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【読書記録】献灯使

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おすすめ度 ★★★★☆

全米図書賞受賞作品。表現が独特で引き込まれる。好き嫌いは分かれそうだけど、私は好きだったな。

大災厄に見舞われて、車もネットもなくなり鎖国状態になった日本。老人が「死ねない」状態になり、体も強く労働を担っている。代わりに若者が極端に弱く、寿命も短い。115歳の老人義郎は毎朝ジョギングをしているのに曾孫の無名は服を着るのも、ジュースを飲むのですら命がけだ。

文庫本の後ろのあらすじを先に読んでいると状況がわかるが、実際の文章は説明的なところが少なく、なかなか難しい。どういう状況?この単語なに?みたいな気持ちになりつつ、その世界観にどっぷり浸った表現力に引き込まれていく。

リアルさと面白さと不気味さ

外来語を使ってはいけない、祝日が国民投票で決められる、政府が民営化されているなど、不可解で不気味な設定が多く、でも一つ一つがちょっと面白い。

「勤労感謝の日」は働きたくても働けない若い人たちを傷つけないために「生きているだけでいいよの日」になった。
「建国記念の日」は廃止したほうがいいという意見が洪水のように氾濫し、この休日は流されて行方不明になった

ちなみにインターネットが無くなった日を祝う日は「御婦裸淫の日」である。リアルなのかふざけてんのか、わからん感じが面白い。かと思えば唐突に三島由紀夫を彷彿とさせるような耽溺な描写が入ったりする。どこからその言葉の組み合わせ思いつくん?という表現が好きな人は大好きだと思う。
私は大好き。

原発事故を意識している

大切なのは、この作品が書かれたのが2013年であることだ。
東日本大震災と原発事故を意識して書かれた作品であることが、そこかしこに現れている。

一等地も含めて東京23区全体が、『長く住んでいると複合的な危険にさらされる地区』に指定され、土地も家もお金に換算できるような種類の価値を失った。

頭にぼんやり浮かぶけど、はっきりとした設定はよくわからない、説明的すぎず、抽象的すぎない。なんなんだこれは?と思いながら、次々ページをめくってしまう。

献灯使以外にも、短い短編が入っていて、それぞれに「あの時」を彷彿とさせるストーリーになっている。当時と今では受け止め方が違うけれど、どういう気持ちで書いていたんだろう、と想像してしまう。

現代社会への批判もあり

ただの不思議小説ではなく、風刺の効いた描写も多い。政治や学校、今ある文化が時々ぐさりと批判的に描かれる。

迷惑は死語だ。よく覚えておいて欲しい。昔、文明が十分に発達していなかった時代には、役に立つ人間と役に立たない人間という区別があった。君たちはそういう考え方を引き継いではいけないよ。」

ざわつく読後感

話は、時間軸をいったりきたり、一人称も曾祖父と曾孫をいったりきたりしながら、割と唐突に終わる。え!?献灯使結局どうなんの?あの子との関係は?じいちゃんは?えぇ〜???で、終わる。それも狙った「あとはあなたの想像にお任せします」スタイルなんだと思う。

読後感が良いとは言えないけど、悪くもない。ぼんやりとした不安と、まあなんとかなるんちゃうか、いいことあるんちゃうかな、みたいな気持ちで読み終えられる。

探したら特設サイトがあったので、読んでみよう。

ストーリー自体も不思議な魅力があるが、文体がかなり好みなので、他のエッセイも読んでみようかな。

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