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ブラウニー&ミー【命への向き合い方】

~愛犬が天国に旅立ってそろそろ2ヶ月。気持ちの整理も付いてきたので思い出と共に心の内を書いてみました~


ブラウニーは幸せな一生を送れたのだろうか。答えのない問いである事は分かっている。夏の初めに永い眠りについた、心優しいゴールデンレトリーバー。11歳と4か月の生涯だった。生後6か月で我が家の一員となり、すぐに私たち家族にとってかけがえの存在となった。

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(若かりし頃のブラウニー)

海、山、湖、砂漠、何処へ行くのも一緒だった。水遊びがことのほか好きだった。初めて川遊びに連れて行った時のこと。浅瀬で遊んでいると急に深みに嵌った。足が届かず一瞬パニクる。手脚をばたつかせ、何とか倒木にしがみ付いた。あの時の焦った顔を思い出すと今でも笑みがこぼれる。その後、自分が泳げることに気付くまでに、それほどの時間は要さなかった。一旦、犬かきを習得すると、まさに水を得た魚。緩い流れを誇らしげな顔で泳ぎ続けた。

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(ゴールデンレトリーバーの足には水かきのようなものがついている)

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ザイオン国立公園にほど近い湖ではパドルボードにも挑戦した。SUPドッグを目指して練習をしたが、ボードの上でじっとしているのは苦手な様で、SUP犬への夢は諦めざるを得なかった。

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(SUPのトレーニング中)

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(ボードの上よりも水の中の方が好きだった)

臆病者で、人懐っこく、番犬としては全く役に立たなかったが、寒さにだけはめっぽう強かった。凍り付いた湖も苦にせず、砕氷船のごとく表面を覆う氷を割りながら泳ぐ。その姿は救助犬の様で、いつになく頼もしかった。ゴールデンレトリバーの特徴である長い毛は水をはじく。肌は殆ど濡れず寒さは感じないらしい。雪遊びも大好きだった。

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(雪の塊を投げると飛び上がってキャッチした。フリスビーも得意だった)

冬のセドナでのはしゃぎ方は尋常ではなかった。ネイティブ・アメリカンの聖地、そしてパワースポットとして知られるセドナ。レッドロックの岩の表面には、ボルテックスと呼ばれる地球が放つ“気”が渦巻くと言われている。目に見えない磁気のようなものを発しており、パワーの源にもなるが、頭痛や吐き気をもよおす人もいるらしい。岩山に生える木々の多くは、らせん状に捩れている。私自身は、感覚が鈍いのか“気”を感じることは無かった。敢えて言えば(気のせいだと思うが)、走っていて普段より疲れないような気がした程度だ。

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(はしゃぎすぎで喉が渇き雪を食べるブラウニー)


ボルテックスが何だかを知る術もないブラウニー。雪のレイルをピョンピョン跳ねまわったり、私たち家族の周りをグルグル回ったり。通りかる人たちは口々に、「オー、ハッピー・ドッグ!」と、異常なまでのはしゃぎぶりに感嘆の声を上げていた。いつもハッピーなブラウニーではあるが、あんなにハイになったのは、後にも先にもあの時だけだ。ボルテックスを侮ってはならない。

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(ブラウニーにとって3度目のグランドキャニオン)

家の中では、遊び相手を求めて居間とキッチンを行き来するブラウニー。私が帰宅する時には、いつも真っ先に玄関まで迎えに駆けつけてくれた。


生後6か月で我が家の一員となった時から、家族という群の中での自分の序列というか、立ち位置は良く理解していた。群の長としての私、次いで家内、そして娘。当時8歳だった息子との関係は微妙だった。本来、序列の一番下に位置するはずのブラウニーであるが、自分と大きさがあまり変わらない兄貴分をナメているのが見え見えだった。

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(家族の一員になったって暫くしてからのブラウニー。見るからに息子より大きい)

犬は人間の7倍ほどのスピードで歳をとると言われている。2~3歳になる頃には、ドッグイヤー的には、既に娘や息子の年齢を追い抜いていた。3人兄弟の末子っだたブラウニー。いつしか長男となり、そしてあっという間に私と家内の歳を追い越し、お爺ちゃんとなった。とても不思議な感覚だ。その過程で、いつにおいてもブラウニーの一番のお気に入りは娘だった。餌を上げることも、散歩に連れだすことも稀ではあったが、二人(一人と一匹)の間には、他の3人とは少し違った繋がりあった気がする。

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(二人で仲良く並んでTVを楽しむ)


赤茶色の鼻先に白いものが混ざり始めると、目の周りがパンダのように白くなる迄にそれ程の時は掛からなかった(パンダの目の周りが黒だという事は知っています!)。7年ぶりに会った友人がすっかり老け込んでいたというのは、それほど驚く事ではないだろう。犬の場合はそれが1年で起こる。みるみる老いていくのだ。

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(鼻先だけでなく目の周りもすっかり白くなった)

