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読書メモ:意思決定の科学 組織設計

「万能人」ハーバートA・サイモン。ノーベル経済学賞受賞者にして人工知能のパイオニアが予測した情報化社会と人間の意思決定の「未来」!
ハーバートA・サイモン/ 訳者:稲葉元吉、倉井武夫(1979年12月初版)


第4章:組織設計=意思決定のための人間-機械システム

サイモンは人工知能の進歩と人間の意思決定過程における進歩について指摘してきたが、本章ではそれらを経営組織として人間-機械システム(マン・マシン・システム)に統合する課題を論じる。

組織の階層構造

経営組織は3層の階層構造で描くことができる。下層は基礎的な業務プロセス、中層はプログラム化しうる意思決定プロセス、上層はプログラム化しえない意思決定プロセスをそれぞれ担う。これを製造業の例で具体的に示そう。下層では、原材料の調達、製造、製品の保管と配送、など実際に業務を実行する。中層では、これらの業務の具体的な実施計画を立てて管理する。上層では、こうした業務のプロセスを設計し、基本目標や目的を設定し、さらにその目的達成をモニタリングし、必要ならばその修正を行う。

このような基本的な階層構造は、情報技術の進歩、組織の意思決定におけるオートメーション化の進行(これらを、人工知能の進歩と組織の意思決定における活用、と同義と考える)によっても、大きくは変わらないであろう。階層構造は複雑なシステムに普遍的な構造だからである。複雑なシステムは、複数の下位システムから構成されるとともに、それらの構成要素がさらに下位システムで構成される「入れ子」構造を取ることも多い。

階層的な構造は、同じ規模の非階層的構造よりも速く容易に形成され、構成要素自体が安定的なシステムとなっている。また、各構成要素間の情報伝達の必要性がはるかに少ないという利点を持つ。N個の構成要素間の結びつきはNの2乗に比例するが、階層的構造を持つ場合の伝達経路はNに比例するのだ。階層的構造を持つ組織では、組織のある地位から見た複雑さは、組織全体の規模とは切り離される。社長は営業、製造、調達、管理など各部門の管掌役員を統括するが、工場長はその工場の製造や調達などの担当者を管理する、など階層ごとに「入れ子」構造となっているからだ。

階層構造は、限定された能力で複雑な状況に直面する時、システムとしてその複雑さに適応する形態なのである。

集中と分散

意思決定過程における集中と分散に関して、「経営トップによる意思決定への集中」と「下位レベルへの権限委譲による分散」という議論である。ここでサイモンは「分散は是、集中は非」という論調には警鐘を鳴らし、理想的な中庸を求めることの重要性を説く。その論点は事業部制への反省とも共通する。分権組織における下位目標と全体目標との不整合や相反するインセンティブの問題、相互依存するプロセスが同期されないことによる非効率(プロセス間の在庫の増加など)などの問題である。さらに、このような混乱した状況での意思決定はミドル・マネジメントへの効果的な動機付けを与えないということでもある。結論としては、意思決定における新しい発展であるオートメーション化の進行は、ミドル・マネジメント・レベルの意思決定活動をいくらか集権化していく傾向があるだろう、としている。

一方で、意思決定過程の構成要素がコンピュータ・プログラムに取り込まれていくことで、プログラムの利用を通じて組織内の階層全てにおいて、その基礎となる意思決定や分析が移転されることになる。従って、組織内のどこで分析や意思決定が行われようと問題ではなくなるのだ。実際、組織内のあらゆる部署・部門において、幅広い情報とさまざまな目標前提や制約条件が分析へのインプットとすることにより、意思決定が行われる場は今までよりも分散する。つまり、意思決定の基礎となる情報や前提条件の入手や設定を通じて、より幅広い関係者が決定過程へ参加することになる。結果として、このように意思決定の流れが公式の組織階層の枠を超えること一方で、(基礎となる分析や意思決定が共有されることで実質的な)意思決定の集中化が進む。

戦略的プランニング

意思決定の補助手段としてコンピュータ化された技術が活用される場面は、日常的な意思決定から、トップ・マネジメント・レベルによる戦略的プランニングにまで広がっていく。戦略的プランニングにおける新たな技術の利用は、トップ・マネジメントへの情報や助言を与える役割として、その機能の開発や整備を担当するスタッフがある程度膨張していくことを促すだろう。

2023年9月20日

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