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近藤理論

癌の早期発見は無駄、という、いわゆる近藤理論は2000年頃に話題になったと思う。私も単行本を買って読んで、一理あるなと思った。
思ったけど、癌の種類次第だし、早期発見による延命エビデンスがあるからこそ一部のがん検診には公費が使われるわけで、私自身は健康診断も人間ドックも普通に定期的に受けてきた。

高い知性と教養がある人が近藤理論を信じて癌の発見が遅れた、という事実には衝撃を受けた。

https://note.com/hajime_yamazaki/n/n4963cd4e4342

きちんとした統計は無いが、近藤理論を信じて手遅れ状態で病院に駆け込む患者は少なくないという。なぜだろう?

医学的正しさはともかく、近藤理論は「楽」なのだ。
苦痛を伴う検査を受け続けなくて良いから。
検診を受けなければ交通費や検査当日に仕事を休まなければならないといった損失もない。結果に一喜一憂することもない。それで癌にならなければ(確率はまさに五分五分)万事OK。癌になったとしてもどうせ治らないのだから痛みだけ止めてくれればいい。
これはワクチン否定論と同じ構図だ。

近藤理論への反論の証拠は山ほどある(書籍にもネットにも)。
けれど、反検診派・反ワクチン派の考えを覆すものでは無い。反論の証拠は乳がんなり胃がんなり天然痘なり、個別の疾患のデータであり、そうでは無い疾患もまた多数あるから。例えば、膵臓がん、前立腺癌、デング熱など。
こうして話はすれ違う。しかも反ワクチン反検診派はゼロ100が好きだ。そして、信じたいものを信じているだけ、という浅はかさと信じたいものを支持しないデータには目をつぶる。

山崎氏の食道がんに関して言えば、公費で行われるバリウム検査での検出は正直微妙ではある。でも人間ドックで胃カメラを受けていれば確実に初期で検出できたのだから、本当に残念なことだ。近藤理論の被害者だと断言して良い。アメリカだったら近藤氏の遺族と出版社相手に訴訟を起こす案件だ。

近藤理論は一部のがんについては事実だ。「がんもどき」は脂肪腫や良性の乳腺腫瘍、子宮筋腫など、罹患率もそこそこある。けれど、がんもどきなのか癌なのかは、検査をしなければわからない。そこを自覚症状に判断を委ねるところがダメな理論だ。
そもそも、一部の皮膚や皮下の腫瘍を除いて、体内のガンで自覚症状が出るのは概ね末期だ。スクリーニングや早期診断方法や適切な抗がん剤がほとんど無かった1970年代頃までなら近藤理論は正しかったと言えるが、検査方法や治療方法が飛躍的に発展した21世紀に主張する話では無い。

最近、これは21世紀の近藤理論?と思わされるのが、和田秀樹氏の老年医学に関する一連の主張である。これも、食事制限や運動で健康増進などしたくない層へのウケは抜群であろう。
近藤氏も和田氏も、私の目には逆張りのヒットを狙っているように見える。それは名誉を追求する私利私欲ではないのか。
健康で長生きすることをよしとする価値観に一石を投じる点では価値があるのかもしれないし、年金や高齢者医療の費用を削減するという社会貢献効果はあるのかもしれない。
でも明らかに公衆衛生に資するものでは無い。
医師なのに、早死に上等と言い切るのはどうなのか?
死を避けられない以上、あらゆる医学が「負け戦」ではある。そういう立場で医学全否定の立場に立つのなら、大衆を騙すのではなく医学の世界で堂々と勝負すれば良い。医師免許をかざして大衆を騙して本や講演で一儲け、カルト宗教や詐欺と同じだ。私は彼らを許さない(石原結實も最近ちょっと怪しい)。