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[ ステキなサプライズ ]:青ブラ文学部(小さなオルゴール)

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お題がステキですね😊♪


画像:Amazon


[ ステキなサプライズ ]

 実家からそんなに離れていない場所に、念願の一軒家を建てた。
 持ち家か賃貸か、そんな論争をしている動画をたまに見るが、地方では損得なしに一軒家を建てるのが、ごくごく一般的だ。
 この場所は、元々、雑木林だったところ。
 子どもの頃は、よく忍び込んで、虫をとったり秘密基地を作ったりして遊んでいた。
 そんな場所を切り開いて、分譲地になったタイミングで、丁度、世帯を持つことになった俺は、それならばと、思い切って土地を買い家を建ててしまった。

 35年ローン。

 果たして返せるのだろうか、という一抹の心配もあるが、まぁ、なんとかなるだろう。
 将来の心配よりも、家を持てた喜びに包まれていた俺は、意気揚々と、猫のひたいよりは少し広い我が家の庭の手入れをしていた。

 梅の木を植えようと思ったのだ。

 毎年、花が咲くし、実もなる。
 なんたって、夫婦揃って梅酒好きなのだから植えない手はない。
 
「こんなこと、賃貸では容易にできまい」

 ハッハッハー、と陽気に勝ち誇りながら、休日の午後、えっちらほっちら穴を掘っていた。

”カツン”

 ある程度掘った所で、シャベルになにか硬いものがあたった。
 土から覗いているところを見ると、どうやらお菓子の缶のようだった。

「ん!」

 とっさに思い出した。

「これはあの時の……」

 俺は、土を手で丁寧に避けて、お菓子の缶を掘り出す。
 片手で持てるくらいの、小さくて四角いお菓子の缶だ。

 そして、

「ねぇ、ちょっと来て!」

 と、家に向かって妻を呼んだ。

「ハーイ、ちょっと待ってー」

 と、妻の声がした。
 俺はお菓子の缶を両手で持って凝視した。

 しばらくして妻が「お待たせー」とやってきたので「コレ見て」とお菓子の缶を差し出した。
 なになに、と興味津々に覗き込む妻は、お菓子の缶を見るや否や”ハッ!”と息を飲み込んだ。

「コレって……」
 
 と、驚く妻に、

「あの時の、お菓子の缶、だよね」

 と、答える俺。
 十数年前、妻と一緒に埋めたお菓子の缶だ。

 どこにあったの? と驚く妻に、庭を掘っていたら出てきたと伝えた。

「えっ、埋めた場所が、まさかのウチの庭!」

 当時、缶を埋めた場所は雑木林の中だ。
 そこに俺が家を建てるだなんて。

 すごくなーい、と妻は一瞬嬉しそうな声をあげたが、すぐに真顔になって、俺の方に目を向ける。
 妻と目が合った。
 その目は、少し動揺していた。

 妻が動揺するのは、当然のことだ。
 俺も同じように動揺していた。

「開けてみるね」

 俺は軽く頷いてから、言った。
 妻は動揺した表情のまま、深く頷いた。
 上に乗っている土を軽く払ってから、俺はお菓子の缶の蓋を開けた。

 中には、新聞紙に包まれた四角いものがあった。
 想像していたのと同じ光景。
 俺は、作業用につけていた手袋を外し、お菓子の缶の中から、新聞紙に包まれたものを取り出し、十数年前の新聞紙を丁寧に広げていった。

 中から、小さな透明な四角い箱が出てきた。

 ふたりで埋めた、小さなオルゴール。
 ”ハッピーバースデイ”と、曲名が印字されている。

 妻を見ると、無言でオルゴールを見つめていた。
 あの時と同じように………。

 妻と俺は、子どもの頃、いつも一緒に遊んでいた。
 遊んでいたのはふたりだけではなく、必ずもうひとりいた。
 カズヤだ。
 いつもいつも、どこへ行っても3人は一緒だった。

「ここが秘密基地、だったんだね」

 黙ってオルゴールを見つめていた妻が呟いた。

 3人で雑木林に、秘密基地を作った。
 みんなで好きなものを持ち寄り、暇さえあればとりあえず秘密基地に集合して過ごしていた。
 とても快適で、とても楽しい日々だった。
 でも、その日常は、突然、終わった。

 カズヤが亡くなった。
 交通事故だった。

 現場は見ていない。
 遠くに出かけている時の事故だったそうだ。

 俺たちは、幼いながらも、親友の死をそれなりに悲しんだ。
 どのくらい悲しんだかは、記憶があいまいで、よく覚えていない。
 でも、悲しかった気持ちは、強く刻まれている。

 カズヤが亡くなった日から丁度一週間後、妻と俺は、お小遣いを出し合って小さなオルゴールを買った。

 その日はカズヤの11才の誕生日。
 3人の思い出がいっぱい詰まった秘密基地に、オルゴールを新聞紙に包んで、お菓子の缶に入れて埋めた。

 俺は、久しぶりに見るオルゴールのハンドルを巻いてみた。
 手を離すと、すぐに音がなった。

 ハッピーバースデイの曲が流れる。

 思えば、このオルゴールの音を初めて聴いた。

 こんな音色だったのか、と、思っていると、一緒に聴いていた妻が呟いた。

「カズヤからの、新築祝いかなぁ〜」

 俺は、カズヤはサプライズが好きだったことを思い出した。

「そうだな、あいつらしい、ステキなサプライズだ」

 妻と俺は、庭先にしゃがみ込んだまま、何度もハンドルを回し、しばらくオルゴールの音を聴いていた。


おしまい

#青ブラ文学部
#小さなオルゴール


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