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図 書 館 ボ ー イ 【6/6】

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 なんと、この第3レクリエーション室の奥にも、大きな鏡があった。
 覆いが掛かっていたから、気づかなかったみたいだ。

 仲馬さんが、ぼくの背中を押して鏡の前に立たせ、手品師のような仕草で覆いを取り去った。

 あのときとまったく同じ姿勢で……上はセーラー服を着たまま、スカートを脱がされて下には何も身に付けていない……自分の恥ずかしい姿を鏡で見せつけられる。

 背中には、ぴったりと仲馬さんが張り付いていた。
 久保先生よりはかなり控えめな、彼女の胸が押し付けられている。

 そして……仲馬さんの手は、ぼくの下半身に延びてきた。

「いっ……いやっ……ダメ、ダメですっ……」

「なんでえ?……なんで学校一の美熟女先生ならオッケーで、なんでわたしはダメなの~?」

「そっ……そういう問題じゃ……あっ……」

 仲馬さんの手によって、左耳のイヤフォンが外される。
 包帯に隠されたマイクロフォンはそのままだった。

「ほ~ら~……こんなにしちゃってるクセに……」

「あっ!……うっ……うっ……あっ……」

 触られた。仲馬さんの冷たい手。
 思わず、びくん! と全身を震わせる。

「すっごい……先っぽがもうヌルヌルしてる……ピクピクしてるよ、変態く~ん……」

「んんっ……んっ……くうっ! …………」

 扱かれて、思わず自分の指を噛んだ。
 その姿が鏡に映し出されていることはわかっていたけど、目を開けてそれを見る勇気はなかった。

「かわいいけど、かむってる皮剥いちゃおうっと」

「あっ……やめっ!……」

 ぼくのちんちんの先の皮が、くるり、と剥かれた。
 外気に触れただけで、敏感なその表面が痛いように痺れる。

 仲馬さんはおちんちんを握りなおし……ゆっくり、ゆっくりと上下に扱き始めた。

「もう~……ぎんぎんじゃん? ……さっき閲覧コーナーでいっぱい出したはずなのに……元気だね~……このスケベ。変態」

「あっ……うっ……あああっ……」

 敏感すぎる先端をいじくりまわす手は、明らかにぼくを焦らそうとしていた。

  ぼくは堪えた。
 だって、この場所は子どもたちに絵本の読み聞かせを行うための空間でしょ? そんなところで……そんなところで……射精しちゃうなんて……

 ああ、だめ だ……そんなことを考えると……また、狂わしいくらいの痺れが下半身を駆け巡る。

 いつの間にか……ぼくは……

「自分で腰振ってんじゃ~ん?」仲馬さんに指摘される。「……久保先生にされたときも、こんなふうになっちゃったの? ……自分で腰振っちゃったの?……ほんっと……や~らしい子っ」

「…………あうっ……んっ……ダメ……だめだよ……ほんと……もう……」

「で、久保先生はどうしたんだっけ? ……女子の水泳の授業だって、永遠に続くわけじゃないよねえ……?」

「……………そ、そんな……………」

「されたいんでしょ? ……久保先生にされたみたいに、またおんなじことされたいんでしょ? ……だからあんな本……『学校現場の性被害~声なき被害者たちの声』を読んで、ゴシゴシしちゃってたんでしょ?……してほしいなら、してほしいって、ちゃんと言いなってばよ」

「……………あ…………うっ…………」

 ぼくは首をぶんぶんと横に振った……理性による、最後の抵抗だった。

「……………ほら、してほしいでしょ?」

「………………んんっ…………」また、首を横に振る。

「じゃあ、このままここに置き去りにしちゃおっと……」

 仲馬さんの手が、ぼくから離れていった。
 考えるより先に、ぼくは自分の手で仲馬さんの手を握っていた。

「……あら、な~あに~い?」

「……………」

「してほしいの?」

 ぼくは首を……おずおずと縦に振った。

「もう、やめてって言ったり、もっとしてって言ったり……ワガママなんだから~…………じゃあ、条件出しちゃおっかな~…………目を開けて、自分の姿を鏡で見ながら……ゴシゴシしてごらんよ……我慢できなくなる、ギリギリの限界まで」

