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見栄でなく矜持があった時代

NHK朝ドラ『ブギウギ』に有楽町ガード下の靴磨きの少年が病気のお母さんのため、お金を稼ぐため、知恵を働かせてずるいこともしてましたが、生きる逞しさを感じました。

もりおゆうさんの昭和スケッチでも描かれていました。

想像もつかないほど過酷な生活を彼らは送ったのだと思う。

by もりおゆう

ラクチョウ(有楽町)のおミネのようなきれいなお姉さんの赤い靴を磨いてますが、この女性も靴磨きの少年と同じ過酷な生活だったのだと思います。ゆうさんの温かい眼差しが感じられるスケッチで、浅田次郎さんの小説と重なりました。

月島慕情    浅田次郎

最後に描かれた『シューシャインボーイ』に辿り着くまで何度もじーんと熱くなりました。泣かせやの称号にはまる市井の人々の優しさ、矜持が哀しく強い7つの短編集です。

表題作の『月島慕情』は明治、大正の吉原の年増女郎・ミノにふってわいた結婚話し。

「あたしね、この世にきれいごとなんてひとっつもないんだって、よくわかったの。だったら、あたしがそのきれいごとをこしらえるってのも、悪かないなって思ったのよ」

月島慕情

ミノの決断に「ばかだが、いい女だぜ」と言う人買い。きれいごとって、いつの世もばかみたいなことかもしれません。

『雪鰻』は、著者が自衛隊にいたときの経験を生かしたフィクションです。玉砕寸前のソロモン諸島から、会議があるからこいと後方の島に呼び出されます。そのとき食べた鰻がマラリアと飢えと人肉と仲間を殺すことの世界とかけはなれた楽園の、格別なもので涙がでるほどうまい鰻。

どのくらいうまかったかというと、ひとことで言うなら、日本そのものだった。(中略)死神も避けて通るほどの滋養と活力を与えてくれた鰻を、俺は食ってしまったのだから、いかに大好物でも二度と食ってはなるまい。

雪鰻

戦争の飢えを経験して、生き残ったからこその「うまい」ということ。「おいしいがたのしい、しあわせ」とお気楽に言っている私自身の軽さを感じてしまうけど、この暗い歴史があったからこそ、今の「おいしい」「たのしい」「しあわせ」があると、彼ら、わたしの曽祖父、祖父に感謝する気持ちにもなりました。

『シューシャインボーイ』はワンマン社長とガード下の靴磨きの老人の生き様でこれも戦争と戦後が切なく逞しく描かれてます。

テレビドラマでは西田敏行さんが、戦争孤児だったワンマン社長役でした。

どのお話しも、悲しいこと苦しいことを経験しているからこそのやさしさ、強さ誇りがあります。

苦しい、切ない、悲しい、という言葉は今の時代にたくさんあるけど、矜持というのを私自身どこかに置き忘れていました。

これからも悲しい、苦しい、切ないは、たくさんあると思います。
その中で、彼らを思い起こし矜持という言葉があることでゆっくりと歩いていきたいと思いました。

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