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ドーン 2

読み終わったが、結局宇宙人は出てこなかった。
政治の問題が大きかった。
火星探査も政治利用と言えた。有人探査は時期尚早と言われていた。
大統領選があって、声が大きくて、ちょっと反対意見を言うと
「陰謀論だ」とかわめきだす人に対する、地味な候補がいた。
陰謀論ではなく、陰謀があった。
生物化学兵器の開発を、その禁止条約が適用されない地域でしていた。
軍事介入に投入する軍隊は、差別される貧困層の青年を
本人の意向を確認することなく送り出すし、傭兵も沢山使って
「アメリカ人死者」は少なく見えるようにしたり・・・

そんな世界だと知らない国民ばかりという事実。

宇宙船の乗組員のリリアンは、生物兵器開発をする研究員をしていた。
その時に予防薬として飲んだ薬の中に
妊娠しないためのピルを効かなくする成分もあったかもしれないとする。
彼女のインタビューは「化学兵器開発がある」ことを暴露するものとなった。それが大統領選の行方を決定づける。


そういう事と共に語られているのは
「ウィキノベル」というSNS上の小説を書くサイトで、
ちょっとの事実からいろんな予想想像空想考察を交えた小説を作り出し
それが世論の動向をけっこう左右するという世界。
書かれてしまっている登場人物本人もよく書けているよくわかるなと思うほど。
それから「散影」という、あちこちの防犯カメラの映像を誰でも検索できるようになった、いわばストーキングのシステム。
「似ている人がここにいた」と拡散されてしまうやっかいなもの。

もう一つの要素は「分人主義(dividualism)」
他者との関係において生じる自分は別な人間関係の中で生じる自分とは別だという考え方なのだけれど、どの分人が優位なのかとか、いろいろなことを当事者には悩ませるのであって。

こういう社会全体の大きな動きを書きながら
その中で翻弄されてアンフェタミン(覚せい剤)中毒にもなってしまう
主人公アスト。
一時は死んでしまおうかとも思ってしまう主人公を奮い立たせる言葉も
繰り返し書かれる。

「人間は役に立つから生きていていいのではない
 生きているから人の役に立ちたいのだ」
他者に対してただ「生きていて欲しい」と思う事はあるだろう と。


大きな世界の動きを書きながら、個人の「これから」を示唆して終わった。希望の持てる終わり方で。
なんとも読み応えのある小説だった。



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