 思わず仲馬さんの顔を見る。
 あの不思議な色の目を細めて、ニヤニヤ笑っていた。

「…………えっ……そ、そんな……」

「しないなら、やってあげない」

 また、仲馬さんがクスクスと笑う。

「……………くっ」
 
 おずおずと……目を開けた。

 透明人間になれるわけじゃないので、当たり前のように鏡にはぼくの姿が映っている。

 グロテスクなまでに赤く充血したちんちんを、お腹にくっつけるように直立させて……鏡を見つめているのはぼくだった。

 セーラー服の上を着て、下半身を丸出しにし て、真っ赤な顔で、バカみたいに口をアングリ開けているのは、ぼくだった。

 カツラが少しずれて、顔の右半分を隠していた。
 鏡で確認できる左目は、とろんと していて、潤んでいる。

 そして、中腰になると……先端から、つう、と透明な液がひとしずく、床に向かって落ちた。

「はずかしいねえ~……はしたないねえ~……いやらしいねえ~」耳元に唇を寄せてきた仲馬さんが囁く。「ほら、はじめて」

 もうやけくそだった。

 ぼくはぎゅっと自分のおちんちんを掴んだ。
 まずは右手で掴み、さらにその上から左手を添えた。

 そして、猛烈な勢いで扱き始める。

 鏡に映し出されている、自分の姿をしっかり見つめながら。
 腰も動かした。
 手の動きにあわせて前後に腰を動かし、お尻も左右に振った。

 頭も振り立てる。
 セミロングのカツラがふっとんだ。

 唇の端からは、よだれがたれる……もう、たれるに任せた。

 そんなむちゃくちゃなやりかただったから……あっという間に終わりが近づいてくる。

「あああっ…………だめっ…………もうだめですっっっ!!!」

「しょーがないなあ……どれどれ、おねーさんに任せないっ」

 鏡を通して……仲馬さんがぼくの前に跪くのが見える。
 その後ろ姿は、座り込んだ猫にそっくりだ。

 やわらかく、あたたかい粘膜が、ぼくの感覚の中枢になっているその部分を、やさしく包み込む。

「ああああっ…………あっ…………いっ…………」

 舌が動き出す。

「はあっ…………あっ……んんっ……!」

 身体の中で津波が起こったが、ぼくは理性でそれをせき止めた。
 
 正直言って………もっと、じっくりと、楽しみたかったからだ。

「久保先生とおねーさん、どっちが上手い?」」

 口を離して仲馬さんがぼくを見上げ、笑う。

「…………も、もっとっ……もっと……してっ……」

「……ほんっっと…………しょーがない、正直な子だなあ……すけべっ!」

 仲馬さんが再び、ぱっくりとそれを口に収める。
 そして、彼女の右手がぼくの汗ばんだ尻の素肌を這っていく。

 指は、尻の割れ目に忍び込んで……その部分に触れた。

「あああっ!? だめっっ!!」

 思わず叫んでしまった。

「『図書ではご静粛に』」仲馬さんが一旦口を離して言う。「シー、ね?」

 ずぶり、とぼくの出口であるはずの部分を入口にして、細い指が侵入してきた。
 久保先生が、ぼくにしたように。

「………………くはっ………んっ………」

 慌てて仲馬さんがまた咥え直す……次の瞬間に、ぼくは激しく射精した。
 彼女の口の中に。

 仲馬さんは、それを……ごくり、と飲み込んだ。
 彼女ののどが、ぴくりと動くのを、はっきりと見た。

 この部屋には小さな洗面台もあった。
 今、仲馬さんはうがいをしている。
 
 ぼくは鏡の前にへたり込んだまま、立ち上がれないでいた。
 まだ自分のちんちんがひくっ、ひくっと律動しているのを、鏡でぼんやり見つめている。

 仲馬さんから渡されたウェットティッシュ(また、メンソール入りだ)で、その部分をキレイにする気さえならなかった。

 でも、いつまでもここで、こんなふうにだらだらしているわけにはいかない。

「すっごい出たね!」洗面所でうがいを終えた仲馬さんがハンカチで口 元を拭いながら戻ってきた。「あのさ、リップ貸してよ。ほら、あたしがプレゼントしたやつ……」

「…………」

 ほとんど気力がなかったが、スカートを拾い上げ、ポケットを探る。
 あった。

「ありがと」仲馬さんはリップを受け取ると、ぼくの前に立って鏡を見ながら、リップを塗り始めた。「んん~……懐かしい味だなあ……これさ、わたしがきみく らいのときに……その制服着て学校通ってたときに、使ってたのと同じなんだよね。まだ売ってるなんて、びっくり」

「あの……」ぼくはおずおず声をかけた。「もう……着替えていいですか?」

「ああ、男の子に戻るの? ……どうぞどうぞ」

 ぼくは股間をしみるウエットティッシュで拭うと、のろのろと仲馬さんが持ってきてくれていた服を着始めた……本来のぼくの姿に戻るために。

「…………ところでさあ………あの本」

 鏡越しに背後のぼくを見ながら、仲馬さんが言った。

「え?」

「『学校現場の性被害~声なき被害者たちの声』って……あの本だけど……きみが熱心に読んでたあの部分……あれ、ホントの話かねえ? …………ほら、女の先 生三人に、宿直室でいたずらされた小学生の男の子の話て……わたしには、どーーーーも……アレ、ホントの話と思えないんだよね~」

