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【読書感想文】父が娘に語る、経済の話。を読んで(2)

前回に引き続き、「父が娘に語る美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。」を読んだ個人メモを書き連ねていきます。もしも興味がある方は前回の記事と併せてお楽しみください。

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社会情勢の影響は文学作品のエンディングにも影響を与えます。

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「私が地獄だ」というセリフで有名なクリストファー・マーロウの戯曲『フォースタス博士の悲劇』では、メフィストという悪魔と博士が契約を交わします。その内容は、24年間絶対的な能力と際限のない快楽を与える代わりに、期限が来たら魂を渡すというもの。そんなに長い間全能と至福を味わえるならと快く承諾した博士は、タイムリミットが迫るごとに恐怖に苛まれていき契約したことを後悔するようになります。

この物語は、自由な選択・履行義務を伴う契約・そして債務と利子の関係を描くことで社会全体の漠然とした不安を現しています。これは経験価値が交換価値を凌駕していく移り変わりに生きた社会ならではの結末といえます。

もう一つ、フォースタスよりもずっとあとにドイツの詩人ゲーテが書いた『ファウスト』という作品があります。基本的な話の流れは似ていますが、決定的に違うのは話のオチです。約束の期限が来る前にファウストは過ちに気づき行いを改めます(ファウストはフォースタスと違い欲望に突き動かされて契約を交わします。フォースタスは哲学的な反抗者)すると最後に天使が舞い降りて天国へと連れていってくれるのです。

この結末の違いは、社会情勢と宗教的な問題に起因していると考えられています。

フォースタスが書かれた時代はキリスト教でも利子を禁止していました(イスラム教では今も表向きは禁止しています)利子の徴収を罪深いものとして、高利貸しは卑しい職種とされていたのです。なのでフォースタスが背負っていた利子を伴う借金は悪事であり、罰を受ける必要がありました。ファウストが書かれた時代は借金と利子に頼る市場社会となっていたので、主人公を裁く必要がなかったのです。

このように、時代の流れに合わせて物語のエンディングも変わっていきました。


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話のオチは時代に合わせて変わる!これもなるほどな〜〜と感心してしまいました。考えてみれば至極真っ当なことで、『今』ウケる作品を世に出すというのは理にかなっていますよね。作者自身もその時を生きている張本人なわけですから、不安や希望などの思いは皆ときっと一緒なわけで。多様化云々と言われている今の時代でも、『今』生きている人たちの不安はきっと似てるところもたくさんあるはず。そんなことを思いながら読んでいました。

もしも読んでくださった方がいましたら、ありがとうございました。
また次回、お会いしましょう。







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