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何気ない日常にある、やさしい景色に気付ける本#大寒「 ふとふり返ると」

こんにちは。広報室の下滝です。

お正月休みには色々な映画をテレビで観ましたが、中でも世界的に人気のあるアニメ制作会社「スタジオジブリ」の作品はいつ観ても面白く、放映されるとWebニュースなどでよく話題になりますね。

今回ご紹介するのは、かつてスタジオジブリを代表するアニメーターの一人であり、監督でもあった近藤喜文さんの画文集『ふとふり返ると』です。

近藤さんは映画「耳をすませば」の監督として大成功を収めながらも、47歳の若さで亡くなられました。
私が近藤さんを知ったのは、小学校の時に手にした徳間書店刊行の雑誌『アニメージュ』で、彼が掲載していた絵と文章を読んだことがきっかけでした。

あ、宮崎駿さんの絵だと思ってみていると、どうやら違う人らしい。
驚いて調べた結果、どうやら彼は宮崎駿さんの会社「スタジオジブリ」のアニメーターで、「火垂るの墓」「おもひでぽろぽろ」「平成狸合戦ぽんぽこ」などの作画を担当し、さらには「耳をすませば」の監督ということがわかりました。

どの作品も大好きだったので衝撃的で、私はその時からずっと近藤さんの描く、人間味のあってあたたかい絵に魅了されてきました。

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この本に収められているのは近藤さんがアニメ制作の合間を縫って描いたスケッチや、前述の雑誌『アニメージュ』で連載していたイラストたちです。

やわらかなタッチで描かれる優しい風景にはいつも「人」が登場して、彼が筆を走らせながら、楽しんで人々を観察していたことがわかります。

たとえば、雨が多い日の晴れ間に水たまりに花を浮かべて遊ぶ子供たち。どんな日でも楽しい遊びを発見できる彼らに感心しながらスケッチした様子がうかがえます。

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添えられている丸文字の解説や覚書がとても素敵で、日々の暮らしの中に、こんなにもいとしくて優しい世界が垣間見えるのかと驚き、なんとも優しい気持ちになります。

なかでも私が好きなページは、
「今の子どもは可哀想だネ。自分は木登りをして育ったけど、今は登ると危ないからやめろってすぐに言われる」
と地元のおじさんが嘆いていたのを思い出しつつ、近所に子供たちが遊んでいる大きな木を見つけた近藤さん。

彼らは木々の間に床板をつくって、秘密基地をつくるんだと言います。
後日、また木のところに行ってみると、子供たちの姿はなかったけれども、床は完成していて小さなテーブルが置いてあり、ハンガーがぶら下がっていたそう。

結果報告も含めてそんなちいさな日常とやりとりがかわいくて、つい頬が緩みます。

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そして、そうした風景からは、「忘れかけていた」とか「懐かしい」世界って、意外とまだまだ身近にあるんじゃないかなということを教えられる気がします。

そんな心あたたまるページのほかに、あるページには美しい蛍が舞う公園を描いたものがあるのですが、そこに添えられた文章にはハッとさせられます。

公園に意図的に放たれた蛍の美しさに見惚れながらも、
この公園の池には、蛍の食べる「カワニナ」は棲まない。
と述べて、蛍が人の勝手で放たれ、生きられないことを哀しみ、その光で喜ぶ人々をじっと見つめる。

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美しい眺めと、その眺めに伴う複雑な気持ちをつづった文章は、読み手に何かを訴えかけてくるようでもあります。

いとしくて、可愛くて憎たらしい、人への愛と、人を見つめる静かなまなざしと。
近藤さんの見ていた世界には、映画「耳をすませば」を観ると近付けるような気がします。

受験生の女の子が、色々な人に出会いながら自分の「夢」を見つける物語。
観たことがないと言う方は、ぜひその優しい目線で切りとられた世界を一度ご覧になってみてください。

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人がいる限り存在する、人のいる景色。
懐かしかったり、優しかったり、バカらしかったりする世界をそっと見つめて、慌ただしい日々を“ふとふり返って”描かれたちいさな日常たち。

少し外を散歩して、人のいる風景を探してみようかな?そんな気持ちにしてくれる、心あたたまる画文集です。

あなたしか見つけられないちいさな瞬間を“ふとふり返って”探してみませんか?

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-今回のここに注目!-
「近藤さんはどんなに忙しくてもふとふり返る人だった。」

最後に寄せられた『ぐりとぐら』で知られる中川李枝子さんから寄せられた文章は、「楽しい仕事をすると生き返る」という近藤さんの言葉や、そのまなざしの深さを伝えてくれます。

5年の歳月で描きとめられたスケッチから伝わる、美しくて優しい近藤さんの世界を、ページを開いて楽しんでみてください。


■ふとふり返ると -近藤喜文画文集 

著者:近藤 喜文
出版社:徳間書店
定価:本体2,300円(税別)
大型本:100ページ
ISBN:9784198608323

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