 沈黙。
 ぼくはズボンを履き終え、シャツのボタンを黙って止め続ける。

「ほかの本で読んだんだけど…………『少年時代に年上の女性から性的ないたずらを受けた』って申告する男性の告白って、けっこうな割合でアテになんないん だって」

「……どういう……意味ですか?」

 ぼくは、少なくとも、あんたに、いまさっき、いたずらされたんだ けど。

「…… すべてがそう、ってわけじゃないんだけどさ。そう書いてる心理学の本もあるんだよね……なぜだかわかんないけど……成人になっても女性と満足に関係を築けないでいる男性は、ああいうウソをついて……その『理由』を作りたがることがあるんだって。確か、ダザイオサムも小説で子どもの頃に女中さんにいたずらされた、みたいなこと書いてたけど…………ホントかねえ?…………オーエケンザブローの本にも、入院中の青年が看護師さんにエッチなことされる小説があったよなあ……まあいいけど、 あの、 『学校現場の性被害』で体験を告白してたのも、30代の男性、ってことになってたよね? で、自分の『体験の告白』のあとに、こんなふうに書いてあった の……読んだ? ……“あの 体験のせいで女性というものがまったく信用できなくなり、今になっても結婚はおろか、女性とまともにつきあうこともできない”って」

「…………ぼくの話が、信用できないって意味ですか?」

「ううん」仲馬さんが鏡からぼくに振り返る。「信じるよ。何も本に書いてあることだけが真実じゃないし」

「何が…………何がいいたいんです?」

「はやく服着ちゃいなよ……あ、首のマイク、返してね」

「…………」

 ぼくはシャツを着てしまうと、首の包帯を外して、首輪のようなマイクを取った。

 それを仲馬さんに手渡そうとすると……仲馬さんはどこから取り出したのか、ICレコーダーを操作していた。

 いきなり、ICレコーダーから、ぼくの声が再生される。

“あああっ…………だめっ…………もうだめですっっっ!!!”

「なっ………」

 ニンマリと笑う仲馬さん。

「よしよし……よく録れてる」

「ぼっ……ぼくを……ぼくをまだ脅すつもりですかっ?……これっきりって……言ったじゃないですかっ!!」
 
「……それはそんときの話でしょーがあ?」

 ひひひ、と笑う仲馬さん。

 まったく悪びれた様子もない……ぼくは……とんでもない悪人に捕まってしまったんだろうか?
 
 いや、仲馬さんが善人では ないことは、充分思い知っているつもりだったけど……。

「消してください! その録音、消してくださいっ!!」

「やだ。あたしの大切な思い出だもん」

 まるでおもちゃを取り上げたいじめっ子のように、仲馬さんはICレコーダーを高く持ち上げる。

「……その録音を使って、ぼくをまた呼び出して……こんなことをさせる気ですか?」

「……そんなことしないよ」

 一瞬だけ、仲馬さんが悲しそうに俯いたような気がした……あくまで、気がしただけだ。

「だったら……なんで?」

「……でも、気が向いたら、またわた しと遊んでよ。司書の仕事って、ちょっと刺激が少ないんだ」

「……だったらだれか、ほかのエジキを探してください……」

 本気で言った。
 でも仲馬さんはニンマリ笑うだけだった。

「あらま、冷たい」

「ぼく……もう帰ります。帰っていいですね?」

 ぼくは仲馬さんに紙袋を突き出した。
 無意識のうちに、脱いだセーラー服をきちんと畳んで、紙袋に入れていた……自分の几帳面さが、つくづくイヤになる。

「……うん。またね」

「……もう二度と、ここへは来ません」

「えー? 寂しいー……でも、待ってる。わたしはいつも、一階カウンターにいるから」

「……………」

 仲馬さんを振り返りもせず……ぼくは講義室を後にした。


 それ以来……仲馬さんには会っていない。
 それ以来……といっても、この事件があったのは、今日の午後で、今は真夜中。ちょうど日付が変わったところだ。

 ぼくはお風呂上がりの身体を、自室のベッドに横たえていた。

 二度と、図書館なんかに行くもんか。

 ずっと、そればかりを頭の中で繰り返していた。
 でも、どうなんだろう?……これから先、どうなるんだろう?

 このっま眠りについて、明日の朝目を覚ましたら……決心が折れているかもしれない。
 仲馬さんのことを、懐かしく思っているかもしれない。

 また、ぼくはあの図書館に行く ことになるんだろうか?
 ……自分の意思で?

 すると、カウンターの中にいる仲馬さんがあの不思議な色の目を細めてぼくに微笑む……。
 

 いつの間にか、僕はすべての決定を明日に任せて、眠りに逃げ込んでいた。

 ……このぼくの話を読んでくれた、あなたならどうしますか?

<了>

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