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鈴寛さんのプログラミング教育論

 来年から、小学校でプログラミング教育が始まります。「AIに勝つ!」の後方の章でもこの件、詳述し、「論理的思考力を鍛えるのが目的」などの基本方針は良いが、単なるリテラシー教育に堕すことないよう、今後も注視が必要、としています。

 プログラミング教育関連のWebサイトで、こんな記事を見つけました:

最初のアルファベット4文字からして、なかなか謎ですね。「ふ」が3つに、曖昧(でわからない)の略とのことです:

「現在の経済環境はVUCA(ブーカ)の時代と言われています。Volatility(不安定さ)、Uncertainty(不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)がうずまく社会なのです。」

「何かをしようとすれば、必ずコンフリクト(衝突)やトレードオフ(一方を立てようとすれば、こちらが立たなくなる状況)が発生する。これを調整する力が求められるのです。」

 少し先走りました。これが、目次の4項目のうちの2番目です。

・コーポレーションからコラボレーションへ
★OECDの提唱する「生き延びる力」とは
・PDCAからAARサイクルへ
・プログラミングでAARサイクルを体得しよう

OECDの「Learning Compass 2030(ラーニング・コンパス 2030、教育の羅針盤)」が「生き延びる力」を次の3つに分類:

①新たな価値を創造する力(Creating new value)
②責任を取る力(Taking responsibility)
③緊張関係やジレンマを調整する力(Reconciling tensions & dilemmas)

拙著でもこれらはAIには担えない能力であることを示しています。AIを駆使しつつ、これらの力を効果的に発揮していくべきことに、何ら異存ありません。②では、「釜石の奇跡」が奇跡でないこと、すなわち片田さんという防災研究者が自分の頭で考え抜き、自発的に動いたことで、小中学生の99.8%が生き延びたことを、旧来の統制、統率教育を超えた成果としています。

 VUCAが出てくるのは③の調整力のところです。

「機械は、過去に人間が下した判断をすべて学習できます。前例踏襲の仕事はAIに任せられる。人間がやるべきは非連続な新しい事態への対処なのです。」

うーん、まだまだ、過去の人間の判断すべてをキャプチャーなどできませんが、数10年後にも人間にしかできない能力という意味ではまったく正しいです。

 不安定、不確実、複雑、曖昧な状況では、非線形の予想外の出来事の連続となります。したがって、PDCAは通用しない。故に、AAR、Anticipation-Action-Reflection(見通し、行動、振り返り)のサイクルで、ある程度見通したったら計画など立てずにすぐにやってみる。作りながら使えばすぐに、予想不可能だった問題点もすぐに顕在化し、そこを修正して完成に近づけていける。作ってデバッグするのが、今後の仕事の仕方だ、という主張です。

 AARは座学では身に付きません。やってみるしかない。そのためのプログラミング教育だ、と鈴寛さんは言い切ります。

「初めからバグのないプログラムはまず書けません。荒削りな設計ができたらまず書いてみて、エラーが出れば直し、少しずつゴールに近づける。

コンパクトなAARサイクルを高速に回せる点で、プログラミングは21世紀型のマインドセットへ転換するのに適した題材だと言えるでしょう。

福沢諭吉が『学問のすゝめ』で論じたように、人間の本質は五つの要素から成り立っています。それは身体、智恵、情欲、至誠、そして意思です。

プログラミングは道具にすぎません。どんな世界を作りたいか、そのために機械に何をさせたいか。その意思を持つのは人間なのです。」

 うーん、忖度、不祥事など見るにつけ、今こそ鈴寛さんに文部科学大臣になってほしい気がいたします。



 



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