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図 書 館 ボ ー イ 【5/6】

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「そう……です……」ぼくは、うそをついた。明らかなうそを。「好きな子の服……でした」

「うっひゃ~……歪んだ青春だこと」仲馬さんはどこまでも楽しそうだ。「で、それからどうしたの?」


 また、女子更衣室での出来事を話し始めるよう急かされた。

 ……ぼくは記録的なスピードで、ズボンを脱ぎ、ワイシャツを脱いで、Tシャツも脱いだ。
 パンツ一枚になって、棚の制服を手に取る。

 ほんとうに自分でも信じられないけど……
 ぼくはその布地に顔をうずめて、思いっきり息を吸い込んだ。

 その服が、誰のものであるかなんて、ほんとうは知らなかったし、誰のものでもよかった。
 服は甘い香りがした。

 たぶん、安物の制汗スプレーの香りだと思う。

 ぼくは夢中になって、その上着を頭から被った。

 サイズが少し大きかったので、すっぽりと被ることができた。
 脇のジッパーを閉める手間も惜しんで、今度はスカートを履き、何度か失敗してから、ホックを止めた。

 
 ぼくはその姿のまま、更衣室の奥にあった大きな鏡の前まで走る。

 そして鏡の中に、自分の理想の少女が立っているのを見つけた。


 少し大きめのセーラー服を着た、ショートカットでボーイッシュな少女。
 少女は肩で息をして、頬を真っ赤に染め、少し長めの前髪を、汗で額に貼り付けている。

 
 それは、まぎれもなくぼくの姿だった。
 まぎれもなく、ぼくの知らないぼくの姿だった。
 そして、ぼくがずっと夢見てきた、理想の恋人の姿だった。

 そしてぼくは……スカートのポケットに手を突っ込むと……“ゴシゴシ”をはじめた。
 ほんの少しだけ……ほんの30秒ほど、そうするつもりだった。
 射精までするつもりなんてなかった。でも……。

「そこで何してるの!!!」

 回想の中のぼくと、今、現実にこの談話室にいるぼくの両方が、ショックで飛び上がる。
 いまの声は、耳のなかのイヤフォンから聞こえてきた音だ。

 振り向くと……講義室の入口に、仲馬さんのシルエットが見えた。

「……って、後ろから声を掛けられたんだよね。学校の女の先生に」

「……………」

 仲馬さんは手ぶらだった。

 仲馬さんがスライド式のドアを閉めて、鍵をかける。
 そしてイヤフォンを外して、エプロンのポケットに入れると……
 ぼくに近づきながら、次はエプロンを外した。

「……びっくりした? ……女子更衣室で先生に見つけられたときと……どっちがびっくりした?」

「………………」

 近づいてくる仲馬さんに、思わず後ずさりする。
 女子更衣室で先生に見つけられた、あの時もそうだった。

『何してるの?きみ、い……一体………なにしてるの? こんなとこで?』

『あっ……あっ…………』

 ずんずん迫ってくる、現国の久保先生。

 年齢は30代半ばだけど、“脚が色っぽい”“お尻がかっこいい”“おっぱいがすごい”などなどの理由で、男子生徒たちには密かに人気の先生だった。

  いつもは愛想がよく、怒った顔なんか見たことがない。

 ぼくは直接、先生と個人的な話をしたことがなかったし、先生には名前すら覚えられていないと思ってい た。
 
 でも、久保先生は知っていた。
 ぼくのクラスも、名前も。
 
 その場で、舌を噛み切るか、窓を突き破って3階下の地面飛び降りるか……どっちかを選んだほうがよかったかもしれない。

 ほんとうに、その場で灰になって散ってしまいたかった。
 久保先生の顔は怒っているという感じではなくて……青ざめていた。

『何してるの? ……それ、女子の制服だよね? ……それ着て……なにしてるの?きみ?』

『…………うっ』

 膝ががくがく震えていた。
 奥歯がカチカチ鳴っていた。

 気がつくと……涙がぽろぽろこぼれていた。

『なに泣いてるの? ……泣いて済む問題じゃないでしょう!!』久保先生が声を荒げる。『自分のしてることがわかってるの? ……きみ、自分の立場がわかってるの?』

『……………ゆ、許して……許して……くださいっ……』

『ダメ!! ぜっっったい、ダメっ!!……このことは担任の先生にも、スクールカウンセラーにも……それからご両親にも報告します!』

『ゆ、許してくださいっ!! ……お、お願いですっっ………誰にも……誰にも言わないでっ…………』

『誰にも言わないで、きみ、自分の問題を自分で解決できるの?』久保先生は、ぼくの両肩を掴んで、諭すように言った。『一人で、プライベートな空間でなにをし ようと、人に迷惑をかけるようなことじゃない限り、何をしようときみの勝手です……でもここは学校で……あなたは女子更衣室に忍び込んで、ほかの生徒の服を着ています。これは、放置できる問題じゃありません!』

『お願いですっ……お願い……』ぼくは、そのまま床に跪いた。祈るような姿勢で。『なんでも……しますから……なんだって……しますから……』

 
 そこまで話すと、仲馬さんが茶々を入れてきた。


「……で、美人でセクシーな熟女先生は、ニヤリと笑って……“ほんとに何でもするのね?”と言った、と……そうだったっけ?」仲馬さんが背をかがめてぼく に顔を寄せ、囁く。「……そして、きみは……誰にも言いつけられたくないから……先生の言うことを何でも聞く、って約束しちゃった。そうでしょ?」

「はい……そうです」

「どうしなさい、って言われたの?」

「…………言ったでしょ……前に……」

 ぼくは仲馬さんの不思議な色の目から視線を逸らせた。

「もう一回、聞きたいんだけどな~……とりあえず、なにを脱げ、って言われたんだっけ?」


  久保先生は……とりあえずぼくを鏡の前に立たせた。

 そして、自分もその背後にぴったりとくっついて……鏡ごしに、ぞっとするくらい生々しい目線でぼく の表情を伺った。

 背中に……先生の豊かなおっぱいが押し付けられる感覚があった。
 けど……とてもじゃないが、それを喜んでいられる状況ではなかった。

『まず……スカート脱ぎなさい』

『えっ……えっ…………』

『汚しちゃ、制服のほんとうの持ち主の子がかわいそうでしょ? 脱ぎなさい』

 ほとんど、ぼくは催眠術にかかったような状態になっていた。
 そしてまた、なれない手つきでスカートのホックを探り……スカートをふぁさ、と床に落とした。

『自分で見てみなさい……ほらっ! 鏡を見なさいっ!』

『あっ…………』

 鏡に映っていたのは、セーラー服の上を着て、下はグレーのボクサーパンツと白い靴下だけ、という情けないぼくの姿だった。

 もっと情けないのは、パンツの中で、ぼくのその部分はもう充分に固くなっていたこと。
 くっきりとその形を、パンツの布地に浮き上がらせている。

 その先端部分は……内側から染み出した液で濡れた染みを作っていた。

『ほらあ……スカート汚しちゃうとこだったでしょ? ……いやらしい子』

 久保先生が言った。

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