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【読んだ】命売ります

おすすめ度 ★★★★★

大学時代に読んで、お気に入りだった一冊。
三島由紀夫の先入観をぶっ壊してくれるはず。
読んだことない人や「仮面の告白」読んで無理だった人、ぜひ読んでみてください。きっと面白いから。

三島由紀夫なのに読みやすい

話が謎めいていて、ちょっと怖い?どういうこと?ってなるのは星新一みたい。時々三島っぽい語りが入るものの、難しさはなく、ストーリーもよく動いてテンポが良い。

三島由紀夫なのにハードボイルドエンタメ

主人公が謎に超モテモテなところは村上春樹ぽさもある。とにかくモテるのに、スンっとしてる感じも近い。
タイトル通り、命への執着を失って「命を売り」始める主人公に次々起こるハードボイルドな事件。淡々とした主人公が徐々に変わっていく描写が秀逸。

三島由紀夫なのに短い

260ページ程度と三島作品の中ではかなり短い。
他の三島の作品は、内省的な語りや社会への批判などが何ページにも渡って続くこともざらにあり、その息継ぎなしの語りを読むのに結構覚悟が必要だ。
しかし、この作品は気軽に読める。数時間の空きがあれば読める。
展開の面白さと、文章の素晴らしさをただ受け入れるだけでいい。
なんてお得な作品だろう。


一番好きな作家はと聞かれたら、とりあえず「三島由紀夫」と答えている。
8割くらいは「そう答えるとカッコいいから」という理由だが。

高校時代の国語教師が、三島由紀夫オタクで、授業に「美神」という短編を持ち込んだのが出会いだった。
短い話に散りばめられた技巧、直接的でないのにひたひたと伝わる情景描写、句読点や改行まで配慮された、音読したくなるような文章の巧みさをひたすら国語教師は語り、当時の私は聴いてるだけで変な汗が出てきた。

すげぇ。
私がこれまで読んできた本とは全く違った。美しいものを「美しい」なんて決して書かないのに、文章からは確かにその質感や佇まいまで伝わってきた。

この小さい快楽の墓の深夜も、全く浮世から隔絶しているわけではなかった。近くの坂道の曲がり角で鳴らす自動車のクラクションが、暗いトロリとした海のような春の夜から、飛び上がる飛魚の鰭のひらめきのように鋭く響き、決して眠らぬ夜は彼方に轟いていた。つまらない、つまらない、つまらない、なんか面白いことないか、と一千万人が顔を合わせば挨拶代わりに言っている大都会の厖大な欲求不満(フラストレーション)。そこに蠢く無数のプランクトンのような若者たち。人生の無意義。情熱の消滅。喜びも楽しみの、チューインガムのように、噛んでいるうちに、たちまち味がなくなって、おしまいには炉ばたにペッと吐き捨てられるよりほかはないたよりなさ。

やーかっこよ。
この文章のかっこよさが、三島由紀夫の魅力なのに、「仮面の告白」や「金閣寺」のように暗いイメージがつよくて、若い人に読まれていないのが残念でならない。

「命売ります」三島入門として是非読んで欲しい。かっこいいから。

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