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独立洗面台うえを、滑る水は迷いなく。

「え、独立洗面台。いいね!」

独立洗面台、いいね。独立しているのが、いいねなのだろう。この人にとって。洗面台、いいね!ではない。「独立」してるところが気に入った。好きだ。

「私、あなたのことが、好き。」
「え、そんな、その... なんていうか、どんなところが?」
「なんだろう、独立しているところ。」

もっと凛としていてほしい。独立しているところが好きな人は、好きなところを聞かれても、淀まないでほしい。スーッと、水が流れるように、答えてほしい。

「私、あなたの独立してるところが、好き。」
「もっと一緒にいたくはないっていうこと?独立しているところ...以外は?」

となってしまってもダメだ。淀んでしまう。

洗面台が独立。どうして、浴槽やトイレから独立したかったのだろうと、ふと、思うが、それはきっと端的に、他とはうまくいかなかったのだろう。同じ水を扱うからというだけで、浴槽やらトイレやらと一緒にされるのが、納得いかなかったのだろう。

「え、大学?テニスサークルですね。」というだけで、「うわ、っぽい!」みたいな、早すぎる他者の合点への納得のいかなさだろうか。

それともそれは、席が近いというだけで班にされて、なんかわからないけど書記係になるみたいな、何かによって自分の運命を定められてしまうみたいな、ことへの反発みたいな感じだろうか。

いずれにせよ、確かに「水周辺」というだけで、チームにして無理やりコラボレーションを強いられるのは、いささか乱暴で、いけない。

洗面台の上を、水が流れる。真上から見るとわかりづらいが、ここは緩やかな坂になっている。この独立洗面台の緩やかな坂を、水が流れる。ストロベリー味の歯磨き粉と、使い古された石鹸。チューブに描かれたそのウサギさんは、どこまでフラットな黒い目をしていて、昔チューイングガムみたいに私のことを扱った、部活の先輩のことを思わせて、思わず蛇口をひねる手に、ぎゅっと力が入る。

「私、あなたのことが、好き。」
「え、そんな、その... なんていうか、どんなところが?」
「独立。独立してるところ。」
「独立、してるところ?」
「うん、だから付き合ってほしい。」
「え、でも、そしたら、あなたのお墨付きの、私の独立が失われて、あなたのお墨だけつけられてしまいますよね...!? 」

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