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【エロい映画】第6回「オッペンハイマー」

 また今回も別にエロくない映画です。

 いや、エロいシーンはありますが、3時間の上映時間のなかにおいてほんの数分です。
 しかし、この映画におけるエロは重要ですので、その存在理由について考察したいと思います。

原爆のおとうさん。

2023年製作/180分/R15+/アメリカ
原題:Oppenheimer
配給:ビターズ・エンド
劇場公開日:2024年3月29日

 いやあ、観てきましたよ「オッペンハイマー」。

 しかしこの前観た「ボーはおそれている」にしろこの映画にしろ、なんで最近の映画はこうも尺が長いのでしょうか。
 180分クラスの映画とか、飛行機でなら余裕で台湾まで行けてしまう時間ですよ。美容院クラスですよ。梨泰院クラスじゃなくて。

 まあそれはそうとしてこの180分の映画、たった数分のセックスシーンのせいでR指定です。

 クリストファー・ノーラン監督の映画としては初めてのセックスシーン(童卒、おめでとう!)しかもそのせいで「インソムニア」以来の20年ぶりのR指定ということですから、この映画にとって(3時間もあるのでほかでいろいろと削れそうなとこもあるとは思うが)数分間のセックスシーンは重要だった、ということです。

 で、本作の主人公でありますところのオッペンさんは、原子爆弾の発明を指揮した人で、どれくらいの名声悪名を同時に誇っているかと言えばインターネットを発明したロバート・カーンやヴィントン・サーフくらいの人。

 ネットは原爆よりもタチが悪いせいか、オッペンさんほどその名を知られていない、というかぼやかされていますね。

 まあそれは置いておいて、映画のオッペンさんはこんな感じ。

ちょっと怖いくらい個性的な顔です。

 に対して、実際のオッペンさんはこんな感じでした。

映画に比べてギトギト・ギラギラしてます。身体がヒョロガリなのはまったく同じ。

 こうして観ると、映画のオッペンさんは確かに戦後トルーマン大統領と面会したとき、広島・長崎への原爆投下への罪悪感から泣いた、という情緒不安定な感じがよく出ていると思います。

チャーチルの次はトルーマンをやったゲイリーじいさん。

 しかし映画のオッペンさんとは違って、実際のオッペンさんの面構えからは、そんなデリケートそうな感じはイメージは見て取れない。

 なにかとオッペンさんは矛盾欺瞞に満ちた人物だったようで、このへん今回の映画は、実に巧みに観せていきます。

 で、出てくるのがセックスシーン。
 オッペンさんがセックスするのは愛人だった共産党員で精神科医の女性、ジーン・タットロック。

「ミッドサマー」の主人公の女優さんですが本作ではなにかと妖艶。

 オッペンさんは「原爆の父」なので、奥さんのキティさんは「原爆の母」ということになり、タットロックさんは「原爆の父の愛人」となりますので、原爆にとっても人類にとっても非常に気まずい存在です。

 で、この「原爆の父の愛人」タットロックさんですが、1944年、オッペンさんが原爆完成させる直前に謎の死を遂げておりまして、この手の話題には必須の陰謀説などもあります。映画でもそのへんはチラッと触れられています。

いかにも愛人らしい黒の肌着。


 ま、原爆完成まであとわずか、というときに愛人の死で落ち込む「原爆の父」オッペンさんでしたが、キティ奥さんに「ねぶたいこと言うとったらあかんで!!」と叱咤し、また大量破壊兵器の開発という崇高な業務に立ち直らせるのです。やはり奥さんは「原爆の母」です。

 しかしこの段階で、オッペンさんはタットロックさんとのニクタイ関係がキティ奥さんとの結婚後も続いていることを打ち明けておりません。

 世界人類の破滅より先に、オッペンさん家庭破滅の萌芽が見られます。

 で、オッペンさんの愛人であるとのセックスシーンです。
 が、え、そこまでやる? という感じで出てきます。

 描写よりも、演出がエグいのです。

 というのも、オッペンさんは戦後、ある陰謀にまきこまれてスパイ容疑をかけられ、公聴会で延々と尋問を受けます。そこで思想的なことや過去やなんやらかんやらあることないこと、根掘り葉掘り突っつきまわされるわけですが、そこで問題になってくるのが、共産党員の愛人のことです。

 いつ、どこで、どれくらいセックスしていたのか、公聴会で話さなければならなくなるオッペンさん。

 しかも、背後には奥さまのキティさんが控えている状況で(笑)

原爆開発の倫理的問題よりもダメージが大きい状況のオッペンさん(笑)

 ここでの演出が白眉です。
 奥がメチャクチャ怖い顔をして背後で控えている状況下、愛人との逢瀬について告白させられるオッペンさん。

 すると、なぜか↑の画像と同じ構図でオッペンさんは公聴会の席に座ったまま全裸になってしまい、その上に対面座位の姿勢で乗っかる、同じく全裸「原爆の愛人」がヘコヘコと腰をうねらせます。

