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経営実務のための会計(6):一倉 定

最近、1960年代に経営コンサルタントとして活躍されていた一倉定氏の復刻本が何冊か日経BP社から出版されていますね。さすがに私が生まれた頃の方なので、名前も存じ上げていなかったのですが、タイトルに魅かれて読んでみました。

「あなたの会社は原価計算で損をする

全部原価計算の悪夢

一倉定氏は60年代から70年代の高度成長期に活躍された経営コンサルタントの方のようです。「鬼倉」と称していたくらいですから、ずいぶん厳しい指導をされる方だったのでしょう。

一倉定(いちくらさだむ)が再注目されている。
自らを「鬼倉(おにくら)」と称した、炎のコンサルタントだ。
「日本のドラッカー」とも言われる男が最初に執筆したのが、実は1963年に刊行した会計書。

business.nikkei.com

この著書の前半では、いまや企業会計では当たり前のように使われている製造間接費の配賦をベースにした「全部原価計算」の誤謬について、いくつかの事例をもとに、わかりやすくその「悪夢」について指摘しています。

 *著者追記:さらに直接原価と間接原価から推定される標準原価計算を
  適用していると誤謬(悪夢)が拡がることは容易に想像できます。

以前紹介したエリヤフ・ゴールドラッド「ザ・ゴール」「チェンジ・ザ・ルール」の先駆けとして、日本でも「管理会計の罠」をいち早く指摘したコンサルタントと言えると思います。

直接原価計算、損益分岐点分析

それでは、事業経営上の重要な意思決定において、全部原価計算に限界や悪夢があるとしたら、経営実務上はどうしたら良いのか?

一倉氏は固定費と変動費の動きを注視する「直接原価計算」(ダイレクト・コスティング)に立ち戻ることが重要だと説いています。

直接原価計算では、シンプルに損益分岐点グラフを使って販売数と限界利益を分析し、黒字化に必要な販売数や将来の販売見込みから期待利益(損失)をシンプルに推定することが、経営上の正しい意思決定につながるとしています。

経営センター制度

この書籍の後半に「経営センター制度」という考え方も提示されています。部門別会計の一種ですが、現在の事業部制会計とは異なり、社内の各組織を仮想的な収益センターに見立てて、評価していこうというものです。

収入の部として、社内売上を含めた売上だけでなく、創意くふう料(報奨金)や遅延に対する補償金(他責による売上損失)などを加味したものが上げられ、
支出の部として、給料や減価償却費、金利、比例費(変動費+固定費を売上見合いで配賦?)、遅延や不良品・受注不足などの補償金支払いが上げられていました。

稲盛和夫氏の「アメーバ経営」に近い概念だと思いますが、すべてを収益計算に載せる数値化には少し無理があり、これらの項目を足しあげたトータル収益で部門評価するよりは、KPIで評価した方がいいのではないか? 
と個人的には感じました。

ラッカー・プラン

最後の章には経営の成果配分として、ラッカー・プランが紹介されていました。

ラッカープランについては本書や下記、サイトを参照して頂きたいのですが、簡単に言えば、付加価値×標準労働分配率によって賃金総額を管理し、賞与の多寡に反映していくべきという考え方です。

事業経営を任されている私個人としても、当初の事業計画以上の利益については、
 「社員に1/3、明日への投資に1/3、会社に1/3残す」
というシンプルな考え方が一番、しっくりきています。

これは多くの日本企業で労働分配率が30%前後という実情から、知らない内に実はラッカープランに沿っていたということかもしれません。

いずれにせよ、すでに50年以上経った高度成長期の著名コンサルタントの提言とはいえ、現代の経営にも通じる非常に参考になる書籍です。


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