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尊厳を失った食堂カレーへの冒涜

私はわかっていた。
遅くも速くもなってしまわないよう、一定の速度を保ちながら思っていた。
ほんの気持ちばかりかけられた具のないルーと、溶けることができず申し訳なさそうなチーズ。水分を多く含み、尊厳を失った米。

(これは厳しい。)

小 / 中 / 大 と展開されている中で、小を選んだのは、紛れもなく少食だからだ。わたしは、米少なめルー多めのカレーが好きだ。
それなのにも関わらず、食堂のおばちゃんAは、米多めルー極少のカレーを生み出した。
そして隣のおばちゃんBに怒り散らかしていた。何故かは知らない。
ただ、その怒りのせいでルーが極少となり具の無い部分だけが注がれたのでは無いだろうか。
おばちゃんBは、怯えながらチーズを乗せてくれた。その時きっとこう思っただろう、(なんだこの比率がバグったカレーは。)と。

だがしかし、わたしは(わたしは今、「比率バグ尊厳消失カレー」を食べているのだ)という事実から極力意識を遠ざけて食べ進めた。
そうすることで、厳しいかと思われた「完食」を目指した。
わたしはひたすら音楽に意識を向けていた。
味わって食べないことは食材に対する冒涜、そんなことを考え出したら、より高次な冒涜が起こる可能性があるのだ。
ひたすら、聴覚に集中。Gateballers, ランタンパレード, ayutthaya, Polaris。

──幸いなことに、目標は程なくして達成された。
わたしは祈った。たとえそれが尊厳を失っていたとしても、今後一切食堂のカレーに対する冒涜が起こり得ませんように、と。

【完食】

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