お前

「僕はどうして生まれてきたの?」
「愛されるために生まれてきたんだよ」

オカンのあれは俺をなだめすかすためのその場しのぎやったやろうか、あの語尾の優しい関西弁は。いや違う、と俺は思う、愛された俺は思う。あのな、愛されなければ生きていけないんだよ俺たちは。

「じゃあ僕はどうやって生まれてきたの?」
「お母さんのお腹から生まれてきたよ」

誰しもが母親から生まれる。生まれた瞬間に戻りたいと泣き叫びたいぐらいに居心地のいい母親の中から満を持して生まれる。(下ネタではない)
俺たちは愛されて生まれる。それが持続しなくても一瞬であっても俺たちは愛された。
あのな。俺たちを支配するものは何もないよ。愛されたからといって愛を返還する義務はない。誰も俺たちの感情のベクトルを強制することなんてできない。愛は 感情は その場のものなのだからその一瞬で完結すべきなんや。
強制してくる奴に会ったなら逃げればいい。そんな奴から得られるものは何もないどころか近くにいたら俺たちの心まで蝕んでくる、ちなみに、もちろん「俺たち」の中にそういう奴らは当てはまらない。
間違っても誰かのためにだけ生きるなよ、この人のために生きたいと思える人がいたとしても半分は自分のために生きてくれよ。死にたくなったら愛されたことを思い出してくれ。
なあ。
お前が生きている時点で お前には自分を否定してやる権利なんてないんだよ。自分を否定しようとするお前もお前なんやから最終的に1つになれよ、ごちゃごちゃと、するのは仕方がないが、生きてる限りはさ、お願いや、自分を愛してくれよ。
誰かに受け入れてもらえることは二の次だ、他人に愛してもらえることは副産物でしかない、自分をいつでも何をしても肯定してくれる存在は地球上で自分1人っきゃないんやから、それを後ろから冷静に見る自分も何かを責めてくる自分もいるやろうけどいざとなれば一丸となって自分みんなで自分を守れよ。
やりたくないことのために努力をするなよ。嘘をつくことが当たり前になるのは悲しいよ。暑くて仕方ないならどうかその長袖のシャツを脱いでくれ、喉が渇いたならビールを飲もうよ。
俺は意味のないことを愛してるよ。獣のする存在確認みたいな会話ももちろん愛してるし、いつもよりちょっと複雑な編み込みの髪型も愛してるよ。お前の変なしゃっくりの音もすれ違った女の一人ぼっちの笑みも。気づかないと気づけないけど気づかなくても存在するものたちを。
それで俺たちの主観的なことは大抵他人には意味がなくて誰も気にしてないように見えるけどきっとたぶん生きてたらそういういろいろをちゃんと拾って愛してくれる人はいるよ。それに依存するのは違うけれどきっといるんだよ。他の人にとっては意味のないあなたにとって大切なことを愛してくれる人はきっといるよ。
自分のことを愛せないならいいなと思ってくれ。思えないなら思えるようにしてくれ。自分のいいなを世界に発信しまくれ。誰も聞いてなくても壁打ちでも。意味のないことを愛してると言ったが意味のないことだって本当に意味がゼロなわけはないからさ。勇気を持っていいと思ってくれよ自分を、な。

もう紫陽花が咲いてるんだよ。サツキは終わりそうだよ。誰が見てるかなんて関係なく花は咲くのに俺たちはちゃんと路傍の花を見つけるやろう?
俺たちは勝手に見つける、そんでいいとかよくないとか勝手に判断する。自分をいいと思った奴を見つける力を持とうよ。花は喋れないけど俺たちは喋れるし歩み寄る足もある。
とは言え喋りすぎたし近づきすぎたかな俺は今、ちょっと反省してるよ。でも俺はこんな俺をいいと思ってるんよな。お前がうざいと思っても いいと思ってくれる誰かがとなりにおるかもしれへんし。
都合よく生きようぜ。逃げたいと思えば逃げて悲しみたいときは悲しもう。恥ずかしさに死にたくなれば存分に酒を飲もう。そんで忘れて憎めない自分を愛そうよ。な。

#お前 #愛 #愛しかないよ #ショートショート #cakesコンテスト


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