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人事・人材マネジメント(2):採用

人事テーマの中から、まずは「採用」について。

日本企業の新卒一括採用

多くの日本企業で「採用」と言えば、いまも「終身雇用」を前提とした
「新卒一括採用」が特徴となっています。
SPIや適性検査、複数回の面接を経て、毎年ほぼ同じ時期に、多くの就活生の中からその企業に合った(適性のある)学生を選別し、内定者を出していく訳ですが、そこで企業が見ているのは学生たちの「ポテンシャル」が中心となります。

マッキンゼーの採用マネージャーだった伊賀泰代さんが書かれた「採用基準」はハイレベルな学生・また、そういった学生を採ろうとする企業人事部にとってバイブルのような存在です。

この本に書かれていることは、マッキンゼーのような頭脳集団において、「地頭」「論理的思考力」より(それらに加えて)、日本企業やグローバル企業の「将来を担えるリーダー」になれそうか、「リーダーシップ」の資質(ポテンシャル)があるかどうかが重要な選考要素になっているということです。

しかしながら、それでも、多くの日本企業や外資系日本法人における新卒採用はあくまでも将来、自社で活躍してくれそうな学生の「ポテンシャルを見て採用」をしているということです。

各企業とも様々なテストツールや面談技法を使って、応募者の適性やコンピテンシーを分析しつつも、別の言葉で言えば、最終的には自社事業とケミストリーが合うか彼や彼女と一緒に働きたいかどうかが、採用基準になっているとも言えるかもしれません。

ジョブ型雇用における採用とは?

一方、欧米や他の諸外国での採用はどうなのでしょう?

下記、サイトに「海外におけるインターンシップ最新事情」が書かれていたので、いくつかの記事を読んでみると参考になるかと思います。

欧米やアジアにおいては、学生も大学で学んでいる専攻を生かして、インターン先や就職先を決めていますし、企業側もその専門性・実務能力を見極めるためにインターンシップ制度を取っているところが多いと思います。

大学でAccountingを学んでUSCPAを取得し会計事務所へ、ロースクールで法律を学んで弁護士事務所へといったルートや、一旦、就職後、MBAに入り直してコンサルティングやM&Aアドバイザリーへというのはイメージしやすいかと思います。

私が推測するのに、これはコンサルや会計事務所などプロフェッショナル・ファームだけでなく、ジョブ型雇用を採用している企業側では新卒であれ、応募者の専攻や知識・経験を最も重要視しているように思われます。

製造業の研究や生産部門であれば、工学部における専攻学科、人事部門は労務や人間関係学など専門分野を勉強した学生から、IT企業は情報工学からと専門特化し、単にゼネラルなポテンシャルを見ている訳ではありません

*欧米では、面接者による主観的な判断、自社とケミストリーが合うかどうかといったあいまいな判断基準で、きちんと事実に基づいた選考をしていないと、人種や性別に偏った採用を助長し、訴えられる危険性があります。

下記、車両レンタルサービス会社の事例は、大卒を大量採用している企業のインターンシップの例ですが、実際に「同じ業務」をやってもらっています。

彼らは新卒学生も「即戦力」としての活躍を期待し、2~3か月という比較的長いインターシップ期間に、実際にジョブにアサインしてみて、能力を発揮できるかどうか?、学生からは自分のスキルを発揮できるに値する職場かどうか?をお互いに見極める場としてインターンを活用していることがわかります。

・新卒社員を社内で育成し、人事、物流、購買、サプライチェーン、営業&マーケティングなど各業務分野の経営幹部に登用しています。
・エントリーレベルの人材採用では専攻は問いません。
・インターンシッププログラムの期間は10~12週間で、当社のインターンシッププログラムの最大の特徴は、新規採用正社員が入社後参加するマネジメント・トレーニング・プログラムとまったく同じ職務にインターン生が就くことです。
・したがって、現場のマネジメントに対して、インターンシップは空いたポストを数ヵ月間埋める手段ではなく、体験教育・学習の一環として体系化されたプログラムである

日本企業のインターンシップのように「就活の延長」で企業側から提供する数日の研修や職場体験で会社紹介を兼ねている状況とは、だいぶ雰囲気、目的が異なります。

欧米においては、まさに学生にとっても企業にとっても「就社」でなく、「就職」なのです。

日本企業に欧米型の採用は適用可能なのか?

さて、現在、日本企業ではメンバーシップ型からジョブ型雇用への転換が必要と言われています。

ある程度、企業内で自分の専門領域が定まっている中堅社員や管理職、また即戦力を中心とした中途採用では、この考え方はいろいろ別の課題はありつつも、マッチしてくるかと思います。

一方、新卒採用も、メンバーシップ型雇用を前提としたポテンシャル採用からジョブ型雇用の即戦力(期待)採用とすることは本当に可能なのでしょうか?

すでに日本企業でも大卒・初任給20数万円といった一律採用から、AI人材やベンチャー系人材については700万円や1000万円出す企業も出てきていますが、まだレアケースでしょう。

さらにジョブ型雇用を突き詰めると、研究・生産管理・営業・経理・人事等、職種ごとに、それぞれの専門領域の市場価値に見合った異なる給与水準を提示する必要が出てきます。

国家公務員では今も甲種・乙種の考え方が残っていますが、一般企業では総合職(本社採用・地方採用)、一般職などの区分が無くなり、大卒一律の給与水準テーブルになっていることが多いかと思います。

これは全国労組や企業別組合側が個々人の能力や成長を見ずに、採用時形態や学歴によって、始めから給与テーブルや昇給スピードに違いをつけることは「エリート主義の弊害」と主張し、大卒大量採用時に「始めはみんな仲良くよーいドン」であるべきと業界横並びの初任給制度が採用されていった結果ではないか?と推察しています。

それが今度は同じ大卒でもキャリア採用とノンキャリ採用をまた、分けるような話ではなく、採用職種(ジョブ)ごとに採用時の給与水準が分化していき、方や400万円、方や1000万円となることが、企業側にも学生側にも耐えらえるかどうかだと思います。

この議論・考え方の延長で、2014年に文科省の有識者会議が出したレポートが学識者側からの反発もあり、かなり議論になったことを思い出しました。

・文学・英文学部:「シェイクスピア、文学概論」ではなく
 「観光業で必要となる英語、地元の歴史・文化の名所説明力」
・経済・経営学部:「マイケル・ポーター、戦略論」ではなく
 「簿記・会計、会計ソフトの使い方」
・工学部:「機械力学、流体力学」ではなく
 「TOYOTAで使われている最新鋭の工作機械の使い方」

日本企業がジョブ型雇用の方向性に大きく舵を切り、新卒であっても専門性や即戦力を重視するのであれば、大学側も学生を企業の即戦力とすべく、「高度職業訓練校」になっていかないと、新卒社員のジョブ型雇用は日本では成立しないのではないでしょうか?

IGPIの冨山和彦さんの著書には、なぜグローバル経済圏(Gの世界)で戦う人のためのG型大学ローカル経済圏(Lの世界)で頑張る人を育てるL型大学に分けるべきか、荒れ狂う世界経済の中で日本の将来を見据えた深い分析をとともに書かれていますので、ぜひ、こちらも参考にしてみてください。

以上、メディアが書きたてるほど、「これからはジョブ型雇用だ!」というのは、いまの日本社会ではそうそう単純な話ではありません。

ただ、これまでの大卒一括、終身雇用前提の日本企業の採用形態や雇用制度が限界に達していることも事実ですので、どうシフトさせていくのか、現状とどうバランスを取っていくかは各社の経営幹部、人事部門に突き付けられている喫緊の課題だと私は考えています。


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