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『行列のできるリモコン』(毎週ショートショートnote)

「ついに買っちゃったよ、行列のできるリモコン」
登校するなり隣の席のノブオが見せてきたのは
一見、何の変哲もないリモコンだった。
「行列のできるリモコン?」
流行に疎い俺は、やたらハイテンションのノブオが
リモコンひとつではしゃぐ理由が分からなかった。

「なんだよ知らないのかよ。いっかぁ見てろよ」
ノブオがリモコンを教室の隅に向け、ボタンを押すと
胸の奥の方がなんだかムズムズして
そこに行きたくて仕方ない気持ちで一杯になり
気づけば足が向かっていた。
クラスのみんなも同じような気持ちになったようで
何もない教室の隅から廊下まで行列が出来ていた。

「どんな気分だ?」
ノブオが聞いてきたが、この気持ちは答えようがない。
「なんだろ、何かのために並んだというより
並ぶために並んだって感じ?」

ノブオがもう一度ボタンを押すと
みんな満足そうに自分の席に戻っていった。
その最後尾から「年甲斐もなく並んじゃったよ」と
照れくさそうに先生が歩いてくるのが見えた。

(410文字)


<あとがき>
「青春の香る」を考えたとき、恋愛やスポーツより先に
「なんだかモヤモヤする気持ち」
「無意味なことについ夢中になる」
という2つのイメージが浮かびました。

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