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リーダーシップ論(1):概論

10数年ほど前、人事部で上級管理職への登用や配置・育成を担当していたので、事業経営に必要なリーダーシップについて多くのマネジメント層や候補者と触れ合う中で、自分でもいろいろ調べて、深く考えたことがありました。
今回からはリーダーシップに関する理論や書籍、また実際の配置や育成、そして経営陣の一角として自分自身が考えてきた・感じたことを中心に書いていきたいと思います。

リーダーシップ理論の歴史

マネジメントとリーダーシップは異なるという話は随分、以前からありました。変革期の経営層・上級管理者に求められているのは「管理」ではなく「社員をリードする力」だと。

経営学の一分野としても、これまで企業経営におけるリーダーシップの必要性やその特性について、多くの研究がされてきました。
グロービスのサイトで、リーダーシップ論の変遷が分かりやすく、コンパクトにまとめられていますので、まずは紹介しておきます。

60年代までは軍隊におけるコマンダー(指揮官)やカリスマ型の強い信念をもって集団を指示し、成果を出すリーダーが一つの模範・理想とされる傾向が強かったと思われますが、
60年代以降は「条件適合理論」をベースにリーダーシップ特性についても集団の状況や部下の能力・性格において、合う・合わない、またリーダー自身も対応を変えていくべきだという理論が主流になりました。
有名なパス・ゴール理論では「指示型・支援型・参加型・達成志向型」の4つに分けていますが、これらのタイプ分けは後々、現代のコーチング理論にも応用されていったと推測しています。

変革型リーダーシップ

その後、80年代にハーバードビジネススクール ジョン・コッター教授から「変革型リーダーシップ」が広く提唱されるようになると、リーダー自ら企業変革を恐れずにリードしていく役割が期待されるようになりました。

ただ、ここで勘違いして欲しくないのは、ジョン・コッター教授自身、マネジメントの重要性を否定している訳ではありません。「変革期」の企業に必要なリーダー特性について強く述べているのです。

マネジメントとは、組織内のプロセスを計画し調整し統合することである。継続的改善に必要なのはマネジメントであるが、飛躍と変革に必要なのはマネジメントではなくリーダーシップである、と著者は言う。
リーダーシップとは、組織を誕生させ、あるいは激しく変化している環境に組織を適応させる役割である。成功を収める変革は70から90%はリーダーシップによってもたらされ、残りの10から30%がマネジメントによってもたらされる。

サーバント・リーダーシップ

変革型リーダーシップと前後して(日本ではやや遅れて)、提唱されるようになったのが、AT&Tマネジメント研究センター出身のロバート・グリーンリーフ教授による「サーバント・リーダシップ」です。

指示型・支配型リーダーシップと異なり、サーバントリーダーはまずは社員や部下への奉仕や支援を通じて、周囲から信頼をリーダーが得て、社員自ら主体的に企業に協力してもらえる状況を作り出すべきだと述べています。

ただし、ここでも「条件適合理論」に基づけば、組織や部下の状況が支援型に近い事業環境であることが条件の一つになると思われます。

また、本書の編集者の一人であるスピアーズは、サーバント・リーダーシップに必要な10の特性を上げています。

傾聴 (Listening)
大事な人達の望むことを意図的に聞き出すことに強く関わる。同時に自分の内なる声にも耳を傾け、自分の存在意義をその両面から考えることができる。
共感 (Empathy)
傾聴するためには、相手の立場に立って、何をしてほしいかが共感的にわからなくてはならない。他の人々の気持ちを理解し、共感することができる。癒し (Healing)
集団や組織を大変革し統合させる大きな力となるのは、人を癒すことを学習する事だ。欠けているもの、傷ついているところを見つけ、全体性(wholeness)を探し求める。
気づき (Awareness)
一般的に意識を高めることが大事だが、とくに自分への気づき(self-awareness)がサーバント・リーダーを強化する。自分と自部門を知ること。このことは、倫理観や価値観とも関わる。
説得 (Persuasion)
職位に付随する権限に依拠することなく、また、服従を強要することなく、他人の人々を説得できる。
概念化 (Conceptualization)
大きな夢を見る(dream great dreams)能力を育てたいと願う。日常の業務上の目標を超えて、自分の志向をストレッチして広げる。制度に対するビジョナリーな概念をもたらす。
先見力、予見力 (Foresight)
概念化の力と関わるが、今の状況がもたらす帰結をあらかじめ見ることができなくても、それを見定めようとする。それが見えたときに、はっきりと気づく。過去の教訓、現在の現実、将来のための決定のありそうな帰結を理解できる。
執事役 (Stewardship)
エンパワーメントの著作でも有名なコンサルタントのピーター・ブロック(Peter Block)の著書の書名で知られているが、執事役とは、大切な物を任せても信頼できると思われるような人を指す。より大きな社会のために、制度を、その人になら信託できること。
人々の成長に関わる (Commitment to the Growth of people)
人々には、働き手としての目に見える貢献を超えて、その存在をそのものに内在的価値があると信じる。自分の制度の中のひとりひとりの、そしてみんなの成長に深くコミットできる。
コミュニティづくり (Building community)
歴史のなかで、地域のコミュニティから大規模な制度に活動母体が移ったのは最近のことだが、同じ制度の中で仕事をする(奉仕する)人たちの間に、コミュニティを創り出す。

カリスマやコマンダータイプと異なり、このタイプはコミュニティから長年慕われている昔ながらの「村長さん」みたいな存在と感じたのは私だけでしょうか?

リーダーの戦い方

昨年、出版された早稲田大学ビジネススクール教授として有名な内田和成さんの「リーダーの戦い方」も良く見聞きする日本の経営者を例にタイプ分けしているので、非常に参考になります。

書籍の紹介文では

 リーダーシップに「正解(シングル・アンサー)」はない。
 あなただけの答えを見出せ!
 優れたリーダーは「自分が最も得意とする戦い方」で勝負する。
「自分が最も得意とする戦い方」にフォーカスしよう。

とあり、経営者やリーダーの戦い方を類型化した「リーダーシップ・マトリクス」が示す以下の4つのタイプのうち、自分が最も得意とする得意技で戦うことを薦めています。そして、自分に足りないところは経営チームの中で補えば良いのだと。

(1) ゴールを示して、人を動かす (軍師型:左脳✕戦略)
(2) 未来を語り、人を巻き込む  (ビジョナリー:右脳✕戦略)
(3) 人を動かす仕組みをつくる  (堅実派:左脳✕実行)
(4) 自ら最前線に立ち、牽引する (率先垂範型:右脳✕実行)

同じタイプ分けでも60年代の「条件適合理論」では事業環境の変化・違いにより、自分のリーダー特性をカメレオンのように変えていかなければならないように感じてしまうのですが、
内田教授のお話では決断力や実行力、先見性などリーダーに必要なスキルは磨きつつ、自分の得意な資質を徹底的に生かせ!「自己資質発揮理論」のように捉えられるので、リーダーを目指す皆さんも少し気が楽になりませんか?

noteにも、この本の書評を書かれている方がいたので、紹介しておきます。


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