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誰とも話さない少年の願い

昔中学校である男の子と出会いました。彼は勉強が苦手で友だちも1人もおらず、ずっと1人で居る子でした。

体育の授業の様子を見に行った時は、運動も苦手でバレーボールがうまく出来ずクラスメイトから責められていました。彼と校内で会うといつも背中を丸めて下を見ていました。先生達も彼の声を聞いたことがないと言うぐらいに先生とも誰とも話しません。

彼が中3の時、私が関わることになり放課後一緒に勉強などをして過ごすことになりました。初めのうちはあまり話してくれませんでしたが、徐々に色々と話してくれるようになりました。時には一緒にトランプをやることもありました。勝手に周りが話さないと決めつけているだけで彼はずっと誰かと関わりを持ちたかったのです。彼が笑顔で私と会話をしている姿を見て先生方は驚いていました。

高校の進路になった時、彼は定時制高校を受けることになりました。説明会はどうしても親と行きたいくないと言うので校長に許可を頂き勤務外の時間で私が彼を説明会に連れて行きました。

放課後勉強を頑張った甲斐もあって高校は見事合格。卒業も近づき最後の放課後の勉強となりました。彼が私に言います。

「先生、相撲しませんか?」


私は答えます。


「ええよ。やるか。」


放課後夕日が沈む中2人で教室で相撲をとります。

「大人の力を見せつけてやるー!」


私はおもいっきり彼を投げ飛ばしました。彼もまた

「中3の若さを見せつけてやるー!」


っと言って私をおもいっきり投げ飛ばしました。日が沈むまで2人で笑いながら相撲をやりました。

彼は誰かと相撲をやるのが初めてでした。ずっと誰かと相撲をやってみたいと思っていたのです。子ども同士が相撲をすることなどよくあることですが、彼にとっては最後にお願いするほど特別なことだったのです。

私は校長先生に報告しました。


「すいません校長先生。生徒なのに彼と相撲をして投げあってしまいました。」



校長先生は一言こう答えました。


「セミ採り名人先生、ありがとう。」


卒業してから彼とは会っていませんが、また道端で出くわしたらおもいっきり上手投げをしてやろうと思います。

なぜなら私が彼の初めての友だちだからです。


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