もっとエグいシーンでしたがBANされるとマズいのでこのへんで。

 このシーンが我々観客に与えるインパクトは相当なものです。
 
 もちろん「原爆の父」の話ですので、ロスアラモスでの原爆実験シーン……ノーランがCGを使わずにキノコ雲を作ったという、もう私語厳禁・写真厳禁の頑固なラーメン屋店主のポリシーくらい理解不能なものです……は映画的に強いシーンです。

 さらに、広島への原爆投下によって米国を勝利に導いたオッペンさんがその祝賀パーティーで、おのれのしでかしてしまった所業に苛まれながら狂喜乱舞するマンハッタン計画のメンバーやその家族たちを前に、いかに自分が誇らしいかを力強く語るシーンは、私ども被爆国に暮らす日本人にとってめちゃくちゃ居心地の悪いエグいシーンです。

 とはいえ、この公聴会において(あくまでオッペンさんの頭のなかでの出来事の抽象表現とはいえ)、背後に奥の刺殺レベルの視線を感じながら、愛人とのハメハメを告白させられる全裸のオッペンさんと愛人の亡霊のシーン、このインパクトのテンションもまた、映画のなかでは原爆実験や「俺がニッポンにいてこましてやったぜ!!」と表向き高らかに語るオッペンさんのシーンと同じくらい、爆発的に強すぎるのですね。

 この映画は終始、オッペンさんの主眼で描かれ、確かにパッと観は「『原爆の父』と呼ばれた天才科学者の苦悩と葛藤」みたいな話のように見えるのですが、どうもオッペンさんという人物、一筋縄ではいかない。

 冒頭で学生時代に、気に入らない教授のリンゴに青酸カリを注射して殺そうとして、やはりヤバいと思ってダッシュでリンゴを捨てに行くシーンがあります。これも実話らしいのですが、何かとやることなすこと、その場その場で常軌を逸しているわりに、気弱で中途半端なのです。

 確かに理論物理学者としてピカ一なのですが、「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」の主人公であるところのベネディクト・カンバーバッチが演じる天才数学者、アラン・チューリングほどのコミュ力ゼロないかにも自分の専門以外のことは何もわかららないし考えられない学者バカではない。

エニグマ解読マシンを作った天才コミュ障を演じるカンバーバッチ。

 マンハッタン計画を任されるとなると、とても象牙の塔に住む物理の鬼とは思えぬリーダーシップと政治的手腕を振るいまくり、研究施設であるところのロスアラモス国立研究所の建設やスタッフの選定で、自分の好みをかなりめちゃくちゃ強引に押し通します。ノリノリです。

「わたし、政府に原爆作れと言われたから仕方なく作ったんです」

 とはとても言えない。

 あと、先述したように良き家庭人でありながら、愛人までいます。

 だから映画の後半、原爆を生み出したことに対する良心の呵責に苦しむオッペンさんを見ていても、どうも観ているこっちには「?????」がつきまとうのです。

 なにせ、奥の前で浮気の告白をさせられた公聴会のときのショックが、広島での原爆投下後の被害を映したスライドを見せられたとき(スライドに何が映っているのかは画面に映りません)のショックをどう見ても上回っているように見える。

 だから、終戦後に罪悪感から熱心な水爆実験反対運動に乗り出したというオッペンさんを見ていても、一見、筋が通っているかのように見えてやはり観ているこっちは「??????」なのです。

 どうもオッペンさん、やることなすこと考えること感じること、矛盾欺瞞が多い。

「『原爆の父』と呼ばれた天才科学者の苦悩と葛藤」の映画を観にきたはずなのに、どうも行き当たりばったりで情緒不安定な、どこか頭のネジが(天才であるがゆえに)ゆるんだ男の人生を観せられることになる。

 そんなわけで映画はノーラン監督お得意の時系列めちゃくちゃの進行で進むわけですが、ラストシーンは戦後、アインシュタインとオッペンさんが交わしたであろう謎の会話の種明かしで終わります。

アインシュタイン。実は性格破綻者だったことで知られています。

 これらのことを考え合わせて見ると、ラストのオッペンさんのセリフと表情には、けっこう複雑な、想像するに心の芯まで凍えるようなものが込められていると見えますので、未見の方はセックスシーンと一緒にそのあたりも考えながらご覧になると一粒で二度おいしい映画になることと思われます。

 あと、鑑賞前に排尿・排便は忘れずに。
 なにせ3時間ですからね!!
 途中で尿意・便意をもよおしたらそれしか印象に残らない映画になりますよ!
 その手のご趣味のある方にはたまらないかもしれませんが!!!

 <了>

 

 
 

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