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短編集

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フィクション、ノンフィクションにかかわらず、書いた物語を更新。 不定期更新。
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【風景小説】乗り過ごした駅にて

「まもなくドアが閉まります」 切符片手に階段を駆け上がる私にもたらされた結末は残念なことに電車の乗り過ごしであった。 私は閉まりかけの扉をいちべつし、すぐさま電光掲示板を確認する。 次の電車まで、あと15分。 私はそのまま視線を携帯の液晶に落とし、画面に表示されていた列車を一本後ろに変更した。 太陽に熱されショート寸前の頭をフル回転させ、予定到着時刻とそこから目的地までにかかる時間を計算する。 はじき出された答えは、あいにくにも間に合う"かもしれない"という曖昧も

傘は天下の回りもの

友人が大学を辞めた。ちょうど大学四回生になる直前のことだった。 彼はなぜかよく傘を盗まれる男で、盗まれるたびに「金と傘は天下の回りもの」という謎の理論をかましながら私の傘に入ってきた。私はそんな彼の理論が好きだった。何回傘が無くなっても笑い飛ばす彼を見るたび、私はいつかこの人にも傘が回ってきますようにとこっそり神に願った。 そんな彼が大学を辞めた。以降、私は彼と連絡をとっていない。 ☔️ 「それ、みっちゃんの」 幼い子特有の丸く大きな瞳がこちらを見ている。子供とは思

降り注ぐ餅

君は、餅まきを知っているだろうか。 紅と白に染められた、大層めでたそうな餅を、二階ほどの高さの場所から主催者が放り投げる。地上に待機している参加者たちは、降り注ぐそれを空中で受け止めたり、取りこぼして地面に落ちたそれを拾ったり…… これがが餅まきである。 🎍 我が家の近所にある神社では、毎年一月の九日から十一日の三日間、商売繁盛を祈願する「えべっさん」と呼ばれる祭りが開かれる。 餅まきは、そのイベントの締めくくりとして行われ、祭りを大いに盛り上げていた。 🎍 私

夢十夜『ある男の背中』

二畳ほどの見慣れた脱衣室。 私は洗面台の鏡に背を向け、しきりに映し出された背中の様子を見ている。 背には黒い楕円形があった。楕円は握り拳ほどの大きさをしており、その色は深く、土砂降りの雨に打たれた古い礼服を彷彿させた。 「なんなのだこれは」 私は訝しげにそれを見つめた。吸い込まれるような楕円だった。しばし見つめたのち、手を伸ばし、触れようとした。しかし、楕円は肩甲骨のちょうど真ん中に座しており、四十肩持ちのこの身体ではどうにもこうにも、届きそうになかった。どうしたものか

#私の不思議体験「パラレルワールドに行った小学3年生の夏」

この体験をしたのは、確か私が小学3年生の頃だったように思います。 なにより随分と前なので確証が持てませんが。 小学時代の私は、結構不思議な体験をする体質だったみたいで、誰もいないのに外から歌声が聞こえたり(このとき、窓を開けると歌声は止まりました)する子どもでした。 母も小学時代に人魂を見たことがあると言っていたので、もしかすると私のうっすらとした霊感は母親譲りなのかもしれません。 長々と前置きを話していてもしょうがないので、そろそろ始めましょう。 私の不思議体験私の