革すら持たせない。
筋骨隆々とした男が遠く向こうから笑顔で歩いてくる。紺色のスーツを来た通勤ラッシュの群衆の中で、とても目立っている。なぜなら明るい茶色のセーターを着ているし、真っ直ぐ前を向いて笑顔だから。私の前には白いカーディガンを着た女性がいる。黒の鞄を持っているが、それはとても軽そうで鞄というより革のアクセサリーのようだ。その彼女の軽装と、どこか遠くから聞こえるくしゃみの音が、春の訪れを知らせる。笑顔の男性は遠くから近づいてくる。その彼の笑顔がこの女性に向かっていて、彼女の身体もなんとなく