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侠客鬼瓦興業71話「春菜先生の危機!イケメン三波の策略」

「ただいま戻りましたー」
イケメン三波は小声でそう言うと、保育園の教室へ入っていった。
「あら三波先生お帰りなさ・・・っ!ど、どうしたの、そのお顔は!?」
子供たちと遊んでいた園長があわてて腫れた顔の三波に近づいてきた。
「あ、いえ、ちょっと・・・」
「ちょっとじゃないでしょ、いったい何があったの?もしや、さっきの西条さんという方が?」
「いえ、違います、ちょっと転んだだけで」
「うそおっしゃい、転んでそんな怪我するわけ無いでしょう」
「本当に何でも無いんです、それよりも春菜先生はどちらに?」
三波は教室中を見渡しながら園長に尋ねた。
「春菜先生だったら、ユキちゃんと奥の部屋だけど」
「奥の部屋?」
「ええ、ユキちゃん、お熱が出て奥で寝てるのよ、春菜先生はそのお世話をしている所よ、それより今薬箱持ってくるから、そこで待っていなさい」
園長はそう言い残すと、別の部屋へと走っていった。イケメン三波は園長の姿が見えなくなると、薄笑いを浮かべながら春菜先生がいるという奥の部屋へのドアを開いた。 

「37度2分か、お熱はだいぶ下がってきたみたい・・・、ユキちゃん、今お母さんにお電話してあげるからね」
奥の一室で布団に寝ている女の子に春菜先生が声をかけた、そんな優しい言葉に少女はあわてて
「春菜先生お願い、ママ呼ばないで」
「え?」
「お願い、ママ大切なお仕事があるから、ユキ大丈夫だから」
「それじゃユキちゃん、ママに知らせるだけでも」
「お願い、ママお店のお客さんでいそがしいの、ユキのことで心配させたくないから」
「でもね・・・」
春菜先生は困った顔でユキちゃんを見たあと
「それじゃお熱もさがってきてるから、もうちょっとだけ眠って様子をみようか」
「うん、ありがとう春菜先生」
「ううん、でもユキちゃんはお母さん想いで、とってもやさしいんだね」
ユキちゃんは照れくさそうに微笑んだ。 
春菜先生は隣においてあった洗面器から冷たいタオルを取り出してしぼると、そっとユキちゃんの額の上に乗せてあげた。

「お腹すいてない?アイスとかヨーグルトとか、何か食べたいものあったら先生に教えて?」
「うーん、プリン・・・、ユキ、プリンが食べたい」
「そっかプリンか、それじゃ先生が今から隣のコンビニで買ってきてあげるね」
「ありがとう、ユキ、プリン大好きなの」
「へえ、そうなんだ」
「うん、でも本当はパパが作ってくれたプリンが一番好きなんだけど」
「えー!パパって追島さん?」
「うん、パパ、プリンでもケーキでも何でも作れるんだよー、ユキねパパのケーキを食べるのが大好きだったんだ」
「へえ、ユキちゃんのパパってそんなことも出来るんだ、先生びっくりだなー」
「えへへ、ユキのパパ何でも出来てすごいんだよー」
ユキちゃんはうれしそうに話した直後、ふっと暗い表情にかわった。そしててさっと布団の中にもぐりこんだ。
「ユキちゃん・・・」
「・・・・・・」
春菜先生はそっと声をかけたが、布団の中のユキちゃんは無言でときどき鼻をすすっているだけだった。

「そんなにパパのこと」
「・・・・・・」
春菜先生は布団の中で泣いているユキちゃんにやさしく
「今日はパパのプリンは無理かもしれないけれど、先生がおいしそうなのを選んで買ってくるから、ちょっとだけ待っててね」
そう言うとユキちゃんの布団をトントンと軽くたたいて立ち上がり、静かにドアを開けて廊下へ出た。

