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路面電車、部屋の中の象、テトラ―

トラムに乗ってぼーっとしていたら、4人掛けの向かい合ってる席の向かい側に、中年の男性がドスンと座って、ゴロンと仰向けになって、大きく伸びをしながらふあぁ~と欠伸をして、スース―寝始めました。

カプセルホテルですかここ。

3秒で寝られるのはのび太君だけじゃなかった。

日本では、電車の中で隣の人が揺れに身を任せて、うつらうつらし始める、なんてことがよくありますね。こちらでは、公共交通機関の中で寝ている人はほぼゼロです。

だからよく日本から来た人に「電車の中で寝ないでくださいね目立ちますからね狙われますからね救急車呼ばれますからね」なんて言うんだけど、そんなアドバイスを根底から覆すようなオジサンだ。

こういう時、ちょっと困るんですよね。

急に席を立ったら、相手を刺激する恐れがある。むくっと起き上がって「あんだコラァ?」と因縁をつけてくるかもしれない。

どうしよう。

「The Elephant In The Room」という表現があります。

何か大きな問題があるのに人々があえてそれに触れないこと。目の前にゴロンと転がるオジサンは、ヒトの部屋に勝手に入ってきてくつろいでる象である。

「象」で思い出したんですけど、近所に大きなピンクの象がいたことがあります。

何年か前、家の近くをてくてく歩いていて道を曲がったら、そこの家の駐車スペースに実物大の、しかも真っピンクの象がいた。

東京の王子駅近くに飛鳥山公園という公園があるんですけど、そこの「象の滑り台」みたいな感じだ。思わず自分の眼を疑った。自分にしか見えてないのかと思った。

近所の噂によると、その家の人はインド人で、親戚がインドからメルボルンに遊びに来た時に、その「ピンクの象の置物」をお土産に持ってきたらしい。

どうやって持ってきたのか、なんであんなにでっかい象じゃなきゃいけないのか、なぜピンクなのか、いろいろおかしい。

少ししてそのピンクの象は消えました。人や車の出入りにあんまり邪魔で処分されたそうです。

一年に一回くらい、そのピンクの象を思い出します。

思い出すたびに

ん?
もしかしてそんなピンクの象なんて本当はいなかったんじゃ・・・?
あたしの妄想だったんでは?

と恐ろしい考えに行き当たり、家族に「ねーねー、ピンクの象覚えてる?ほれ、あっちのくねくね道曲がったところのさ」と聞いて「あーあれね」と返ってきてほっとします。

もう象についての考察も尽きました。

これ以上、目の前のオジサンから意識をそらすのも限界です。

車両の中は平日の午前中で、割と空いています。

よりにもよってこの4人掛けに来るなんてさ。

この「なんで私の隣(前)に来るの!?ほかにいくらでも席空いてるよね?」という現象は古今東西よくあるみたいで、日本では「トナラ―」なる言葉もあるのですね。

【トナラ―】電車などで空いているのに、隣に詰めて座ってくる人のこと、なんだって。

隣に詰めてくる。きちんと詰めてくる。

...あれ!?..なんかに似てると思ったら、これってテトリスだよね・・・!?

なるほど、テトラ―の目で見たら、きっちり詰めて座りたくなってきた。てか、きっちり座らなきゃだめでしょ、ほら、そこ詰めて詰めて!って感じになってきた!



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