました。
どこの海賊とも知れない船団が五隻、十隻とかたまって襲ってきました。
だが、乗り換えた済州李承(ちぇじゅりしょう)の輸送船は、その無法の海を毎日のように航海しているらしく、少々の海賊船団には、恐れることもなく、堂々と海路を進み、われ等を安全に運んでくれました。」

昆迩は、ここでひと息ついて、阿津耳之命(あつみみのみこと)を見やったが、阿津耳は目をつむったまま、口をつぐみ、眉に立て皺しわを彫り込むばかりであった。
明らかに動揺しているのは分かったが、昆迩は、話を先に進めた。

 「島に上陸すると、津島のわたつみの宮に王子をお連れし、わたつみの族長、青海(あおみ)と巫女頭(みこかしら)の阿波奈美(あわなみ)に
逢わせました。王子の一行は、しばらくこの地に留まられることになり、われと豊玉之男君(とよたまのおのきみ)はさらに船を出して、沖おきの神島に御幣(みぬさ)を奉じた後、豊浦宮に入り
八潮男之神(やしおおのかみ)に事情を報告いたしました。」

 阿津耳は、やおら、組んだ腕を解き、堅い表情を取戻して、昆迩に訊ねた。

 「なれは独自の判断で、王子を連れて来たのか。
  それで、八潮男之神は、何と仰せられた。」

 昆迩こんじは、黙ってうなずいた。

 「なんとな。ならば八潮男之神は、越の王子を匿つもりで、沖之神島(おきのかみしま)にお迎えに参られたのか。」

 「われは、王子を津島のわたつみの宮にお連れした後、津島と豊浦宮うらを何度も行き来致しました。
無旦王子を秋津洲に匿うのが、秋津洲にとって最良のことだと信じてのことにございます。」

 「昆迩よ、なれは、秋津洲(あきつしま)の行く末を憂えて
八潮男之神(やしおおのかみ)を説得したのか。」

 昆迩は、またもや、静かにうなずいた。



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