『秋の長歩き週間』6日目

昨日の早朝は9度であったが、今日の早朝は更に気温が下がり、8度であった。布団を一枚しか被っていなかった為か、寒さに依って目が覚めた。尤も、まだまだ本来眠れる状態であった為、出掛ける予定の時間までは布団の中でうだうだと過ごした。浅い眠りを繰り返しながら、予定よりやや遅れて布団を出た。今日は友人の前田君と歩く約束をしていたので、遅れる訳にはゆかず、結局それなりに慌ただしい出発前となった。

しかし、いざ前田君と合流をすると、前田君が苦笑いをしながら「昨日飲みすぎた。」と言う。「ちゃんと水飲んだんか」と問うと、「いや」と答える。成程苦笑いである。話す内容こそ普段の前田君と変わらず元気なのだが、その様子がどうも元気ではない。それに加えて、今日は比較的長い道程である貴生川駅行きを計画していたので「この様子で歩けるのか。」と思った。他方前田君も同じ事を思ったようで、それならばと思い、万が一の場合の早期リタイアを提案した。すると場合に依ってはそれも検討するとの返事が帰ってきた。

とは言え会話内容自体は普段と変わらず、近況報告をしたり、しょうもない冗談を言い合ったりと、会話が尽きる事は無かった。お陰様で、多少疲れていた足の事も特に気にせず、歩く事が出来た。スイスイと足が進んだ。されど、やはり前田君はとうとう頭痛までしてきたようで、「すまん、今日はここで帰るわ。」と言い、結局彼は道中にある駅へ進路を変更してしまった。どうも前田君、この所仕事へも長い時間行っているようで、更に勉強にも時間を使わねばならず、おまけに人気者である彼は至る方面から飲みの誘い等があり、あまりゆっくりと休めていなかったらしい。そんな中でこの長歩きは、まあ厳しいだろう。別に無理に誘った訳では無いが、結果的に無理をさせてしまったかもしれない。

それでも、前田君のお陰で今日はよいスタートをきれた事には変わりが無く、前田君と別れた後も、スイスイと貴生川駅を目指して歩いて行った。空は雲一つ無く快晴。楽しい会話が出来て満足した心。快晴とは言え暑くは無い気温。多少痛いがまだ大した問題は無い足。スイスイと進むのに、何の障害も無かった。この数日、過ごしやすい気温である事から休憩時の読書は捗り、またそもそもその本は面白く、帰ってからは湯船に張ったお湯が身体に染み入り、母の料理は何でも美味しく、最高の質の睡眠が取れ、と、夢の様な時間を過ごしている。それに加えて前述した今日のこの好条件である。スイスイと足が進むのは勿論、心の奥底から、豊かさが湧き上がってくる。これ以上無く、最高の境地へ、入っている気がした。

苦しかった夏には、こんな感情は決して抱かなかった。こんな豊かさが、自分の奥底から湧き出て来るとは、あの夏には決して思えなかった。この豊かさには、強さを感じた。苦しかった夏の事など、解けない呪いの事など、もうどうでも良いと思える、強靭な精神がここにある様な気がした。そして、長く歩く事を許してくれる気持ちが良い気温、冗談を言い合ったり励まし合ったりする事の出来る友人、僕の気持ちを暖かくしてくれる仏教書、その全てが、とても有り難く思えた。これらの存在が、私の時間を間違いなく豊かにしてくれている。湧き上がる豊かさも、苦しみを跳ね除ける強さも、これらの有り難い存在が与えてくれている気がした。そう思うに至った次の瞬間、更に嬉しくなった。大いなる慈悲を、体感した気がした。

やはり私は、歩く事が好きだ。そして、この秋や冬といった季節が好きだ。七日間、毎日20km以上を歩くこの『秋の長歩き週間』も、いつの間にか残す所あと一日となっている。明日も早起きをして、歩きに行く。しっかり、楽しみに行く。その為に、今夜も美味しくご飯を食べ、しっかり柔軟体操をし、ぐっすりと眠る事にする。

おまけ


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