「!?」
春菜先生はそこで、はっと驚きの顔を浮かべた。そこには顔中を腫らしてじっと立っている、イケメン三波の姿があったのだ。
「み、三波先生!」
「やあ」
「な、何、その顔、どうしたんですか!?」
春菜先生はあわてて三波の下へ近づいた。 
「は、春菜先生」
三波は目に涙をうかべながらガクッと床にひざをつくと、突然彼女の腰にすがりついた。 
「た、助けて!助けて!春菜先生・・・」 
「どうしたんですか?何があったんですか?三波先生、ねえ三波先生!」
「助けてー、このままだと俺、殺される、助けて!」
イケメン三波はぼろぼろの顔をゆがめながら、春菜先生にすがりついて泣きじゃくった。

「殺されるって、いったいどうしたの?ねえ三波先生、三波先生!?」
「うぐ、うぐ、助けて、助けて・・・」
「ちょっと落ち着いて、落ち着いて訳を説明して?ね、三波先生・・・」
春菜先生は廊下に膝をつくと、真剣な顔で三波を見た。

「じ、実は恐ろしい人たちに脅されて追いかけられて、それで・・・」
「恐ろしい人って、さっきのプロダクションの方?あの人に脅されてそんな傷を?」
「違う、違うよ、あの人は関係ない」
「それじゃいったい?」
「ヤクザ、ヤクザに追われて」

「ヤクザ!?」 
春菜先生は青ざめた顔で三波の顔を見た、三波はぐしゃぐしゃの顔をさらにゆがめながら
「じつは俺、昔ある男から借金をしてしまったんだ」
「借金!?」
「うん、俺の母親が病気で入院しているとき、治療代がどうしても足りなくて」
「・・・・・・」
「それが、気がついたらその男とんでもないヤクザだったんだ、俺は50万、50万だけ借りたんだよ、それなのにその男しばらくして利子をつけて500万返せなんて俺に言い寄ってきたんだ」 
「ご、五百万!?」
「そんなお金用意できっこないだろ、それで俺、実はその男から逃げてたんだけど、今日見つかってしまって」
「それじゃ、その傷はそのヤクザの人に?」
「うん、外に出たところでつかまってボコボコに殴られて、春菜先生助けて、お願い助けてー!」
三波は再び春菜先生にすがりついて泣き始めた。
「た、助けてって言われても、いったい私にどうすれば・・・」 
「50・・・、いや30・・・、20万でも良いんだ、俺にお金を貸してくれないか?」
「お金!?」
「うん、とりあえずそのヤクザの男に金利として支払わないと、俺多摩川に沈められちゃうかもしれない」
「そ、そんな」
「助けて、お願い春菜先生、助けて、頼れるのは春菜先生だけなんだ、うえ・・・」
三波は春菜先生のひざに顔を押し付けると、おいおいと声を出して泣きじゃくった。 
「み、三波先生・・・」
春菜先生は泣きじゃくる三波をじーっと見たあと
「わかった、ちょっと待ってて」
真剣な表情で立ち上がった。
「春菜先生・・・」
「今から近くのキャッシュコーナーでお金下ろしてくるから」
「え、そ、それじゃ」
「だって、そんなひどい顔で困ってる三波先生、ほうっておけないじゃない、50万はちょっと私にも無理だけど20万くらいだったら」
「うん、いいよ、それで十分、それで何とか男と話が出来るから」
「じゃあ三波先生、ここで待っててください」
春菜先生はそう言うと小走りで外へ向かった。 
「春菜先生ありがとう、ありがとう」
イケメン三波は泣きながら床に頭をすりつけていたが、春菜先生の姿が見えなくなったのを確認すると
「しかし西条さんの作戦ってのは見事なもんだな、春菜の奴簡単にかかりやがったわ」
そうつぶやきながら顔を上げた。

「それにしても、相変わらずお人よし女だぜ、ていうかバカだなあれは・・・、あのバカなら時間の問題で風俗に沈められそうだわ、はは、ははははは・・・」
三波はふてぶてしい顔でへらへら笑い続けていた。

つづく
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※このお話はフィクションです。なかに登場する団体人物など、すべて架空のものです^^

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