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【読書記録】ぼくのメジャースプーン

おすすめ度 ★★★★★

辻村深月さんの長編2つめ。
上下巻にわかれてないやつを探したのに、開いたら2段組になっていて「じ、実質2冊分やないか〜〜い」と心が叫んだ。
が、面白すぎて1日で読んでしまった。
なんということだ。

ふみちゃんが救われてほしい

一気に読むしかない本というのがたまにある。
今作も、それだった。
登場人物がとてつもなくひどい状況に置かれて「この子がなんとか救われてるまで見届けたい!」という気持ちで読み切った。
(凪良ゆうさんの「汝、星の如く」もそんな感じ)

主人公の「ぼく」には、幼馴染のふみちゃんがいる。このふみちゃんが、とっっっっても良い子なのだ。現実にはあり得ないくらい良い子。大好き。
なのに、とんでもないクズによって引き起こされた、凄惨なウサギ殺しの第1発見者になってしまい、心に深い傷を負う。

ここの描写が、辻村さんもうやめてくれぇと言いたくなるくらい凄惨で、悪意に満ちていて、ひたすらひどい。ウサギがかわいそうすぎる。
すべての読者が、「このクズに制裁を!!ふみちゃんに救済を!!」と心底思うように描かれているんだろう。わかっちゃいるけど読むの辛い。

一方、主人公には不思議な力がある。超能力と言ってもいいが、これを使って主人公がクズに立ち向かい、ふみちゃんを救おうとする。
ガンバレ!なんとかしてくれ!という想いの読者。

でも話はそう単純ではない。

ファンタジーとリアリティのバランス

「かがみの孤城」でも思ったけれど、辻村深月さんはファンタジーとリアリティの組み合わせがすごく上手なんだと思う。

一見すると子どもじみた、ドラえもん的なフィクションなのに、その設定がとても細かい。物語の中盤は、同じ力もをつ超能力先輩の「先生」から色々教えてもらうのだが、これだけで作品の7割くらいを占めている。

一方で実際の事件や、犯人の描写、大人の対応などは、しんどいくらいリアリティがある。「そんな力あるわけないけど、そんな事はあるかもしれない」のバランスの中で、いつの間にか話にどっぷり引き込まれてしまう。
すごいわ辻村さん。

思考実験

この作品も、「かがみの孤城」のように見事な結末が用意されている。伏線回収という言葉で片付けるにはもったいない。「は?え?………はぁ~、なるほど…なるほどね…すご」という展開が待っている(わからん)。

しかし結末以上に、この作品を素晴らしいものにしているのは、先生と主人公のやりとりだ。先程7割を占めると書いた部分。

力には、いろんな条件や制限事項があって、それぞれ「じゃあこういうパターンではどう使う?」と先生が問いかけたり、主人公が疑問に思ったりする。それがただの説明ではなく、徐々に心をえぐってくるのだ。
罪と罰、悪意との戦い、正義とはなにか?復讐の意味とは?
まるで思考実験のような問答がひたすら続く。

「このクズに制裁を〜!」と熱血モードだった読者(私)も考えさせられる。これでいいの?これが何になるの?どうすればいいの?いやわからん。知りたい、教えて〜!という勢いでページをめくる手が止まらない。

この思考実験の部分だけで、読み応えがすごい。

子どもにもいつか読んで欲しい

小6息子は「かがみの孤城」を読んだので、興味があるらしい。

2段組のボリュームに、流石に手を出せなかったようだが「面白かった?」と聞いてきた。


すごく面白かった!といいながら、気になるところまでストーリーを話してネタバレは避けた。ふっふっふ、これでいつか読める力がついた時に読んでくれるだろう。

正義や悪、罪と罰など哲学のような要素もありつつ、最後は、人間が持っているレジリエンス、生きる力、支えあう尊さ、みたいな美しさもある。
中高生以上かな、そのあたり深く考えるようになったら、読んで欲しい作品だ。

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