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書評「響きをみがく――音響設計家 豊田泰久の仕事」(石合 力)

サントリーホール、ドイツ・ハンブルクホール、ロサンゼルスのウォルト・ディズニーホールなど、世界の名だたるコンサートホールの音響設計を手掛けてきた日本人がいる。その名は豊田泰久。知る人ぞ知る音響設計のスペシャリストだ。

本の冒頭で豊田はこう語る。

「設計」はするけど「図面はひかない」

では、どうやって設計するのか。そもそも音響設計とはどういう仕事なのか。そして、豊田はなぜ世界中のコンサートホールの音響設計を手掛けているのか。

本書「響きをみがく――音響設計家 豊田泰久の仕事」は、音響設計家というあまり耳慣れない仕事を手掛ける男の仕事ぶりを追いかけた1冊だ。

本を読み終わって感じたのは、ホールも音楽を豊かにする装置のひとつなのだということです。ホールが変われば響きが変わり、演奏者や指揮者はホールという大きな装置を巧みに操ることが求められ、操れる者が一流として活躍し続けるのだ。

音響の専門家だから、音の響きだけ理解していればよいというわけではない。クラシック音楽への理解だけでなく、文化や政治への理解がなければ、世界中のホールの音響を手掛けることなどできない。なぜなら、音楽とは地域や政治と密接に結びついているものであり、オーケストラのためのホールを作るということは、そういうことだからだ。

最近豊田のように海外で活躍する日本人の存在をあまり耳にしなくなった気がする。豊田の飛躍のきっかけは日本のサントリーホールの仕事だった。日本の仕事は世界につながっている。でもつなげるのは自分次第。読み終えてそんなことを考えた。


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