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「塔」は男性名詞か?女性名詞か?

芥川賞を受賞した『東京都同情塔』という作品を読んだ。
本作において「塔」が作中の世界観を象徴する重要なシンボルとして描かれる。
この塔はある男性によって構想され、ある女性によって形にされるのだが、果たして「塔」は男性か、女性か、ふと気になった。

(作品を読んでいただければ本題の疑問にも納得いただけるはずだ。)


「塔」は男性名詞か?女性名詞か?

フランス語やドイツ語には「男性名詞」「女性名詞」なるものがある。
そのどちらであるかによって関係する動詞や形容詞に変化形が生じるのだという。

 「男性」や「父」「兄」はもちろん男性名詞。
 「女性」や「母」「妹」は女性名詞。

 「木」は男性名詞。「花」は女性名詞。
  「太陽」は男性名詞。「月」は女性名詞。
 「辞書」は男性名詞。「ダンス」は女性名詞。

イメージはしやすい。

 「帽子」は男性名詞。「ドア」は女性名詞。
 「一日」は男性名詞。「生活」は女性名詞。

概念的な単語は理解に苦しむが、帽子とドアについては、表に出るから男性、家の中にいるから女性、と腑に落ちないでもない。

実はこうした安易なイメージが直結しているものも多い。

 「医師」「歯医者」は男性名詞。「ネコ」「赤ちゃん」は女性名詞。

今日のジェンダーレスの時勢には全くもってそぐわないが、医師も歯医者も昔はほとんど男性だっただろうし、小さくて可愛らしいものは女性らしいといえる。
日本語においても、「看護婦」に男性が増えてきて「看護士」と名称変更がされている。フランス語には無性別の単語もあるらしいが、性別の区別された単語も無性別に変更されたりしていくのだろうか。

ちなみに「港」は男性名詞。「船」は女性名詞。

これもまた、男が乗るものだからという安直な決まり方をしたのだろうが、イメージとしては逆の方がしっくりくる。
日本では船というと”○○丸”という男らしい名前が付けられることが多いことから男をイメージしやすいが、外国船では”クイーンエリザベス”だとか”ジャンヌダルク”という女性に関連する名前が付けられることが多いそうだ。
また、日本でもペンキの塗り替えを”化粧”に例えられることがある。

では、「塔」は?

随分遠回りをしたが、本題といこう。
一般的な感覚として、「塔」は男性名詞ではないかと感じるのはおかしな感覚ではないだろう。一本筋の通ったものが天高くそびえているのだから。(決していやらしい意味はない。)

実際に、高い建築物は男性名詞であることが多い。
「城」「マンション」「ビル」 これらはすべて男性名詞だ。

しかし、私の予想はことごとく裏切られた。

「塔」は女性名詞らしい。

筆者の何でもない疑問は、なかなかの難問であった。
そうなると、東京タワーもスカイツリーもすべて女性ということになる。
今まで男らしく見えていたものが、女性と知ると急にしおらしく感じる。

「塔」は女性名詞で「門」は男性名詞らしい。
これもまた逆だろうと感じてしまう私の脳はもう固定概念に侵されてしまっている。「私」は〇性名詞だな。

「東京都同情塔」でいうと、男性脳的な彼女が作り上げたのは、男性的な女性(名詞)だったのだ。私の疑問はきれいに解消された。非常に興味深い。

エッフェル塔は別称、”鉄の女”とも呼ばれている。まあ塔にしては女性らしい見た目をしているが。
となると、サッチャーは”鉄の女”だから女性名詞か。当然か。
アイアンメイデンは”鉄の処女”だから女性名詞か。真偽は分からないが、これはなかなかいい推察だ。

他にも考えてみれば面白い。
太宰治の「人間失格」に登場する喜劇名詞か悲劇名詞かを考える遊びにどこか似ている。

さらにちなむと、

「日本」は男性名詞。「フランス」は女性名詞。
「机」は男性名詞。「テーブル」は女性名詞。

ううむ、何が違うのだろうか…。
一体なにが男性・女性たらしめるのだろう。



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