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人事・人材マネジメント(3):育成

前回の「採用」に続いて、今回は「人材育成」のお話です。

企業内教育の歴史

日本企業の人材育成は、製造業や伝統的大企業を中心に欧米よりも歴史が長いと思います。
大手企業で70年代前後から大規模な研修センター企業内高校・企業内大学を持ち、大量採用した中卒や高卒の社員・工員向けに技能や技術を教えていました。彼らがQC活動など現場の改善活動を率先して実施し、日本企業の「強い現場」を支えてきたと私は考えています。

その後、バブル期を経て、2000年代になり、よりグローバル化した日本企業に米国からリーダーシップ研修を中心とした「コーポレート・ユニバーシティ」(CU)のコンセプトが導入され、両者が融合したのが、いまの日本企業の企業内研修のベースにあると思います。

この辺の歴史や類型化は大嶋淳俊教授による
「コーポレートユニバーシティ論序説」
”リーダーシップ開発”と”プロフェッショナル能力向上”のプラットフォーム
に詳しいので、ご興味のある方はご参照ください。

私自身も、この論文にあるハーバードビジネスレビュー(2002年)の「特集企業内大学:Aクラス人材の生産工場」を読み、同時期にCUとして別法人化された研修センタとともに、上級管理者・幹部への研修メニューを作成したのが懐かしく思い出されます。

育成カリキュラム

さて、いま日本企業の多くで組まれている育成カリキュラムは大別すると
職級ごとの階層研修専門分野ごとの業務・技術研修に2つから成り立っていることが多いと思います。

また、研修の方法も単なる座学ではなく、学習心理学や学習モデルに基づいて研修デザインが工夫されるようになってきています。
この分野では現在、立教大学教授、執筆当時は東京大学総合教育研究センター助教授だった中原淳先生が第一人者で、中でも下記書籍が出世作といえると思います。

また、書店には社会人マインド、チームビルディング、コーチング、リーダーシップ等階層別研修の中で取り上げられるコンピテンシー開発関連の書籍が数多出版されているので、皆さんもどこかで読まれたことがあるのではないでしょうか?

プロフェッショナル研修、そして幹部研修

一方、各企業で歴史のある「業務・技術研修」、または「プロフェッショナル研修」と呼ばれる分野は業界や企業で独自のものが多く、あまり参考となる書籍は少ないかを思います。

しかし、「ジョブ型雇用」の世界、とくに「新卒ポテンシャル採用」が基本となっている日本企業では、人材育成においても「専門性」「プロフェッショナリティ」がより重要となってくるでしょう。

そして、上位マネジメントにおいても、「経営」に関する専門知識が必須となります。日本企業の事業部長以上の経営幹部でMBA的な基礎知識グロービスの少なくとも基本レベルの知識をしっかりと押さえている方はいったいどのくらいいらっしゃるでしょうか?


ある海外企業と大型M&Aを果たした日本企業の経営企画部長と話をした際に興味深いことを聞きました。
海外経験豊富な彼が合併後に始まる日本企業経営陣と海外企業経営陣との役員会議や幹部会議で一番心配したのは「英語力」ではなく、「MBA的な知識や分析力・ロジック展開力」だったそうです。

英語についてはしばらくは同時通訳をつければ何とかなるものの、日本の会議のような事前の根回し、会議では当たり障りのない発言、最後は何となくシャンシャンで終わるのでは、海外企業経営陣は何のために議論しているのか、会議の目的が何のか理解できず、すぐに日本企業の経営や幹部に失望するだろうと。
そこで、彼は現経営陣全員に合併前1年間かけて、語学研修とともにミニMBA講座やケースメソッドを受講してもらったところ、合併後の幹部会議活性化やPMI(Post Merger Integration)に大きな効果があったとのことです。

逆に言えば、欧米・諸外国では上級マネジャーはすでにMBAやディベート等の基礎知識を持った「頭でっかち」なのです。だから、CU側でリーダーシップ開発やチームワーク、そして、実践面の研修に力を入れたのではないでしょうか?

一方、日本企業は もともと和を保った経営が持ち味です。
ただ、この感覚で日本人がグローバル経営を担っていけるどうかは多いに疑問です。特に日本企業の組織風土は「和を以て貴しとなす」、日本人は上司にも(部下にも)忖度しがちです。

確かにチームワークも経営に重要な要素なのですが、一方で違う組織・専門分野の意見より深く客観的な事実分析に基づいた議論せずに、
チームの総意=「場の雰囲気」経営者の「勘ピュータ」に頼った経営スタイルがグローバル化した日本企業に少なからず残っていることに一抹の危うさを感じています。
日本で上級マネジメントを対象としたCUの研修メニューや自己啓発本で専門性よりもコンピテンシー開発が中心となりがちな現状は、日本企業の意思決定や経営スタイルがなかなか変容できず、野中郁次郎先生が書かれた名著「失敗の本質」から、日本企業もあまり変わろうとしていないのかもしれません。

以前、ミンツバーグ教授の「MBAは会社を滅ぼす」を紹介しましたが、
一方で、「いい人マネジメントでも会社を滅ぼす」と思うのですが、
どうでしょうか?



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