成人してからと言うもの、いくつもの国を転々としてきた。その間、ペットを飼う機会がなかった私にとって、間近で見るブラウニーの老化のスピードは衝撃的だった。更には、長年に渡り海外で生活しているため、身近な人の老いに向き合う事もなかった。そのため、ごく当たり前に、命あるものが歳を取っていく過程は殆ど未知のモノだった。そして、日に日に年老いていくブラウニーの姿を自分自身のそれと重ねられずにはいられなかった。

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(寝て過ごす時間が長くなった。お気に入りのピザは傍に)

私もここ数年、耳鳴りや腰痛を始め様々な体の不調に悩まされている。走ることについても、少し前まではタイムに拘り、BQと呼ばれるボストン・マラソン出場権を得たこともある。今では、それほど早くは走れない。正確には、早く走ろうという気力がなくなったのだと思う。それを埋め合わすように、あるいは、自らの体力の衰えを拒むように、過酷な環境に身を置くとともに、走る距離が伸びていった。いつしか夜通しで100㍄(160km)を走るまでに至り、そして更に長い距離を走りたい思う自分がいる。

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(近所のトレイルにてちょっとだけ長めの散歩)

ブラウニーは長距離走は苦手だった。長い毛に覆われているため体温調整がうまく出来ないのだろう。生涯を通して南カリフォルニアの暑さに慣れることは無かった。それでも若く元気な頃には、夏のトレイルを4~5㎞は一緒に歩いた。最後は背丈の低い灌木が作る僅かな日陰で休み休み、トボトボと後ろを付いてくるのが常だったが。


歳を追うごとに走る距離が長くなる私と裏腹に、ブラウニーがハイキングに同行することは無くなり、散歩の距離も短くなっていった。運動量が減ったためか、老化によるものか、気が付いた時には、お尻や後ろ脚まわりの筋肉が落ちていた。肝臓の病を患い食欲がなくなってからは、目に見えて体重が減少し、立ち上がるのにも手助けが必要な時もあった。アメリカでは自らの力で動くことが困難になった犬、特に大型犬は安楽死をさせるのが一般的だ。辛い選択を迫られるのだろうか・・・

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(冬のレイク・タホにて。帰り道は大雪となりブラウニーは大喜び)


長生きすることが幸せではない。大事なのは、いかに生きるか。所謂、クオリティー・オブ・ライフだ。賛否両論あることは分かっている。決して命を軽んじている訳ではない。しかし、家内や子供たちにはいつもこう言っている。万が一、私に不幸が起こり、家族が何らかの選択を迫られた場合、私が望むのは「生きる」ことであり、「生かされる」事ではないと。


撫でるとゴツゴツとした骨の感覚が手のひらに伝わるブラウニーの背中。その時が来たら苦しませないように安楽死をさせてあげよう。家族みなで話し合って決めた。日頃から話をしていたことなので、それ自体は難しい判断ではない。然し、「その時」がいつなのかは、誰にもわからない。只々様子を見守るしかなかった。


ぐったりしている時間が長くなり、「その時」を迎えているかもしれないブラウニー。延命を家族にお願いしたのは、他でもない私だった。以前から予定していた10日間ほどの日本への一時帰国。戻ってくるまで元気でいてくれと祈るような気持ちで家を後にした。

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(食欲がが落ち体重が減りぐったりとしている時間が増えた)

「その時」が来たのは、私が発ってから僅か二日後だった。


あれから2か月近く。「その時」に立ち会うことが出来なかった悲しさはあるが、後悔はない。家族に帰国まで待つようにという事も出来た。しかし、それは私のエゴであり、ブラウニーのためではない。


時折、思うのは、ブラウニーは幸せな一生を送ることが出来たのだろうか・・・、もっとドッグランへ連れて行ってあげればよかった・・・、もっと水遊びをさせてあげればよかった・・・、出来なかったことを数え上げればきりがない、悔やむべきでは無い。

気がつくと無意識に部屋の隅に目をやりブラウニーの姿を探す自分がいる。

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(中央にあるのはブラウニーの足型、形見の品)

11年間、家族の愛に包まれ、極上の楽しい時間を過ごしたブラウニー。きっと幸せな人生だっただろう。ハッピー・ドッグとの思い出は家族みんなの心に一生残り続ける。

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(近所の湖の畔でのピクニック。この後ブラウニーぬかるんだは湖に入り泥だらけになる)


私は、命は大切にするものではなく、ボロボロになるまで使い切るモノだと思っている。全力で走り切ってゴールで倒れ込むマラソンランナーの様に。

ブラウニーも沢山遊んで、思う存分に命を謳歌して、思い残すことなく旅立っていったことだろう。

我が家でまたペットを飼うかどうかは分からない。おそらくその日は来ないだろ。

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(5輪の誕生花のスケッチ。これをもとに小さなタテゥーを入れた)

1ヶ月ほど前、長女が脇腹に小さなタトゥーを入れた。そこには、家族四人とブラウニーの誕生月の花が描かれている。

By Nick D


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